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【随想】小説『のぼうの城』和田竜


のぼうの城/和田竜
何の前情報もなく、読んでみた。
勿論「のぼう」とやらが何なのかもわかっていない。
読み始めてみると、まず羽柴秀吉が備中高松城を水攻めするシーンから始まる。
まさにオープニングにふさわしいスペクタクルな幕開け。
ちょっと違うかもしれないが、マーベルのエターナルズのオープニングのような感じ。
とにかくハリウッド脚本の壮大なオープニングを思い浮かべてもらえれば近いんじゃなかろうか。
そうか。これは、そんな秀吉の水攻めを目撃した石田三成が主人公の物語か、と思いながら読んでいくと、
今度はよく知らない、武州忍城を居城とする成田家がメインのお話になっていく。
誰だいったい成田家とは…?
秀吉と対立する北条方らしいが、なぜそんな人を取り上げるのだろうか?
上巻は、この成田家とその周りの家老や百姓領民たちのエピソードが語られていく。
どうやら後に、この成田家の城代(城主の代わり)になる「長親」という人が、表題の「(でく)のぼう」らしい。
それにしても味方も敵も名前が覚えられない。
北条氏政、北条氏直、成田氏長、成田泰季、成田泰高
石田治部少輔三成、長束大蔵大輔正家、大谷刑部少輔吉継
正木丹波守利英、酒巻靱負、柴崎和泉守
こういう時、歴史物や時代物は挫折する。
映像であれば名前が覚えられなくても視覚的に見分けることができるが、文章のみだとそうはいかない。
しかし、知らない人たちが主人公の物語か…
しかも、読めなかったり、知らない当時の言葉が、会話や歴史的な背景描写には頻出してくる。
と、そのまま挫折するかと思いきや、意外とすらすら読むことができる。
紙面に対して文字が少ないためか、どんどんページを繰る手が進む。
映画化を前提として書かれているから、脚本のようで読みやすいということもあるかもしれない。
また、かっこ書きで記される「心の声」だけは、くだけた現代語調になっていて、いい塩梅で感情移入しやすいというのもあった。
上巻を読み終わる頃にはすっかり登場人物たちに魅了されていた。
内面描写に共感していくというよりは、起きた事実や人物の言動や行動に対して、魅力を感じるのだ。
名前を覚えられないというのは杞憂であった。
漫画を読んでいる感覚に近いかもしれない。
そして、ようやく開戦!というところで、上巻が終わる。
三成二万の軍勢に、忍城(成田家)たった500の軍勢がどう立ち向かうのか。
下巻はアクション映画、これでもかと攻め込む三成軍に対し「のぼう」のとった戦略は?
目が離せない戦いとなっております。
史実がどこまで正しいのかわかりませんが、歴史的な細部の描写が大変勉強になりました。
戦(いくさ)前後の手続きや、武士が戦っている間の百姓領民の扱い、当時の鉄砲隊への戦い方などなど。
映画化もされているとのことだが、野村萬斎のイメージではなかった。
ドラゴンボールのハッチャンとか、諸見里大介さんが近いイメージ。
三成は、だいぶ前から真田広之さん(1996年大河「秀吉」)のイメージが定着してしまっている。
映画より、これは小説だなー。


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