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ノイズキャンセラー 第五章

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第五章

 芹沢の指導のもと、亜沙美は一段階上のカテゴリーを案内するトレーニング期間に入った。
 今までは注文前と発送前の問い合わせのみを受けていたが、追加で配送に関する問い合わせを受けるようになった。配送中にできることは少ない。
 大手の宅配業者の荷物の追跡サイトを使って、現状を案内することがほとんどだった。
 送り先の住所を間違えたという連絡は、対応してくれない業者が多いので、配送停止を依頼し、顧客へは正しい住所あての再注文を依頼する。
 亜沙美の勤める通販サイトは、関西に特化している。関西エリアだけ、早朝六時までの注文に『当日配送』のオプションを導入していた。
 配送料は上乗せされるが、需要がある。出荷数も関西圏の比重が高いため、いくつかの地域密着の配送業者と特別提携している。配達する荷物を安定的に供給する代わりに、一個当たりの単価を下げてもらっていると、琴美から聞いた。
 地域密着といえば聞こえがいいが、地元の小さな配送業者のため、どうしても配送トラブルが起こってしまう。電話対応ができる規模ではないため、誤配などが起こった時、サイトのコールセンターが対処する。
 亜沙美の職位だと、案内できることが限られていた。使用の権限を付与されていないツールがあるのだ。
 スムーズなお届けができるようにと、顧客にはお届け先の外観や近隣の施設との位置関係の情報提供を求めている。その情報は、おとどけの際のラベルに印字されているQRコードを、配送専用アプリで読み込むと内容を確認できる仕組みになっている。
 セキュリティーには細心の注意をはらっていて、提携配送業者の登録担当者へサイトからパスワードを付与し定期的に変更をしていく形式をとっている。
 他にも個人情報を守るためのいくつものセキュリティーがかけられている。
 亜沙美は、研修で概要の説明を受けただけだが、部署内に特別配送に関する専門チームがあった。琴美は専門チームに入りたいらしい。
 亜沙美は、今のポジションに慣れることで精一杯なので、まずは仕事を続けることが目標だった。
 コールが聞こえ、パソコンを操作した。
〈どういうこと!〉
 亜沙美が名乗る前に、電話口の女性から大声で怒鳴られた。つい身を引いて、ガスチェアが音を立てた。理由には触れずにただヒステリックに叫んでいるため、どう切り出して良いか困っていた。
 亜沙美は、何度か、お詫びの言葉を発しているが聞いている風ではなかった。
 さっきから黙っとるけど、聞いてるん。
「ご迷惑をおかけしており申し訳ございません」
 ようやくまともに言葉を聞いてもらえた。
〈謝ってもらわんでええよ。今すぐあんたが持って来て、だいたいあんた誰? 名乗りもしないでどういう教育受けてるん?〉
「し、失礼いたしました」
 亜沙美は狼狽えてしまっていた。なんとか社名と名字を伝える。
〈で、いつまでに届けられる?〉
「配送状況をご確認しますので、少々お待ちください」
〈は? 今まで何してたん? あんたまじ使えんなあ。寝てたんか? え?
 亜沙美には、この仕事につくまで、怒鳴られるという経験自体がなかった。
 受付の仕事でも、クレーム対応に近いことはあった。以前の同僚が、怒鳴られたと言って落ち込んでいたのを励ましたことはある。だが、その時にはすぐに店舗の警備員と、男性社員が駆けつけてくれたと聞いた。
 激しい怒りをぶつけられた時には、まず、傾聴しましょう。怒りの原因を特定し、問題を解決すればお客様のお怒りは静まります。
 研修中にきいたトレーナーの言葉が思い出される。
「お調べしますので、少々お待ちください。」
〈少々ってどんくらい? 三十秒か? これ以上、待たされるのはかなんで〉
 亜沙美はとっさに言葉が出なかった。
〈もう三十秒経ったやろ! はよ、いつ届くか言うて!〉
 また叫ばれた。
 亜沙美は完全に委縮してい。
「も、申し訳、ございません。すぐ、お調べしますので」
 配送状況をみる前に、注文を特定する必要があった。どの注文か訊ける雰囲気ではない。亜沙美は気が動転していて、どの画面をまず開けばいいのかもわからなくなっていた。やっと表示させた注文一覧を、操作ミスですぐに閉じてしまった。もう一度開くのにどこをクリックすれば早いかがわからなくなり、画面上でポインターが右往左往している。
