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【随想】小説『いけない』道尾秀介

幾重にも折り重ねられたミステリーのミルフィーユ。
その闇は深すぎて、作家自身は口をつぐんだ。
事件の真相は、読者の手に委ねられた。
舞台は、一つの街。
一見関係なさそうに見える事件の数々が、章を読み進めるごとに、一つの物語へと収斂していく。
作家は巧妙に罠を仕掛ける。
誰が犯人なのか、誰が被害者なのか、文中に明確な答えを示さない。
ただ、状況説明と登場人物による会話と信頼できない語り手があるだけだ。
章の最後には、ある一定の解(ヒントの挿絵)が示されるが、その推理も最終章を読むまでは信用ならない。
そう、この物語を知っているのは、読者だけであるから。
読み人は誰も、その真実を暴いてはいけないのである。


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