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私小説【愛と恵みがいつまでもありますように】血の婚礼

もう22時を過ぎている。あれから1週間、ようやく、子宮が落ち着いてきました。それだのにカレンダーを見たらあと4日後には新月が来る。憂鬱です。明日には病院に行ってまた頓服薬をもらってこないと。

血の婚礼、これは民間伝承によるとヴァンパイアの伝説に似ているようです。あのヴァンパイア伝説もこの厄介な病と関連していたなんて、しかし、血と性とは似たようなもの、どちらも体液ですから。生と死はとても似ている、私は病を経てそうも思うようになりました。

アルファはオメガバースの血液を欲します。性器から漏れ出る生々しい匂い以上に、もっと生に直結した体液である血の匂いに欲情するのだそうです。しかしこれはアルファとオメガバースの迎合すべてに言えることではなく、特別な存在である証でもあるのだそうです。

担当医はこの珍しい症状を聞いたとき、ぜひ研究対象にさせてほしいと言ってきました。ですから、こんなふうに日誌として記録をつけることで医療費が免除されるという経緯もあるのです。

オメガバースは免疫の異常を来たす自己免疫疾患でもあります。オメガバースの性ホルモンの発達が免疫を過剰にさせていると言えば平たくてわかりやすいでしょう。免疫の過剰分泌により、オメガバースはメンタリティの防衛本能と細胞の防衛組織がより強化されます。彼女たちが音や刺激に敏感なのは二次疾患としてすでに報告がされているようです。他方、アルファは性ホルモンが過剰分泌されればされるほど、人として強化されていきます。それは脳の発達を含め、骨格や筋肉が、ひいては体中のたんぱく質が増長していくのです。より狡猾な作戦を考察でき、その作戦を実行できる力が備わるのです。この双方の組織に共通項が生まれた時、血の婚礼が起こるのではないか?と主治医は仮説を立てています。

これは仮説ですが、レイのDNAの型の一部と私のDNAの型の一部が同じであるからではないかということなのです。自己免疫、つまり防衛本能の現状を測る時、抗dna抗体というもので調べます。抗体がつまり免疫がdnaの核とくっつくときに増長し血液中に増えていくのです。免疫が最大限になったとき、アルファの体が最大限に強化される。そう、この追うものと追われるものという関係性はDNAの合致が関係しているのではないかということなのです。ですから、精液ではなく血液を欲するのではないかと。アルファは合致を求めオメガバースは合致を恐れる。しかし勝ち目はアルファにあるのは当然です。強化された体と防衛にだけ特化した体では……。

この血の婚礼の恐ろしいところは、自分が属するDNA集団をオメガバース自身が求めてしまうようになるということなのです。合致を恐れるのは身を滅ぼさないための防衛本能の最初の反応だとも言えます。

発情期から一週間、私は今日もレイを求めてしまいました。約束の時間を一秒でも遅れると烈火のごとき怒りを抑えられなくなります。レイはそんな私のわがままを優しいまなざしで心の底から喜んでいるのですから始末が悪い。

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