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血は争えない

昔々、神奈川県の横浜市に、ロリーという名の、清和天皇の女御・高子たかいこに勝るとも劣らない、かわいい女の子が住んでいました。

ロリーは、お父さん、お母さん、弟と、元気に仲良く暮らしていましたが、先日、コロナで一家全滅してしまったのです。

ある日のこと、我先に復活したお母さんが、透明袋に入ったカードと封筒らしきものを手に持ち、ダイニングキッチンで息も絶え絶えにコーラを飲んでいるロリーに言いました。
「なお君(←ロリーのあだ名)、アンドレアさん(←ロリーの義姉・アン[イタリア在住]のあだ名)にグリーティングカードを贈ろうと思うんだけど、『誕生日おめでとう』ってイタリア語でなんて言うんだっけ?」

「毎年書いてんだから、いい加減 “Buon compleanno” くらい覚えろよ。もう十回以上教えてるはずだろ。記憶できねぇんならメモ取るとかさぁ... 高校生に数学教えられるのに、どうしてそんなこともできないわけ?」

「今日の夕ご飯お粥にしよう」

「あっ、ごめんなさい。好きに書いてもらえたら、あとで僕が訳しますので...」

「日本語でいいの?」

「うん。この前のクリスマスカードみたいに、母さんが書いたメッセージの側に僕がイタリア語訳を添えるから... ちょっとそれ見せて... あぁ、なにこれ、屏風?」

「そう。綺麗でしょ。メッセージカードは別添えで、本体は小さな屏風なの」

「...すげぇ、でかした。屏風歌バトルできるじゃん!」

「屏風歌?」

「そうそう。最近アンドレアと二人で短歌とか詠んでんの。この前読んだ『土佐日記』のコラムで屏風歌のこと知ってさ、やってみたいと思ってたんだよね。このカード...っていうか、屏風、歌を書き込めるスペースもちゃんとあるし。めちゃくちゃ楽しみ! そうだ、封筒に入れる前に写真を撮っておこう。あいつより持ち時間が一週間長ければ、楽に勝てるだろ」

「お母さんも参加する!」

「...は? 短歌っていっても、イタリア語で詠むんだよ。母さんには無理...」

「お母さんは日本語で詠むから、なお君が訳して」

「いや、でも、日本語の短歌をイタリア語に訳しても、韻文的に意味ない...」

「今日、お粥...」

「...のはセンスのないやつが訳した場合の話であって... わかった。僕に任せろ」
(センスがあることを証明するため、屏風と扇子[扇]を縁語として用いています。)

「じゃあね...『ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは』」

「...ん?」

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