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愛すべきカメレオン

廊下で珍しく、その後ろ姿を見かけた。


ひょろっとして、まっすぐで、ひょうひょうとした歩き方。程よく背が高い、モデルのような頭身をしている。

あと多分、ほんのちょっとだけ猫背。

✳︎

彼は職場の同期で、中学の同級生だ。当時ほとんど会話したことはなかったが、職場が同じことをきっかけに、今や気軽に話せる大事な同期となっている。

つかみどころがなくて、何を考えているか分からない。でも、みんなで集まれば自然と会話の中心にいる。

さらっと独特な面白いことを言って周囲の笑いを誘うのに、時々冷めたような表情をしていたり、

マイペースで自由人なのに、頼まれごとや仕事は素早かったり、

研修の前日に、要項を職場に忘れたとかでLINEしてきたかと思えば、翌日重いものを当たり前のように代わって持ってくれたりもする。

あんな感じなのに実は
魚を捌けて(!)、達筆だし。
見ていて面白い。

なんかよく分からんが、なんとも不思議な魅力を持つひとなのだ。それに、間違いなく、優しい。

どんな場所にもなんとなく馴染み、
お寺にいても、宮殿にいても、そこそこ違和感ない。

そんな彼は新採の自己紹介で、自分をカメレオンに例えていた。

…ドンピシャやん。

そういうところも含めて、なんか不思議で面白い。

ついつい、見かけると声をかけたくなってしまうのだよなぁ。

✳︎

私は思わず、小走りで彼を追いかけた。

わたし「おつかれ!」

カメレオンな彼「おーぅ、おつかれ!めずらし。どしたん?」

私「この時間、いつも〇〇課に行ってんのよー、たまたま後ろ姿見つけたから追っかけてきた」

カメレオンな彼「へー!そうなん?」

私「うん、じゃ、またねー」

カメレオンな彼「おぅ、おつかれーっ」

たったそれだけ交わして、廊下の突き当たりを左右に別れた。

おつかれ、と片手を上げてニヤッと笑う彼は、やっぱりちょっと謎めいていて、憎めない。

なんなんだろうなあ。あの魅力は。
そんなことを考えながらデスクにもどった。

ちょっと元気が出た。

まあ、あんな自由人、もし側にいたら心身ともに振り回されるのだろうから、

檻か柵を隔てて見ているぐらいが丁度いいのかもしれない。

近づきすぎ注意。
指入れ禁止。
エサをあげないで。

彼はまるでカメレオン。



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