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イタリア滞在記[2]_37【快楽の代償】(2022.8.30)

昨日8/29(月)から、テニスコートに落ちた松の葉っぱを熊手で集める生活がまた始まると思っていたのだが、それは僕の勘違いで、テニスクラブの仕事再開は来週の月曜日からだった。
そんなわけで、午前中は自動車代理店へ、購入したシボレーの受け取りと、売却したオペルの受け渡しに出かけた。
 
無事、受け取りと引き渡しが済み、オペルから取り出しておいた標準装備品をシボレーに積み終えると、いつもならそのまま昼食をとるためレストランへ直行するところなのだが、昨日はスーパーマーケットに寄って昼食の材料を購入し、帰宅した。
先週の旅行中、予想以上に体重が増えたアンドレアが、今週は外食をしないと決めたからだ。
彼にとっては外食をしないことがダイエットにつながるのだろうけれど、実は僕には全く逆の効果があるんだよね...
 
僕の “幸せを感じることランキング” の10位内には、”腹いっぱい食べた後すぐに横になる” というものが入っているのだが、これをやると後で腹痛と胸焼けが半端ない上に体重も増える。
外食の場合、動けなくなるまで食べることはまずないし、食べた後すぐに横になることも難しいから、こんなことはあまりできないけれど、家だとどっちも簡単にできちゃうんだよね。
 
というわけで、さっそく昼飯を目一杯食べてすぐにダイニングのソファで寝た。
さすがに連続でやると体に負担がかかるから夜はやめておこうと思ったのに、夕食にミニトマト入りのペペロンチーノが出てきたから...
食事中、アンドレアから、
「いい加減にしろ」と言われたけれど、僕の “幸せを感じることランキング” の10位内には、”アンドレアの忠告に背く” というものが入っている。そこで、
「お前こそいい加減にしろ、デブ」と言い返したら、やつが黙ったので、好きなだけ食べてそのまま寝たら、深夜。ひどい腹痛と胸焼けと寝汗で目が覚めた。
 
ちょっと死にそうだったので、リビングで映画を見ていたアンドレアに助けを求めると、馬鹿の一つ覚えみたいにカモミールティーをいれてきた。
「こんなに気持ち悪いのに、そんなまずいもの飲めるか」と反抗したのだが、結局飲まされ、飲み終えるや否や今度は右足がった。
もう痛いのなんのって...
喚く僕にアンドレアは、
「だから食べ過ぎるなって言ったのに」と、ため息をつく。
えっ?食べ過ぎると足るの?と思った瞬間。やつは突然僕の足首を掴み、すごい力で上へ持ち上げると、つま先をこちらに向かって引っ張った。尋常じゃない力で引っ張るものだから、太腿がまだ膨れているみぞおち辺りを圧迫して、胃液とトマトとカモミールティーが混ざったような液体が逆流してきて...最悪だった。
 
でも、それはもはや過去の話。朝になったらすっかりよくなっていた。
アンドレアは僕に、
「今日は昼まで何も食べるなよ」と言い残し、
中古の新しいシボレーに代わる代わる女の子達を乗せ、全員に「この車の助手席に座ったのは君が初めてだよ」と言うために8時ごろ一人で出かけていった。
 
昼過ぎまで帰ってこないだろ、と高を括って、午前11時。
3本目のアイスキャンディーを冷凍庫から取り出し、包みを窓から投げ捨てて本体を口にくわえ、キッチンを出ようとすると、女の子とドライブ中のはずのアンドレアと鉢合わせした。
 
「ただいま」も「おかえり」もなく、やつが先に口を開く。
「君の様子を見るために帰ってきたんだけど、正解だったよ。口にくわえているそれはなんだ?」
 
「さぁ...なんだろ...?僕、外国人だから...これ...イタリア語でなんていうんだろ...?」
 
「”ghiaccioloギアッチョ―ロ” だ。覚えておけ。ついでに俺の言うことを聞かないとどうなるのかも教えてやる」