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コルセット・ドレス【課題:結婚式】

登場人物
小野 由理(28) 藤の婚約者
藤 雅美(63)デザイナー/藤の母
藤 公一(28)由理の婚約者
小野 和美(57) 由理の母
小野 優(写真のみ) 由理の父/故人 (40歳手前位)

式場の女性 取材陣 記者

○小野家・仏間(夜)
   仏壇に飾られてある小野優の遺影。

○同・由理の部屋(夜)
   ベッドと本棚のある部屋。壁に清楚な
   ウェディングドレスが掛けてある。
   小野由理(28)が机に向かい、考えたり筆
   を止めたりして、便箋に認めている。
   傍に『お母さんへ』と書かれた封筒
   と写真立てがある。優と幼い由理が写
   っている。
   筆を置き、写真をしばし見た後、本棚
   に向かう由理。
   本棚から古びたノートを取り出す。表
   紙に『えにっき 2ねん3くみ おの
   ゆり』と記されてある。パラパラと捲
   り、あるページで手を止める由理。
   新郎新婦らしき男女が並んだ拙い絵。
   その下に殆ど平仮名の日記が書いてあ
   る。『7月12日。今日はお父さんと
   お母さんの結婚記念日だった。ゆりは
   お嫁さんになる時、お母さんの着たド
   レスを着て、お父さんと並んで歩くと
   約束した。お父さんもお母さんもとっ
   ても喜んでくれて、嬉しかった』
   読み終え本棚にノートを戻すと、壁の
   ドレスを見つめながら近付く由理。
   思い詰めた表情で、ドレスの一部をぎ
   ゅっと握り、
由理「……」

○式場・打合室・中
   テーブルを挟んで向かい合う形で、片
   側に係の女性、反対側に由理と藤公一
   (28)が並んで座り、挙式の打ち合わせを
   している。
   資料から顔を上げ、笑顔で由理に、
女性「では、ご両親へのお手紙はお母様宛の
 みという事で。いいお手紙にして下さい」
   頷く由理の肩をそっと抱く藤。
   テーブルの資料を整理しながら嬉しそ
   うにモジモジしつつ、藤に、
女性「ところで、やはり新婦様のドレスはお
 母様がお仕立てになられるのですか?」
藤「え……ああ、ええ。そ、そうかな」
   女性、手を組んで由理に向き直り、は
   しゃぎながら、
女性「お幸せですね、新婦様。世の女性達の
 憧れの的じゃございませんか!」
   困惑が交じった苦笑いをする由理。
   テーブルの上にあった結婚情報誌を数
   冊開いて並べる女性。指差しながら、
女性「これも、これもお母様のデザインです
 よね?お選びになる花嫁様多いですよ!」
   愛想笑いする藤。押し黙る由理。
   女性が『ウェデイングドレスデザイナ
   ー・藤雅美』の特集ページを開く。雅
   美の写真と『21世紀のコルセット復元
   師』というキャッチフレーズが掲載さ
   れている。
   雅美の写真と藤を見比べて、
女性「あーやっぱり似てらっしゃいますね」
   照れ笑いする藤、由理と目が合う。
由理・藤「……」

○アトリエ藤雅美・外
   『アトリエ藤雅美』と書かれた看板の
   ある洒落たデザインの建物の前に、由
   理と藤が立っている。
   由理の両肩を持ち、見つめて、
藤「ちゃんと言ってやるから、安心しろ」
   大きく頷く由理。