『まず、ボリュームを下げて』
 画面に芹沢からの指示が表示された。
 言われたようにボリュームを半分まで下げた。相手は大声なので。十分聞き取れるはずだ。
 次に注文の番号が表示された。
『クレジットカードの承認がされずに出荷されていない』と、遅れている理由も教えてもらえた。
 わかったとしても、どう伝えれば良いかがわからなかった。こういう時は、クッション言葉だと思い、亜沙美は「恐れ入りますが」と、言った。
〈なんや!〉
 叫ばれたが、ボリュームが小さいだけ随分ましに感じた。
「実は、お問い合わせのご注文ですが、クレジットカード会社からお支払いの承認が」
〈はあ? 私が悪い言いたいんか!〉 と、遮られた。
『いえ、そのような意図はございません。カード会社にて何か問題がある可能性もあるため、一度カード会社へご連絡をお願いいたします。』
 芹沢が伝える内容を教えてくれた。少し詰まりながらもなんとか伝えた。
〈客に、連絡させるんか! そっちでカード会社にすぐ決済するように言えばええやろ〉
 話が全く通じない。亜沙美はどう返したらいいのかわからなかった。
『個人情報保護の関係で、弊社からの問い合わせでは詳細について開示されません。お手数をおかけしますが、お客様にてご連絡をお願いいたします。』
 亜沙美は芹沢の書いてくれたままを伝えた。舌打ちが聞こえた。
〈もうええわ! キャンセルする。二度と買い物するか!〉
 電話を切られた。
 亜沙美は取り残された状態になり、すぐには何もできなかった。相手の声が無くなり、自分の呼吸と鼓動が、随分速くなっていることに気づいた。
『キャンセル処理をして、メールを送って。終わったら、ミーティングに設定変更して』
 芹沢の指示が表示され我に返った。
『かしこまりました』と返信して、該当の注文のキャンセル処理をし、定型文を使ってメールを送信した。
 亜沙美が設定をミーティングに変更した途端、芹沢が立ち上がった。
 亜沙美はヘッドセットマイクを外し、定位置にかけた。
 ミーティングルームに入るなり、芹沢から「大丈夫?」と、声をかけられた。
 亜沙美は「大丈夫です」と頷いた。
 芹沢が指示を出してくれたおかげで、途中からは少し落ち着くことができた。
 ただ一人でうまく応対できる気はしない。いざ大声を出されると、研修で言われていたことは何一つできなくなった。
「あれほど一方的なお客様には、滅多に当たらない」
 時々はいるということだ。亜沙美はつい俯いてしまった。
「お客様が声を荒げたら、まず、ボリュームを下げて、ヘッドホンを片耳だけずらすといいよ。聞こえにくくても、内容のあることを叫ぶ人はいないから大丈夫。理解できているかなど問われたら、謝って、聞き取れない部分がございましたので、もう一度ゆっくりおっしゃっていただけますか? と言えばいい。またしばらく騒がれると思うけど、その間で、直近の注文や、過去の問い合わせ履歴を確認しておけば、だんだんと何が問題で怒っているのかが見えてくる」
 まずは動揺しないことが大事なのだろう。先ほどの顧客も自分に問題があったことがわかったから、電話を切ってくれた。
「お調べするので保留にいたしますと伝えて、しばらく間を置くのも結構効果がある。もう少し暴言が続いたら、警告音声に切り替えていいよ」
 そこまで言ったあとに、芹沢が眉根を寄せた。今まで見たことのない厳しい表情だった。
「一切、聞く耳を持たない顧客は一定数存在する。そういう人の言葉は雑音だと思うしかない」
 声もいつもより低くなった。
「元を絶たないと、雑音はなくならないから厄介だ」
 芹沢にも嫌な経験があるのかもしれない。ただ優しいように見えていた芹沢の闇を垣間見た気がした。
「だけど、電話の向こうにいる顧客からは、殴られる心配はないよ」
 芹沢に微笑みかけられて、亜沙美はつい見つめてしまった。
「何度も、ああいう問い合わせをしてきたら、電話応対不可先になるから、本当に少ないよ。安心して」
 芹沢がブラザーとして、優しく丁寧に教えてくれているだけなのだとわかってはいる。それでも亜沙美は、ときめきを感じた。
 商品が予定通りに届かない。要因は限られている。
 先ほどの顧客のようにカード会社の承認がおりなければ決済されない。カード会社の承認がおりない理由もいくつかある。
