【パロディ】東海道中膝栗毛_初編(7/8)
さて、前回のお話では弥次さんが五右衛門風呂に初挑戦したわけですが、今度は北八の番です。
リアルではありえないことながら、北八は着物を脱ぎ捨て、マナー違反も甚だしく、かけ湯すらせず風呂桶の中に勢いよく片足を突っ込みました。
「ぁぁ熱っっっつ!! なんだこれ?! おい弥次さん! ちょっと来て!」と、北八が呼ぶと、
「騒がしいな。どうしたんだ?」と、弥次さんが座敷から姿を現します。
「『どうしたんだ?』じゃねーよ! お前この風呂、どうやって入った?」
「どうやって、って... えーっとね、まず股間の大事なところをよーく洗って...」
「それを聞いてちょっと安心したけど、そんなこと聞いてねぇよ。この風呂、釜がむき出しになってる」
「まぁ最初は熱いけど、我慢してればそのうち慣れるよ」
「ふざけんな。我慢なんかしてたら、お前は叉焼になるくらいで済むだろうけど、僕だったら真っ黒こげになっちゃうだろ!」
「...どういう意味?」
「いえ、べつにw」
「とにかく、風呂も一人で入れないようじゃ、俺は君を大人とは認めない。自分で何とかするんだな!」
弥次さんは、今にも吹き出しそうなのを隠しながら、そう言い放ち、座敷へ戻っていきました。
風呂も一人で入れないガキだと思われたくない北八は、しばらく考え込み、辺りを見回します。
すると、物陰に隠れた下駄を見つけたのでした。
なるほどね... と思いつつ、その下駄を履き、風呂桶に入ると、勝ち誇ったように声を張り上げます。
「弥次さん! 弥次さん! ちょっと来て!」
「しつこいな」
「お前の言った通り、慣れれば熱くないね」
座敷から出てきた弥次さんは目の端で風呂場の隅の物陰を探りましたが、隠した下駄は見当たらない...
ようやく見つけたみたいだね、と思いつつ、ドヤ顔をしながら下駄ばきで風呂に入る北八がおかしくてたまりません。笑いを堪えながら、
「よかったね。ゆっくり浸かるといいよ」と微笑み、再び座敷へ戻っていきました。
釜がむき出しになっている風呂に一人で入れることを完膚なきまでに知らしめた北八は、今度は滞湯時間で弥次さんに勝利しようとします。
しかし、長く浸かりすぎて... これは物理的な意味であり、淫靡な他意は神に誓ってありませんが、下半身が全体的に熱くなり、立ったり、しゃがんだり、ついには足踏みしなければ耐えられないほどになってしまったのでした。
下駄で、足踏み。
そうです。ご想像の通り、北八は足踏みをした拍子に、釜の底を踏み破ってしまったのです。
土がまの薪の燃えさしに尻もちをつき、
「熱っっっちぃ!!」
湯が外に流れ出します。
北八が、
「おい豚! 助けろ!」と叫ぶと、弥次さんが座敷からやってきて、
「どうした?! あーぁ、やっちゃったねw どうせ『あいつより長く入ってみせる!』とかいって、熱いのを我慢して苦し紛れに下駄で足踏みでもしたんだろw ほんとに君はw ばかだなぁwww」と、大爆笑しました。
この騒ぎに驚いた宿の亭主が、慌てて湯殿へ駆けつけ、水...じゃなかった、湯びたしの惨状を見て さらに驚き、声を上げます。
「一体どうしたのです?!」
北八は、原典のこの部分に地の文がないので何とも言えませんが、おそらく下駄を履いただけのあらわな姿で立ち上がりながら、
「釜の底が抜けて... 痛ってぇ...」と口ごもります。
「なんでまた釜の底が...?」と、亭主に理由を求められると、やべぇ、本当のことがバレたら怒られる! とはっとし、あまり考えもせずに口を開きました。
「弥次さんのせいです。体重の重いこいつが先に入ったから風呂釜がおかしくなって... それで、僕が入ったのをきっかけに底が抜けたんでしょうが、そもそもの原因はこいつにあるんです。こいつ最近また太って、昨日パスポートの更新に必要な写真を撮ったんですけど、それを見て自分でもびっくりしてました。自覚はしたと思うんで、これからがんばってダイエットするでしょうから、許してやってください」
それを聞いた亭主が口を開きかけた瞬間、弥次さんがすかさず、
「彼が下駄で足踏みして釜の底を抜いたんです」と、口を挟みます。
亭主が反射的に北八の足元に目をやると、しっかりと下駄を履いていたので、
「なんてことをしてくれたんですか!」と、北八に向かって叫びました。
「ごめんなさい... 最初は裸足で入ったんです。でも、あんまり熱くて...」
「五右衛門風呂の入り方が分からないのなら聞いてくださればいいのに! 便所の下駄を履いて入るなんて信じられない...! 修理費にいくらかかると思っているんです?!」
素っ裸で平謝りする北八を見ているうちに、だんだんかわいそうになってきた弥次さんは、相変わらずの保護者面で仲裁に入り、釜の修理費として二朱銀一枚を払うことで、その場を丸く収めたのでした。