○同・アトリエ・中
   数多のウェディングドレスが並んでい
   るアトリエ。
   極端に腰の部分が細いドレスを着た由
   理が困惑した顔で鏡の前に立っている。
   時折胸を押さえては息を吐き苦しそう。
   由理の周囲をグルグル周り、ドレスを
   チェックする藤雅美(63)。気になる箇所
   を逐一裁縫道具で修正している。その
   様子を後ろで見ている藤。ドレスはあ
   る程度出来てはいるが、まだ仕立て途
   中の段階。
   鏡越しに後ろの藤を見る由理。藤、う
   ろたえながらも意を決した様に、
藤「しゃ、社長、お、お話が……」
   真剣な面持ちで、作業を止めずに、
雅美「何?」
藤「挙式のドレスの件なんですが……」
   手を止めて、思い出した様に、
雅美「あ!そうだ、言うの忘れてた」
   雅美を見る由理と藤。
雅美「挙式当日はプレスが入るから」
由理・藤「えっ?!」
雅美「私の新作発表会よ〜、当たり前でしょ」
   由理に向き直り、見つめて、
雅美「最高の結婚式を迎えさせてあげるわ。
 私のドレスの力で」
   得意げな顔で張り切って作業に戻る雅
   美、作業をしながら、
雅美「で、ドレスがどうかしたって?」
藤「……いえ、何でもないです」
   目を見開いて鏡越しに藤を見る由理。
   手を合わせ『ごめん』と無音で口を
   動かす藤。眉間に皺を寄せ、口を開き、
由理「……」
   口を真一文字に結んでから、雅美に、
由理「お義母さま、私このドレス着れません」
   驚いた表情の藤。
   ドレスの腰紐を眺めて、
雅美「あら、ちょっとキツい?でもこれ位細
 い方がキレイに見え……」
由理「着たいドレスがあるんです」
   突如、表情を曇らせて、
雅美「……何ですって?」
由理「突然すみません。でも作り上がる前に
 言っておいた方がいいと思って。それに一
 生に一度の晴れ舞台、後悔したくなくて」
   しばしの沈黙。ふぅと息をつき、藤に
   吐き捨てるように、
雅美「今日中に仕上げるから、何か食べ物買
 って来ておいて。今晩は徹夜ね」
   目を見開く由理に、鼻であしらう様に、
雅美「このままで居てもらうから何も飲み喰
 い出来ないと思うけど、我慢なさいね」
   いきなり腰紐をキツく縛る雅美。胸を
   詰まらせ、顔を歪ませる由理。
   由理の耳元で、
雅美「私のドレスを世に知らしめる場なの。
 あなたの晴れ舞台じゃなくてよ」
   作業を再開する雅美。
   顔面蒼白の藤。
   わなわなと口を震わせる由理。

○小野家・仏間(朝)
   カーテンの隙間から朝の光が部屋に差
   し込んでいる。由理が仏前で項垂れる
   様に座っている。
由理「お父さん、約束、守れないかも」
   顔を上げ、優の遺影を見つめて、
由理「せめてドレスは着たいよ……」
   ボロボロと泣き出す由理。
   小野和美(57)がそっと襖を開け、由理の
   様子を窺いながら入って来る。由理の
   肩に手を置き、
和美「ドレス、着れそう?」
由理「……難しいかも」
   優の遺影を見る和美、ゆっくりと、
和美「どんな目に遭っても、自分の想いに素
 直に生きろよー」
   和美を見る由理。由理の顔を見て、
和美「生きてたらきっとそう言うわ、父さん」
   優の遺影を見つめる由理。
由理「……」

○結婚式場・ホール・中
   T・結婚式当日。
   天井が高いホールの中央に赤い絨毯が
   敷かれた長い階段がある。
   階段の頂上には重厚な造りの扉がある。
   階段の下は雅美の新作発表を持つ多く
   の取材陣でごった返している。
   ホール中央に置かれたスタンドマイク
   前に白いタキシード姿の藤が立つ。
藤「お集まり頂きありがとうございます。私
 の結婚式に先立ちまして、只今より藤雅美
 ブランドの新作発表会を執り行います」
   拍手が起こるホール内。
藤「では、藤雅美よりご挨拶です」
   喝采を浴びながら登場する雅美。
   マイクからはけた藤の元に、慌てた式
   場スタッフが近付き、耳打ちをしてい
   る。驚きたじろぐ藤。
   雅美、マイクで話し始める。
雅美「かなりの自信作が出来ました。今回、
 僭越ながら愚息の嫁がモデルを務めます。
 ま、くどくど話すより見て頂いた方が早い
 わね。では、どうぞ」
   扉の方を手でかざす雅美。
   ゆっくりと扉が開くと、ホール内に感
   嘆の声が洩れる。それと同時に、一斉
   に焚かれるフラッシュ。
   目を見開く雅美。
   しなやかなシルエットのウェディング
   ドレスを纏った由理がゆっくりと階段
   を降りて来る。
記者A「これは新しいデザインだな」
記者B「藤雅美の新境地か?!」
   次々と意見を述べる取材陣たち。
   雅美の元まで由理が来る。
   雅美、顔を引きつらせながらも、由理
   をエスコートする。由理も雅美も前を
   向き、取材陣に笑顔で応えながら、
雅美「私が今まで今まで手掛けた結婚式の中で、一
 番最悪なものになりそうだわ」
   由理、雅美の言葉を受け、
由理「私の人生で、最高の結婚式になると思
 います」
   繫がれたままの由理と雅美の手。


創作の製作過程を覗きみて、楽しんでいただけたら。