不動産の「来店不要取引」がいま俄然注目の訳

普及局面に加え、新型コロナでも注目されるか


「例年なら年末から年明けに、賃貸物件を探すお客さんで店舗がにぎわうのに閑散としている。心配して社員に聞いたら、最近のお客さんはスマホで調べて店舗には来ないと言うので驚いたよ」

千葉県・市川駅前の地元不動産会社アービックグループの加藤敏夫会長がそう言うのも無理はない。同社は1962年に創業し、リクルートに先駆けて物件情報誌を刊行するなど先進的な営業を展開してきたが、「街の不動産屋」と言えば、駅前に店舗を出し、お客さんの要望に応じて物件を案内して契約に持ち込むのが不動の営業スタイルだった。

この1年ほどで、その様子が徐々に変化してきた。賃貸物件選びは「スマホ」、物件の室内を見学する内見も「ネット予約」、不動産会社の立ち合いなしにスマートロックで鍵を開けて見学する「セルフ内見」が普及し始めたからだ。昨年10月からは、国土交通省が重要事項説明に続いて賃貸取引をネット契約で行う実証実験を始めた。駅前の店舗に行かなくても物件選びができる環境が整いつつある。

VRやスマートロックなどの技術革新
スマホやネットだけで営業活動を行う「インサイドセールス」は、アメリカのセールスフォース・ドットコムなどのマーケティングシステムが普及して、日本でも3、4年前から注目されるようになった。不動産分野では実際の物件を見学する内見が必要なので導入が難しいと考えられていたが、VR(バーチャルリアリティー:仮想現実)やスマートロックなどの導入で実現可能になってきた。

3月末にかけて新入社員や学生を中心に不動産物件選びがピークを迎えるが、タイミング悪く「新型コロナウイルス」問題が発生した。企業などでは感染拡大を防ぐためにテレワークを移行させる動きが活発化してきた。リスク回避の観点から人と接触せずに営業活動でき、利用者側も移動を避けられるインサイドセールスが、不動産取引で拡大する契機になるかもしれない。

VRはコンピューターグラフィックス(CG)やパノラマ写真などを使って3次元(3D)空間を作り出し、人があたかもその中にいるような疑似体験をさせる技術。2007年にグーグルが提供開始した道路の風景をパノラマ画像で見せる「ストリートビュー」で注目されるようになった。


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