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とりあえず、さわさわ……さわわな話

朝からあちぃー。
横断待ちでジリジリ焦がされるのが嫌で、いつもとちがう通りを歩く。

一本わきにそれただけなのに、意外と日影が多い。多少は涼しいのかもしれない。その証拠に……

ノラーずが、2、3いらっしゃる。


猫たちは本当にかしこい。いつの間にか涼しい場所を探し出してくる。


そう、わが家のお猫様も、夏の午前中はよく、押し入れから天井裏にのぼって涼んでいた。

こちらからは姿が見えない。
しかし、お猫様の方は、虎視眈々と下々の者を見ていたようなのだ……

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高3の夏、受験を控えた私は、誰もいない自宅で勉強をしていた。


10時ごろ、玄関のベルが鳴る。
出てみると、父の知り合いだった。
バケツに入れた沢蟹を届けてくれたのだ。


(カサカサ サワサワ……)


バケツの中の沢蟹たちは元気だ。互いに頭を踏みつけ合い、なんとかバケツを登り外に出ようとしている。


(元気そう……
 にんまり……)



サワサワ動く沢蟹たちには、夕方まで元気にお過ごしいただかねばならない。


(なぜなら、美味しくいただくためだ!)


よし、涼しい場所にお連れしよう。

(もちろん、美味しくいただくためだ!)

あそこがいい……


リビングの先のキッチンのはし。
お猫様がよく涼んでいる薄暗い場所に、沢蟹たちを連れて行く。


ふだん屋根裏に上がると、お猫様はしばらく降りてこない。沢蟹がいることも知らないし、イタズラの心配もないだろう……


(サワサワ……)

蟹たちは元気だ。
ウキウキと勉強に戻った。



昼になる。


昼食を取るために2階から降りて行こうとすると……


ガサガサ さわわ さわわ


先ほどよりも大きな沢蟹の音。

(え? さすがに元気すぎじゃない?)


あわてて階段を降りて行くと、キッチンの方から……


さわわわ  

パンっ!

ガサガサガサ

ト、パンっ!


明らかに猫パンチをくりだしている音である。

リビングに入ると……


さわさわ  さわわ……


床をはい回る沢蟹たち


そして、その奥に、

蟹に手をはさまれ、振りほどくお猫様。


「えーっ!」

(カタンっ……)


小さな叫びとほぼ同時に、猫扉から脱走する音。

悔しい……

が、それより、リビングでかくれんぼを始めた沢蟹たちをなんとかせねば!

あわてて沢蟹を集めていると……


「なーん……  ふぁ〜」

どこをどう移動したのだろう? 
先ほど出て行ったお猫様が、押入れから出てきた。

しかも、今起きたばかりみたいな雰囲気を出し、
おや? 私がいない間になんの騒ぎですか?
のキョトン顔である。


ぐぬぬぬ……



とりあえず、猫とは思えぬ誤魔化しを演じるお猫様に感服してしまい、おとなしく撫でてやりながら、沢蟹をあつめた。

そして、苦労して捕獲し直した沢蟹は、夕方、無事に素揚げされ、美味しくいただいた。


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夏の思い出としてこの話を書いたが、書いていたら蟹を食べたくなってしまった。


猫だけでなく、蟹にも誤魔化される。

ぐぬぬぬ……


本物食べたいっ!!


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