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面影

ひかりに名前をあげるだなんて無粋な営みが、すっかりあなたを塗り替える。それもこれも神様のせいなのだから、あなたに名前があるのだって対等な一瞬間のスパークだとわかった途端、手紙だって正しく無意味になる。触れ合えない目と目がなにもかもを物語るのを見届けるためだけの生。

水中ではなく波の直中にじっと立ち止まって、夜が明けるときのグラデーションを反芻しているうちに、わたしたちのかつての生は丁寧に巻き戻される(それはわたしの手の中に収まり、あの懐かしい惑星によく似た温度を保っている)。

さわさわと木陰を映した残雪に、わたしはひっそりと面影をみる。

あなたは既に、海底でさえわたしの声を聞き分けられる。真昼間の空でやけに低く飛んでいる飛行機を指さした瞬間のデジャブ。おそらくは、爪や睫毛が伸びる速さが指し示す生活のリズムが、その起伏も含めて一定に刻まれていること。

だから、本当はなにも悲しくはなくて、それこそが本当に悔しいのだと、きちんと折りたたんで忘れて、開いて折り目をなぞって思い出す。
それは単純な輪廻。

あなたはやがて、きれいさっぱり脱ぎさって(それはもちろん鱗や翅も含め)、再会の支度を執り行う。
わたしは未だ立ち止まっている。



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