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友情の始まり

教室の片隅で、いつものように本を呼んでいる。

恵美の視線は本に釘付けだった。

だから、周りのクラスメートは、いつも恵美をそっと遠巻きにしている。


恵美は、本が大好きだ。

実際に体験しなくても、ストーリーの登場人物と同じ感覚を味わえるから。

遠くへ冒険に行き、病の母を看病し、広い草原で馬や犬と戯れる。

どこへでも何でも体験できる。

魔法のような世界だと恵美は思っている。


美月は分からない。

恵美がそんなに本に夢中になるのが。

身体を動かし、校庭で走り回るほうが、断然愉しい。

でも、時々氣になる。

本を夢中になって読むのって、どんな感覚なんだろう?



「あぁ、かったりぃなぁ。雨だと外で遊べねぇじゃん!」

雨のお昼休み。

クラスで一番元氣な勇太が騒いでいた。

そんなことはお構いなしに、恵美は本を読んでいる。

「なぁ、恵美。そんなに本って面白いのかよ!」

勇太がからかい半分、恵美に声をかける。

恵美は本に夢中になりすぎて、勇太の声が聞こえてないらしい。

「そんなに面白いのか?この本」

そう言いながら、勇太は恵美の本を取り上げた。

「あ!」

ひと言だけ声を発するも、恵美は固まってしまった。

「なんだよ、この浄化の本って。
お前、汚いから浄化しないといけないのかよ!
やーい、恵美はばっちいでやんの!」

クラス中の空氣が固まる。

そこで美月が声を張り上げた。

「弱い者いじめする人こそ、浄化したほうがいいんじゃないの?」

その凛としたひと言で、クラスの緊張感が変わった。

「な、なんだよ。美月。
俺のどこを浄化しなきゃいけないって言うんだ」

「人をいじめるとそれはいつか自分に返ってくるよ。
冷たくしたら、人に冷たくされる。
やさしくしたら、人に優しくされる。
それがこの世界のルールだから」

「う、うるせぇ!」

本を恵美に叩きつけるように置くと、勇太は教室から走って出ていった。

「美月ちゃん……ありがとう」

「いつも本を読んでいる恵美ちゃんが氣になってたから。本のことも知りたかったしね」

「じゃあ、これ貸してあげる」

それは先程の浄化の本をだった。

「え?これ、大切な本じゃないの?」

「大好きすぎて、もう一冊家にあるから。これは持ち歩き用なの」

美月はパラパラとページを捲る。

可愛いイラスト。

ちらっと読めた心地よい文章。

草花をかわいいねと言うことも浄化になるのか。

なんか氣になる。

「……いいの?」

「もちろん!」

恵美と美月の間に柔らかい空氣が流れた。

遠巻きに見ていたクラスメート達。

エネルギーに敏感な数人は、二人にたくさんの光が注がれているのを感じたことだろう。


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