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「対話型アート鑑賞」とは何か

「対話型アート鑑賞」という手法をご存じでしょうか。

ひとり静かに美術館でアートを鑑賞する方法ではなく、複数の鑑賞者同士で気づいたことや感じたことを話し、お互いに気づきを得ながらアートを鑑賞する手法を「対話型アート鑑賞」と呼びます。

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ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開発されたこの手法※は、主にアメリカのこども向けの教育プログラムとして広まりました。

※VTS(Visual Thinking Strategy)と呼ばれています。

また、最近日本でも広まりつつあり、例えば企業向けの研修などでも対話型アート鑑賞が取り入れられています。コミュニケーション力や観察力、傾聴を学ぶ、事実と解釈を分けて考えるトレーニング、などの目的で導入されています。

この記事では、対話型アートファシリテーターとして活動する私が感じる、対話型アート鑑賞の魅力を3つご紹介します。


魅力①知識不要

一番面白いと思うのは、アートに関する知識は一切不要なこと。

知識、つまり、時代背景や作者のこと、作品に込められた意図などは、対話型鑑賞では一切使いません。

具体的には、「この絵はピカソの絵で、タイトルは『〇〇〇』という。時代背景としては〇〇で、ピカソは〇〇を表現したと言われています」など、よく美術館で紹介されるような解説は一切省いた状態で、気づいたことや感じたことをただ率直に話すのが対話型アート鑑賞です。

美術館で対話型アート鑑賞を実施する際は、タイトルや作者が書かれているプレートは隠した状態で鑑賞することもあるそうです。

また、私はオンラインでの対話型アート鑑賞を実施していますが、鑑賞者には、必ず鑑賞が終わってから知識(タイトル、作者、年、時代背景など)を共有するようにしています。その方が、それぞれの鑑賞者がより自由に自分のイマジネーションを膨らませて発言できるからです。反対に、先に知識を伝えてしまうと、どうしても知識に引っ張られた見方になってしまいがちで、自由度が下がると感じています。

魅力②正解はない

先の見通しが立ちにくく、変化のスピードが早い世の中になったとよく言われます。私自身、本業は会社員ですが、「正しいのは何か」ではなく、正解はない中で何を選ぶか、事実をどう解釈して、どんな価値を作っていくかが、より大事なスキルとなりつつあると実感しています。

この「正解がない」状況は、アートの鑑賞と似ています。

アートの鑑賞においては、正解はありません。正解はないから、自分と他人の意見が違っていいのです。多様な考え方がある中、自分はどう考えるか?を鍛える場として、対話型アート鑑賞は最適な場と考えています。

実際に参加いただいた方からも「私は暗い印象と思ったけど、他の人は明るい印象と言っていた」「Bさんが『服装』と発言して、初めて服装が目に留まった」「感じ方や視点が人それぞれ違って面白い」「正解を気にせず、自分の感じたことを自由に発言できるって気持ちがいい」などの感想をよくいただきます。

私自身も、参加される鑑賞者それぞれの視点や考え方の違いを楽しみながらファシリテートしています。

魅力③観察力が磨かれる

対話型アート鑑賞をはじめてから、ものをじっくり眺めて観察する力が身についてきたと実感しています。例えば、タンポポが咲いているとします。息子が「タンポポ~」と言いながら、花をちぎって持ってきてくれます。以前の私なら「きれいだね」と一緒に花を愛でているだけでしたが、対話型アート鑑賞をはじめてからは、じっくりと花の形や色、大きさや感触、匂いなどを味わうようになりました。息子にも「どんな形?」「どんな匂いがする?」など、感じたこと聞いては会話を楽しんでいます。

じっくり見る力は、会社員としての仕事でも活きてきています。

例えば、競合他社の製品を観察するときも、じっくりとまずは全体像、そして詳細を目でとらえる時間を確保するようになりました。1分はじっくり眺めます。また、同僚が「いい製品だね」と言ったら「どこを見てそう思った?」とアートを鑑賞するように質問し、事実と解釈を分けた上で、より相手の発言を理解できるようになりました。

最後に

対話型アート鑑賞の3つの魅力について書きましたが、いかがでしたでしょうか。対話型アート鑑賞に関しご質問やご意見などある方は、ぜひお気軽にコメントください。

以下は、対話型アート鑑賞に関する参考書籍です。他にもたくさん書籍がありますが、こちらの3冊は対話型アート鑑賞の本質を知るのに役立ちました。特に『教えない授業』はアートに関係なく、学校の先生や社会人向け講師をされている方にも大変おすすめです。


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