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僕のビジネスモデル

「ところで、昨日話したテニスクラブの仕事、引き受けようと思うんだ」
日本時間午後8時。今日も横浜の実家からイタリアにいるアンドレアとZoomを繋ぐ。とても文字には起こせない下品な会話で一頻ひとしきり盛り上がった後、アンドレアが言った。


※この記事は、日本人の僕とイタリア人の友人アンドレアがイタリア語で交わした会話を、日本語に訳したものです。
ほぼ会話のみで構成されているので、どちらの発言であるかを明確にするため、僕の台詞にはL、アンドレアの台詞にはAを、「」の前に付けてお送りしたいと思います。


A「昨日の夕方、テニスクラブの所有者と話をしてね。条件がよさそうだから引き受けようと思って。君はどう思う?」

L「いいんじゃない?主な仕事は客対応と施設内の清掃だっけ?それだったら僕でも手伝えると思う。イタリアは接客レベルも衛生観念も低いからな!」

A「今回は『手伝う』っていうより、君が主体になることもあると思う。テニスクラブの運営を一任されることになるから、君は “スタッフの一人” みたいな感じかな」

L「『スタッフの一人』って...他にも誰か一緒に働くやつがいるってこと?」

A「ううん。小さいテニスクラブだから俺と君の二人だけ」

L「...なんだ。それじゃいつもと変わらないじゃん」

A「まぁね。でも、今回はちょっと違うんだよ。俺と同じポジションの人がもう一人いて、フェデリーカっていう女性なんだけど、彼女とシフトを組んで働くことになるんだ。で、各自に割り当てられたシフト中は比較的自由に運営できるんだよ。もちろん、営業時間とか、コートの使用料とか、最低限やらなければならないことなんかは決められてるけど、例えば、施設内に併設されてるバールは “丸投げ” なんだ」

L「丸投げ?」

A「そう。自分たちで商品を仕入れて、売り上げも自分たちのもの...っていうこと。テニスクラブの運営は給料制だけど、その他は自由に稼いでいいんだ」

L「あー...なるほどね。お前バールを経営したいから、その仕事引き受けるつもりなんだろ。そういうの得意分野だもんねぇ」

A「そう。水とかビールとかコーヒーとか、あと包装された軽食なんかはフェデリーカと相談して仕入れて、一定量を常に置いておくつもりだけど、俺たちのシフト中は何か特別なことをしたいんだよ。ミニキッチンもあるし、温かい食事を出すとか」

L「...一か月後にはテニスクラブじゃなくてレストランになってそうだな。でも、わかったよ。客対応とか清掃の業務は僕に押し付けて、お前はバールに専念したいんだろ」

A「押し付けるなんて人聞きの悪いことを言うな。そっちもちゃんとやるよ。そもそも本当に小規模なテニスクラブだから、決まりきった客がくるだけで、もともとそんなに儲けがあるわけじゃない。だからたとえバールの運営に成功したとしてもそんなに忙しい仕事にはならないよ」

L「まぁ好きにやってみれば。ねぇ、それよりさ!僕もバールで何か売っていい?棚の隅っことか、ちょっとしたスペースに置かせてもらえるだけでいいんだ」

A「何かって...何を売るつもりなんだ?」

L「これ」

A「...何だ、これ...?」

L「ストラップ。かわいいだろ。一個2ユーロ。売れるかなぁ?」

A「どうしたんだ、これ?」

L「僕が作ったの」

A「...君と知り合って10年になるけど、こういう趣味があったのか...?全然知らなかった...」

L「別に趣味じゃねぇよ。好きでやってるわけじゃない。僕が高校の時に付き合ってた彼女、覚えてるだろ?」

A「うん、”敦子あつこちゃん” だったっけ」

L「そうそう。あいつ、アクセサリーみたいなの手作りするのが好きでさ。桜木町のコレットマーレに、その、材料...っていうの?そういうのをいっぱい売ってる店があって、僕もよく一緒に連れて行かれたんだ。で、いつだったか買いものに付き合った時に、敦子に内緒で僕も部品を買ってネックレスを作ったんだよ。それを彼女にあげたらめちゃくちゃ喜んでさ、お礼に旅行に連れて行ってくれたんだ」

A「覚えてる。君、二泊三日なのに初日の夜にカニ食べ過ぎて腹壊して、次の日どこにも行けずにホテルで寝てたっていうあれだよな。彼女、かわいそうに...」

L「そうそう。あのとき食べた松葉ガニ美味かったなー...って、話逸れたけど、それ以来味を占めて、何かねだりたいときの手段の一つにしてるんだ。こんな子供だましでうまくいくのかよ、って思うかもしれないけど、母さんには案外有効なんだよね。安価なコストで僕の思い通りになってくれる」

A「...そんな不純な動機で作られたアクセサリーを身に付けたらなんか呪われそうだけど、まぁ、君の自由にしたらいいよ。でも、あんまり期待するんじゃないよ。売れなくても気を落とさないこと。もともと人の出入りが少ない場所に置くんだから...」

L「ヴェネツィアのムラーノ島に行けばガラスでできた小さな飾りがいっぱい売ってるし、金具はアマゾンで買えばいいから、売れたらいっぱい作ろ。あとさぁ、若草物語でエイミーがライムのピクルスを学校に持っていく話あったじゃん?あれ、僕も売りたい。運動した後ってさ、酸っぱいものを美味しく感じるよね。僕の弟、高校時代テニス部だったんだけど、部活にレモンのデトックスウォーター...っていうの?持って行ってたし、売れると思うんだよ!あと...」

A「なんか君...俺より乗り気なんじゃない?」