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2020年 企業の炎上傾向を振り返る|ソーシャルメディアの拡散状況

今年も企業の"ネット炎上"が多数発生しました。10月以降だけでも、タカラトミー、アツギ、ナイキなど、ネットで批判的な意見が急速に増加する話題が数多くありました。

これら企業の炎上事案について、2019年の事案と比較することで、2020年の企業の炎上"傾向"が明らかになりました。クチコミデータとともに、その傾向を定量・定性面で分析します。

【1】 2020年の企業の炎上を拡散状況から振り返る

まずは、ソーシャルメディア上でのクチコミの拡散状況をもとに、2020年の「炎上」という単語と一緒に語られた企業の話題を振り返ってみましょう。

クチコミの対象はTwitterとし、Twitterの全量データを検索・分析対象とすることが可能なソーシャルメディア・アナリティクスツール「Brandwatch」をお借りし、データ収集を行いました。

2020年の企業の炎上事案を抽出する

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「炎上」という単語と一緒に語られた企業の話題を抽出するために、Twitterの全量データをもとに以下の抽出条件に合ったツイートを抽出しました。

データ取得期間:2020年1月1日〜12月14日
抽出条件:(炎上)AND(企業 OR 会社 OR 社員 OR 社長 OR アルバイト OR 広告 OR CM …など)

このデータにトレンド方式*を適用し、拡散強度拡散期間を特定しました。上の表は拡散強度が高かった日付(拡散日)と、各日の拡散の原因となった事案10件を抽出したものです。また、それぞれの事案が拡散した理由を以下カテゴリーで分類しています。

【差別・偏見】
特に女性や社会的弱者を蔑視した態度や、役割を決めつけるような偏った価値観が明らかになったことで批判を集めた事案。

【非常識・コンプライアンス逸脱】
経営者や社員などによる非常識な行動や発信などが批判された事案。

【その他】
上記に当てはまらない事案。

アツギやNIKE、花王、タカラトミー、富士フイルム、東洋水産といったメーカーの他、フジテレビや集英社のようなメディアなどの事案が抽出されました。批判の理由をカテゴリー分けしてみると、「差別・偏見」にあたる事案の多さが目立ちます

*トレンド方式・拡散強度の詳しい説明は以下記事をご参照ください。

参考:2019年の企業の炎上事案

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ここで比較対象として、同様の抽出方法で2019年の事案を見てみましょう。

批判理由のカテゴリーを見てみると、10件中8件が「非常識・コンプライアンス逸脱」にあたる事案となりました。企業の倫理観を疑う話題と、いわゆる「バイトテロ」に大別できます。


【2】 2020年 企業の炎上に関する話題の傾向

企業の炎上事案を直近2年間で比較すると、以下の2つの傾向が見えます。

「ジェンダー差別・偏見」関連のツイート件数が倍増した

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今回抽出した炎上事案を見ると、前述のとおり2019年は「非常識・コンプライアンス逸脱」にあたる事案が目立ちましたが、2020年は「差別・偏見」にあたる事案が多くなっています。さらに、これらのほとんどがジェンダーにまつわる差別・偏見による事案です。

最初に抽出したツイートのうち「ジェンダー」を含むツイート件数の推移を見てみると、上のグラフのようになりました。2020年11月3日にツイート件数が急増しています。

この急増は、ジェンダー差別・偏見にあたるアツギ事案によるものです。10月24日に同様にジェンダー差別・偏見にあたるタカラトミー事案が発生しており、関心が高まっていたことで連鎖的に話題が拡散したことを示しています。実際この2つの事案を対比して評論する記事が多数生まれています。また、このような状況がなければ、11月14日に発生した東洋水産の事案は存在しなかったでしょう。

同様の抽出条件で「ジェンダー」を含む年間のツイート件数を比較しても、2019年は3,520件だったのに対し2020年は7,195件と、企業の炎上に関する「ジェンダー」を含むツイート件数は倍増しています。このデータからも2019年と2020年では企業の炎上内容が大きく異なることが分かります。

「ジェンダー」を含むツイートは、該当企業への批判の他、問題点を可視化しようとするツイートも多く見受けられました。2020年4月には、ジェンダー関連の度重なる企業の炎上を受け、以下の「ジェンダー炎上回避チェックリスト」が拡散されました。


②広告意図のある発信が炎上源となる割合が増えた

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今回抽出した事案10件ずつの炎上源を大別すると、上記の円グラフのようになります。2019年はシェアドメディアが10件のうち半数を占めていましたが、2020年はオウンドメディアの割合が大きく増えています。

上記メディアの種類は、統合メディアコミュニケーションのフレームワーク「PESOモデル」をもとに分類しています。

オウンドメディア:企業のWebサイト、ソーシャルメディアアカウントなど
シェアドメディア:個人のソーシャルメディアアカウントやブログなど
アーンドメディア:ニュースメディアにおけるパブリシティなど
ペイドメディア:広告やイベントのスポンサーシップなど

また、2019年と2020年の企業の炎上事案10件ずつを比較すると、2020年は企業による広告または広告意図のある発信が炎上する割合が増えています。

各炎上事案の概要を見ると分かるように、2019年は企業の従業員による不適切な発言など、シェアドメディア上での個人の発信が炎上源の半数を占めていました。しかし、2020年は自社サイトや企業アカウントなどオウンドメディアにおける商品・サービスのプロモーションが炎上源となっています。


【3】 企業の炎上傾向 ポイントをさらに解説

これら2020年の傾向は、どのような要因から生まれたものなのでしょうか。ポイントについて、企業のリスク管理・炎上対応に長年携わってきた弊社・福田に解説してもらいました。

①炎上源が移り変わった要因は?

