Louis式☆ベストファイブ2024年5月号

この記事は続きものです。企画の趣旨については、前回・前々回の記事を参照してください。

では、ランキングはじまり、はじまり。

第5位 サイゼリヤ「ティラミス クラシコ」

味に特色のあるデザートで、おいしかったです。食感は柔らかく、複雑な味わいです。瑞々しさが強いです。甘さは控えめでした。

第4位 夕波とんぼ『パラボラ』

本作は全体的に共感を誘う場面が多く、技巧的にも優れていると思いました。

特に、春樹が監督に罵倒された過去を思い出して泣き出す場面は深く共感しました。周囲が普通に仕事をしている場面で、ああいう風に罵倒されるといたたまれない気持ちになります。

物語全体を貫く緊張感に反して、桜井は最初から最後まで春樹に対して拒絶的な態度を取らなかったことで、読者としては安心感を覚えました。

技巧的には、4ページ目から12ページ目にかけて頻繁に場面転換することによって、物語全体に厚みが生まれています。

第3位 スティーブン・R・コヴィー『7つの習慣』

私は正直、この本に批判的です。にもかかわらず、プラス方向であれ、マイナス方向であれ、実りの多い読書だったため、この順位です。

まず良い部分に言及します。

第三の習慣で主に語られるマネジメント論については、予想以上に詳しく、「テキトーな抽象論ばっかりを振り回すビジネス書じゃないんだ」と少々意外でした。また個人の偏見としては、意識高い系の人が言っていることは全部この本の焼き直しに過ぎないに確信しました。そういう人と対面したときには、この本を念頭に置いて質問しようと思いました。

批判的な意見としては、本書の理論に疑問をもっています。

コヴィーさんは論敵として、三種類の決定論を取り上げます。本稿で重要なのは二つ目の「心理学的決定論」です。

二つめは心理学的決定論である。その基本的な主張は、「両親の育て方のせいだ」ということである。

スティーブン・R・コヴィー『7つの習慣』ジェームス・J・スキナー、川西茂訳、キング・ベアー出版、81頁。

コヴィーさんは決定論を以下のように説明します。

これらの理論は、パブロフの犬の実験に起因する刺激と反応のモデルに基づいている。その理論を簡単に言えば、私たちは、ある特定の刺激に対して特定の反応をするように条件づけられるということである。

同頁。

生理学的な理論で、決定論が説明されます。以上を踏まえて、コヴィーさんは人間の本質について、以下のように論じています。

つまり、人間は刺激と反応の間に選択の自由を持っているということである。この選択の自由の中にこそ、人間の人間たる四つの独特な性質〈自覚・想像力・良心・自由意志〉がある。

スティーブン・R・コヴィー『7つの習慣』ジェームス・J・スキナー、川西茂訳、キング・ベアー出版、84頁。

コヴィーさんは心理現象が自由意志に従属すると考えています。しかし、私は思います。コヴィーさんは心理現象の自由性を主張するとき、ヴィクトール・フランクルさんの体験を引きますが、フランクルさんは果たして悪夢を見なかったでしょうか。私が想像するに、自らがガス室に送られる情景と過去の欲望が奇妙に混在した悪夢を。

第2位 中野剛士『日本経済学新論――渋沢栄一から下村治まで』

中野さんの議論には、強い説得力を感じました。

中野さんに啓蒙された点は、二つあります。一つ目は、学問観。二つ目は、人間観です。

一つ目について。中野さんは渋沢栄一さんの思想を以下のように説明します。

理論とはすなわち実行であり、学問とはすなわち実践である。[…]この「実学」(あるいは「生活学」)を、敢えて現代思想の用語を使うならば、「プラグマティズム」と呼ぶことができる[中野二〇一二]。
 渋沢の論語主義とは、プラグマティズムのことなのだ。

中野剛志『日本経済学新論――渋沢栄一から下村治まで』ちくま新書、41-42頁。

中野さんは、学問と実践の一致をプラグマティズムに接続します。学問がプラグマティズムであるという主張に対しては膝を打ったし、ワクワクしました。というのも、学問は生活と直結しているからです。

二つ目について。中野さんは伊藤仁斎さんの思想を以下のように説明します。

仁斎は、人間を関係論的(relational)あるいは社会的存在とみなしていた。[…]人間というものは、社会的な関係を結んでいなければ人間たり得ないという存在論哲学である。[…]人間とは、関係論的・社会的存在であり、そのような存在を可能にするのが、様々な人間関係を結ぶ慈愛の心、すなわち「仁」である。[…]仁は、社会関係を結び、人々の間の協力行動・集合行為を可能とする。

中野剛志『日本経済学新論――渋沢栄一から下村治まで』ちくま新書、58頁。

中野さんは個人に先行して、人間を関係論的・社会的存在であると捉えています。この見方は、人間の行動原理を個人の良心に求める『7つの習慣』と好対照をなしています。

人間は常にすでに関係のなかにあり、「仁」がそれを可能にしているという考え方は、私の人間観とも一致します。私は、中野さんの議論に強い説得力を感じました。

第1位 ベートーヴェン『交響曲第九番』

全体的に、シンプルなリズムと力強い旋律でゴリ押しする楽曲だと思いました。

リズムとしては、シンプル。そんなリズムがポピュラー音楽にも似ていて、ノレました。

第一楽章では、低音域からせりあがってくる旋律が良いです。第三楽章の後半では、拍子に少し変化があり、楽しめました。第四楽章では、怒涛の畳みかけに圧倒されました。


今月は以上です。まとめてみた感想としては、クラシック音楽で指揮者ごとの解釈の違いも聴き分けられるようになると最高なんだけどな、と思いました。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました! また、来月も読んでいただけると嬉しいです。

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