 顧客が登録の際に番号や有効期限を間違えている場合、カードの使用限度を超えている場合、そして、登録をしているのがデビットカードで、銀行の残高が不足していて担保が確保できなかった場合、チャージタイプも残高が足りなければ承認がおりない。
 ほかにも、商品の梱包作業中に破損が起こってしまうと出荷が遅れる。
 発送後、輸送中の紛失もある。送り状がはがれてしまい、届け先が特定できなくなるケースなどだ。
 荷崩れを起こし、段ボールが破れた場合は返送され、返金される。
 注文が殺到し出荷準備に時間がかかると想定される場合、サイトにはお届け予定日ではなく『出荷の際にメールでお知らせします。』と、表示されるらしい。
 亜沙美はまだその状態を見たことがない。セール期間や、クリスマスシーズンには発生する可能性があると習った。
 芹沢の言うように、顧客から怒鳴られることは滅多にない。だとしても精神的にはかなりの負担がかかった。
 明日が休みのため琴美の家に遊びに行くことになっていた。亜沙美は愚痴を聞いてもらおうと思った。
 残り時間が三十分ほどになった時に、芹沢に急に呼び出しが入った。ブラザーが不在になる場合、自習になる。
 休み明けからは、配達完了後のトラブルの対応が始まる。商品の不具合や、破損など返品を受け付けるかの判断をしていかなければならない。より難易度があがる。
 亜沙美は基本的なことの復習に使った。
 亜沙美は、自習中に見直した資料ファイルのタイトルと、今日のお礼などを芹沢にメールして、退勤した。

 琴美の家に行くのは初めてだった。会社帰りにそのまま一緒に向かうことになった。
 琴美は機嫌が良かった。亜沙美は、クレーマーから受けたダメージが残っているものの、明日明後日が休日のためいくらか気分が上向いてきた。
 琴美は、亜沙美が家に来ることを随分楽しみにしてくれているようだ。夕食の下ごしらえもしてあると言う。歓迎されていることが亜沙美は嬉しかった。
 逃げるように引っ越してきたこの土地で、友人が出来た。琴美が芹沢に思いを寄せていることが気がかりではある。異性のことが絡むと友情はすぐに壊れる。
 亜沙美は、コールセンターへの就職が決まった時点で、職場に近い女性専用のワンルームマンションを借りた。
 食料品の買い物も近所で済ませていた。休みに遊びに行くこともなかった。
 定額で映画見放題のサービスに加入して、気になったものを視聴するのが唯一の楽しみになっていた。
 琴美の家へは、バスで二つ先の停留所まで移動する。バスに乗るのは久しぶりだった。
 席はすべて埋まっていた。すぐに降りるので、車両の前の方に立った。琴美が一緒にいるので車内の男性客のことも怖くなかった。
 琴美は、運動のために帰りは歩くことが多いと言った。
 前職で亜沙美は立っている時間が長かった。今は、一日座っているのでどうしても運動不足になる。まだ影響は出ていないが、長く続けると体重が増えていくかもしれない。
 近くにトレーニングジムがあるけれど、通うことはできない。そのうち、自宅でできる運動を調べようと考えていた。
 バス停から五分ほど歩く。亜沙美の住んでいる辺りは、オフィスや商業施設が多いが、この辺りは住宅街だった。
「芹沢さんもこの近くみたいよ」
 コンビニエンスストアの前で琴美が言いだした。
 前に買い物をしている姿を見かけたらしい。亜沙美は、芹沢の私生活について考えたことがなかった。
 芹沢を異性としてみないために、無意識に遠ざけていたのかもしれない。興味を持って知っていけば、さらに惹かれてしまう。亜沙美は自分が傷つくことになると決めつけていた。とにかく社内で人間関係のトラブルになるのは避けたかった。
 琴美の家に着いた。白いタイル調のキレイな建物だった。一階につき二軒ずつの四階建てだ。間取りは2LDKらしい。一人暮らしにしては広めだ。大阪よりは随分家賃の相場が安いけれど、築年数も浅いオートロック式のマンションだと結構しそうだ。亜沙美と貰っている給料は変わらないはずなのに、維持ができているのが不思議だ。親の支援があるのかもしれない。
 琴美の部屋は二階だった。扉を開けた途端、中から花の香りが溢れてきた。外壁も白だが、内装も白で統一されている。備え付けの家具や壁も白い。照明もスタイリッシュだ。
「素敵な部屋だね」
 亜沙美は素直な感想を伝えた。
