【創作小説】折れかけのラジオ
劇場メンバーへの道は遠い。
「恵里佳ー!!」
居酒屋でそう叫ぶのはもうすぐ東京に行く同期の山吹紗英。
紗英は養成所を卒業してすぐ、劇場メンバーになった同期の中でもエース級。
私は劇場メンバーにもなれないのに。
「恵里佳さ。やり残した事ない?」
他の同期は苗字で呼んでくるが、紗英だけは名前で呼んでくる。女同士だから気軽に呼べるのだろう。
「桜梅みたいにコンビ組みたかった。あたしはずっとピンやったから…」
そう。私はこの春でお笑いを辞めるつもりだ。
お笑いを辞めたらしばらくはフリーターの予定。
この事を知ってるのは同期だけ。
誰にも止められることなく辞める。そのはずだった。
「新内!!!!」
駆け込んできたのは、たくさんの同期たち。
「新内さ。お前、辞めるってホンマなん??」
イケメンだけど少しだけ暑苦しいのが残念な新垣が言ってくる。
「まあね。小春日和も少しずつ売れてるし私は何年もしがないピン芸人。ここで区切りつけて、辞めたほうがいいかなっておもったんだ」
「俺は新内が面白いってずっと思ってる。折れずにやればいつか絶対見てくれる人はいる。やから、辞めるのやめや?」
新垣は少し泣いていた。
他の同期たちも泣いている。
決めていたはずの心が揺れる。
「みんなありがとう。私、もう少し頑張ってみる。やから、見守っていてくれへん?」
そう言った直後のみんなの笑顔は一生忘れないだろう。