▼動画コンテンツの一般化とコンプライアンスへの意識浸透があった
2019年の炎上事案の特徴として、従業員などの接客による"顧客体験"や、バイトテロと称されるアルバイトの"非常識な行動"がきっかけとなり、シェアドメディアを介して炎上するケースが多くありました。このような事案が発生した背景には、TikTokやInstagramのストーリーズなど動画コンテンツの定着がありました。静止画と比べてはるかに「面白い」とされるコンテンツが、多くの人々の強い関心を招きました。

しかし今、時を経て、人々にとって目新しさが薄らいできたのではないでしょうか。実際あまり拡散こそしていませんが、類似の事案はそれなりに存在します。その一方で、数多くの事案を経験し、目の当たりにした企業では、コンプライアンスへの意識も高まってきているようにも感じます。また、今年6月には改正労働施策総合推進法(いわゆる、パワハラ防止法)が施行されています。対策を講じることは企業の義務となりました。

このような動画コンテンツの一般化と、コンプライアンスへの意識浸透が、消費者の顧客体験や従業員の不適切な発言がきっかけとなるシェアドメディアからの炎上の減少という傾向に表れているのかもしれませんね。

②広告が炎上源となる割合が増えた要因は?

▼人々の感受性が高まった話題が批判につながることに
広告が原因となる炎上事案は、今年に限らず、ここ5年くらい増加傾向にあります。しかも国内の話題だけでなく、欧米でもたくさん発生しています。

海外では「人種差別」、国内では「ハラスメント」と受け止められる話題が多い傾向があります。海外に目を向けると「BLM(Black Lives Matter)」に象徴される人種差別抗議運動が広がりを見せ、国内では「〇〇ハラ」という新語が数多く生まれました。

そんな中、企業に対しても、人が不快に思うことに配慮を求める声は相変わらず強まっています。人々が「いやだなー」と感じていたことが、言語化され、反感を表現しやすくなりました。

企業広告は、企業の特定の商品やサービスを訴求するだけでなく、企業の理念や価値観も包含していると見なされます。人々の感受性が高まった話題が、企業の姿勢に対する批判につながっているのではないかと思います。


【4】 まとめ + 企業アカウント運用で注意したいこと

このように、2020年は企業の炎上に関する話題の傾向として、

①「ジェンダー差別・偏見」関連のツイート件数が倍増した
②広告意図のある発信が炎上源となる割合が増えた

ことが見て取れました。これらは、企業アカウントを運用する上でも注意したいポイントです。

企業アカウントの運用は、業務として行うからには結果を求められます。多くの企業でKPIとして、フォロワー数やいいね数、インプレッション数などを設定することが一般的ですが、これらを最大化していく中で、そもそもの運用目的を見失わないことがまず大切です。

例えば、アツギやタカラトミーのTwitter公式アカウントの炎上は、"フランクさ"を心掛けていたつもりが、いいねやRTなどのエンゲージメントが欲しいあまり、より刺激的なやり方に走ってしまった結果なのかもしれません。さらにジェンダー差別・偏見という人々の感受性が高まった話題であったこともあり、炎上は拡散されていきました。

人々が多様な価値観を持つ社会で、万人に受け入れられる運用はできませんが、大切なことはアカウント運用で最も大切にしたい人(ペルソナ)を定め、その人にとって望ましいこと、喜ばれる内容や振る舞いを常に第一に考えることではないでしょうか。

2020年のオウンドメディアに起因する炎上事案の増加に象徴されるように、世間が企業に求める期待と、企業の価値観の乖離が望まないトラブルを生み出すことが増えています。この傾向は今後も一層強まっていくでしょう。

このような時流の話題やそれに対する世間の反応、競合他社の発信が世間にどう受け止められているのかを知り、その知見をため、広告のクリエイティブや企業アカウントの投稿企画などのリスク管理に生かしたいときに、ソーシャルリスニング=ソーシャルメディア上のクチコミの傾聴が役立ちます。

ソーシャルメディア上での話題の拡散が企業の炎上に大きな影響を与えている昨今、ソーシャルメディア上の声に耳を傾けることの重要性は増しているのではないでしょうか。


【今回使用した「Brandwatch」の特徴や機能についてはこちら】


ループス・コミュニケーションズでは、ソーシャルリスニングの戦略立案から導入、運用サポートまで、ソーシャルリスニングのビジネス活用支援を行っています。まずはお気軽にお問い合わせください。


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【本文中のポイント解説者】
福田 浩至
株式会社ループス・コミュニケーションズ副社長、博士(情報管理)

多数の企業にて、ソーシャルメディアの効果的かつ安全な運営を支援。 特に、企業のソーシャルメディア活用におけるルール「ソーシャルメディア・ポリシー」策定や啓蒙教育など積極的な守りの仕組みづくりが専門領域。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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