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名はその存在を冠すもの


私は子どもの頃、自分の「敬子」という名前が古臭くて嫌いでした。


名前にも流行がありますが、私の生まれた時は「マリ」「ミカ」など2文字の名前だったり、3文字でも「エリカ」「カナエ」のような「~子」以外の名前が多かったんです。

自己紹介をして
「おばあちゃんと同じ名前!」
「お母さんと同じ名前!」
と、悪気なく笑われたことは数知れず。。。


名前って、自分のアイデンティティそのものなんですよね。
だから名前のことを笑われたことが「自分のことを笑われた」ように思って、落ち込みました。

「何でこんな古臭い名前にしたん!?」
と、母に文句ばかり言っていました。


私は10歳頃から反抗期に突入したんですが、趣味を通じて知り合ったお友達と文通をしていて、その子たちに手紙の中では自分のことを「この名前で呼んで!」とお願いして「まろんちゃん」とか「かなでちゃん」とか呼んでもらっていました。

それは大抵、好きなマンガの主人公とかで、私の「理想の女の子」の名前で、コロコロ変わっていました。


そもそもその文通自体、会ったことのない子たちとやりとりしていました。

だから、普段の自分とは違う自分、本当の自分を安心して出せて。


手紙の中で「嘘の名前」で呼ばれながら「ほんとの自分」を生き、
外の世界で「ほんとの名前」で呼ばれながら「嘘の自分」を生きていました。


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私の祖母は若い頃、役場に勤めていたそうです。

昔は子だくさんなご家庭が多かった事もあり、あるとき出生届を持ってきた知り合いの奥さんに

「あなたが好きな名前をつけて、出しておいて」

とお願いされたそうです^^;


そこで祖母はそのお子さんに、自分が気に入っている「けいこ」という名前をつけ、後日その奥さんから「良い名前をつけてくれてありがとう」ととても喜ばれたそうです。

祖母にとって「けいこ」という名前は特別だったようです。


私の両親は、私が生まれる前にいくつか候補を考えていて、最終候補が「しょうこ」、「けいこ」、「ちはる」だったそうです。

でも母は「きっとけいこになるな」と思っていたそう。

祖母の先ほどの話を聞いていたのもそうですが、何より、生まれてきた私の顔が「けいこ」っぽい顔だったんだそうです(笑)


祖父母は「好きな名前をつけて良いよ」と言ってくれていたそうですが、両親は最終候補の3つを見せて「このどれかにしようと思うんだけど」と相談したそうです。

すると、いつもは祖父が発言するまで黙っている祖母が

「私、けいこがいい」

と、真っ先に言ったそうです。


いわゆる「昔の人」だった祖母にとって、祖父より先に発言するということは簡単なことではありません。

父も母も、きっと祖父も、それを分かっていましたから、そりゃあもう、決定です。


そこから両親は、名前の漢字を考えてくれました。

両親が選んだ「敬」と言う漢字は「敬う」「尊敬」などに使われる漢字。

「人から尊敬されるような子になるように」という意味もありますが、この「敬」に母が込めたのは
「尊敬できる人にこの先たくさん出逢えますように」だったそうです。

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この一連の話を聞いたのは、私の反抗期が少し落ち着いた、中学2年生頃だったと思います。

その頃、私は修学旅行をきっかけに、学校の友達と打ち解け、手紙の中以外でも「ほんとの自分」でいることができ始めていました。

それから私は自分のことが好きになりましたし、私の周りには「私を好きな人」しかいないということにも、ようやく気付きました。

それに、何をしても、私は私だったそうです。
私が隠せてると思ってた「ほんとの私」は、周りの子たちにはお見通しで、いっそ「隠せてるつもりだったの!?」と驚かれました。


「名はその存在を冠すもの」

私は、名前はアイデンティティそのものだと、強く認識していたからこそ、「なりたい人の名前」を名乗ることで「理想の自分」「自分以外の何か」になろうとしていました。

でもかりそめの名前で呼ばれたところで、結局私の存在は「敬子」でしかなく。

そしてそれは「敬子以外になる必要はない」という事でもあるのだと、そのときようやく理解できたのでした。


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