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【パロディ】東海道中膝栗毛_初編(3/8)

まずいあじの塩焼きを食べ終えた弥次・北は茶店バールを出て、途中、伊勢神宮を目指して旅をする家出少年たちに餅を買ってあげたり、宿の客引きと旅人の攻防戦を眺めたりしながら、先へ進みます。
武州ぶしゅう相州そうしゅうの国境である品野坂に着いたとき、弥次さんは次の歌を詠みました。

玉くしげ ふたつにわかる 国境
所かはれば しなの坂より

ん…?

原典では、上に記した歌の “玉くしげ” に注釈がついています。
玉櫛笥たまくしげ。「玉」は美称。「櫛笥」は。蓋・身・あくの枕詞。ここは「ふたつ」にかかる。』とのこと。
注釈のはずなのに、全く意味が分かりません。僕だけでしょうか。

日は西の山へ傾き、戸塚宿へ泊まろうと急ぐ道すがら。なんと、驚くべき事件が起こったのです。
弥次さんが、突然、こんなことを言い出したのでした。
「ねぇ北八、相談があるんだけど。行く先々でしつこく飯盛女めしもりおんなを勧められたら面倒だろ。だから、俺、君の父親のふりをしようと思うんだ」

本題に入る前に、あなたは ”飯盛女” と聞いて、「何それ? 給仕係のおねえさん?」と思われたことでしょう。僕は思いました。
しかし、原典のこの部分に注釈が添えられており、『旅籠屋はたごやの女中で、売淫もした』とあります。

リアル弥次さんは、プロの女の子が大嫌いです。しかしながら、本作の弥次さんはリアル弥次さんよりもずっと節操がない感じなので、遊び相手の女の子を勧められるのが面倒だ、などと言い出したのには、正直、少し驚きました。

そして、問題は次の部分です。
『俺、君の父親のふりをしようと思うんだ』
僕はこの一文を読んだ瞬間、たいそう驚きました。なぜならば、僕の父親のふりをするのは、リアル弥次さんが最も好きな遊びのうちのひとつだったからです。
ただ、リアルでは相談なく勝手にこの遊びを始める、という点が本作とは異なります。彼は、仕事関係の人や、レストラン・店の従業員などに出くわすと、突然、
「この子はローリスといいます。俺の息子です」などと僕のことを紹介するのです。

最初は驚きましたが近頃は慣れたもので、この紹介のあと、何事もなかったかのように「こんにちは」と挨拶し、「目元がお父さんに似てますね」と言われれば、血も繋がっていなければ人種も違うのに似てるわけねぇだろうが、と思いながら、「あんまり似てないですね」と言われれば、まぁそうだろうな、と思いながら愛想笑いを浮かべるなど、造作もないことです。

弥次さんは、さらに続けます。
「君は二十代だし、親子と言っても不思議じゃないから、これからどこかへ泊まるときには、俺たちは親子、っていうことにしない?」

ここへ来て、北八が二十代だということが判明しました。
しかしながら、僕はすでに、彼が二十代半ばであると認識していたのです。というのも、彼は序編で元服していますので、その頃11~17歳だったとすると、その10年後である今現在は、21~27歳のはずだからです。

そうです。本作の北八は、僕と同じくらいの年齢である可能性が高いのです。
そのため、完全なる思い込みではありますが、弥次さんも三十代半ばくらいなのかな、と思っていました。
でも、例えば23歳の子どもの父親が35歳というのは...少し無理があるように思えます。
というわけで、僕はWikipediaで二人の年齢を確認してみることにしました。

すると...『弥次郎兵衛 東海道の旅に出発当時数え年50歳』『北八 出発当時数えで30歳』とあります。
数えで...ということは、満49歳と、満29歳ということ。二人とも思ったよりも年上でしたが、北八はまぁいいとして、問題は弥次さんです。

リアル弥次さんは現在35歳ですが、走ったり、長時間歩くことを提案すると、必ずと言っていいほど「そんなことしたら足がバラバラになっちゃうだろ」と返してきます。

また、坂道を上るスピードが異様に遅く、いつも「ローリス、待って! 置いていかないでくれ! 年齢と体重差を考えろ!」と言います。
しかも、あんなにゆっくり上ったにもかかわらず、上り切ってしばらくは肩で息をし、少し休んでからでないと再び歩き出すことができません。

以前、グッビオ(ウンブリア州ペルージャ県)を旅した際、僕が待ちきれず先に坂を上って頂上で待っていたときには、その日の夜、眠りにつくまで、「俺のことを置き去りにした!」とずっと文句を言っていました。

腕力が半端なく、僕のことなど片手で軽々と持ち上げてしまう彼ですが、これは本当のことなのです。
35歳でこのような状態だというのに、49歳になったら一体どうなってしまうのでしょうか。歩いて東海道を旅するなんて、無謀なことのように思えてしまうのです。

話が脱線してしまいました。
次の駅まであとわずかではありますが、本線に戻りましょう。

弥次さんの提案を受けた北八は、
「いいね。それなら押し売りされないだろうし」と、頷き、続けます。
「でも、それって... お前のこと『babbo父さん』って呼ばなきゃいけない、ってことだよね?」

「そうそう。どんな状況でも、息子らしく振る舞うこと。いいね? あとさ、『父さん』じゃなくて『papàパパ』って呼んでもいいんだよ...」

「...キモいんだよクソ親父」

そんなやり取りをしているうちに、二人は戸塚宿(最寄り駅: JR戸塚駅。横浜市営地下鉄もあります。僕の家の最寄駅から戸塚までは普通列車で約17分!)へ着いたのでした。