「嬉しい! 最近引っ越してきたところなんだけどね。住宅情報をみて良いと思って、結構即決だった」
 芹沢の家が近いのは偶然ではなかったのではと勘ぐってしまう。
「芹沢さんと近そうなのは、偶然だよ」
 顔に出てしまったのか、琴美に補足された。
「お邪魔します」と、言ってあがった。琴美に、玄関からすぐの扉の前で「ここは、散らかってるから絶対開けないでね」と言われた。心配せずとも、人の家で案内もなく部屋を勝手に覗いたりしない。
「料理を用意するから、適当にテレビでも見ておいて」
 亜沙美はあまりテレビをみない。手持ち無沙汰になりそうだと思い「基本的なことならできるから手伝うよ」と切り出した。
「え! 嬉しい! 良いの!」
 琴美の反応が大げさだったので、亜沙美は内心ひいた。
「待ってて、エプロンを持ってくるね」
 琴美が小走りで別の部屋に取りに行く。
 せっかく誘ってもらってきたのだから、自分もテンションを上げなければと亜沙美は思った。
 琴美が戻ってきた。
 エプロンを手渡される。胸元がピンクのハート形で、全体的にフリルがあしらってある。ひと昔前のアイドルの衣装を思わせるエプロンだった。
 琴美は、黒くてシンプルな、カフェの店員風のエプロンをつけていた。
「同じようなデザインのは、ないの?」
 抵抗を感じて聞いてみた。琴美にないと言われた。よく考えてみれば、あればそちらを持って来たはずだ。
「昔、学園祭で使ったやつだから、派手でしょう。でも、佐藤さんなら似合うと思って」
 似合いはしないと感じたが、借りる身なので受け入れた。亜沙美がエプロンをすると、琴美は「やっぱり、すごく似合う!」と、大げさにほめてくれた。
 パプリカを短冊切りしてほしいと頼まれ、切り始めた。
 赤く大きなパプリカで、包丁を入れるとザクッと良い音がした。
 琴美が「記念に写真撮っちゃおう」と言いながら、スマートフォンを構えた。
 亜沙美は笑顔を作ったが、本当は、このエプロン姿の写真が残るのはかなり嫌だった。
 夕食は、パエリアやサーモンマリネ、かぼちゃのスープなどだった。もともとほとんどできていたので、手伝ったのはサラダだけだった。
 リビングのテーブルに料理を運んで並べていると「お酒、どれがいい?」と訊ねられた。亜沙美はあまりお酒を飲まない。少し迷っていると「今日、嫌なことあったんじゃない? 飲んでパーッと忘れちゃおう」と言われた。
 芹沢と途中ミーティングルームに入るのは、嫌な対応の後だ。また、琴美に気づかれていた。
 お酒を飲んだらストレス発散になる気はした。
 琴美にワインをすすめられた。
 アルコール度数の高いものはすぐによってしまいそうだ。缶酎ハイも用意してあるというので、柑橘系のものを選んだ。
「食べる前に、お料理の写真撮るね」
 琴美に声をかけられた。
「女子会、楽しいね」
 カメラを向けられたので、笑顔を返した。
 早速食べ始めた。琴美はかなり料理が上手いのがすぐにわかった。
「お店のお料理みたいに美味しい」
「ありがとう。嬉しい」
 食事が美味しいと、お酒もすすむ。グラスが空になったので、注いだ。
「で、今日のはどんな客だったの?」
 琴美に訊かれた。
 亜沙美は、最初からヒステリックに叫ばれ続けたことを話した。
「何、そのおばさん」
 琴美はそう決めつけたが、相手の年齢はわからない。
 キャンセル処理をしたものは、三千円の電子タバコのセットだった。
「私は、そうやって些細なことで異様に怒りまくるのは薬中を疑っている」
 亜沙美は首をかしげる。
「覚せい剤とかそっち系」
 琴美は、真顔で返してきた。琴美の発言にも偏りを感じる。亜沙美は「そんなことは」と返した。
「よく考えて、今までの人生で、叫び続ける相手に会ったことある? そういう人は、普通じゃないんだって」
 確かに、会ったことはない。
 それでも、ストーカーの黒井や親切心を装い襲い掛かってきた松尾のような常識をはずれた行動をとる人物もいる。
 ただ、顧客に関しては、この先、対面する可能性はほぼない。害は、その場だけで終わるから、ずいぶんましだ。偶然どこかですれ違ったとしても、お互いに気づくことはない。
 琴美のように決めつけて割り切った方が、精神的負担は軽くなる。客の方もきっと、声しか知らない通りすがりの担当者だからこそ、あのように振舞えるのだ。
 怒鳴られたことをどこか引きずっていたが、急に心が軽くなった。
「そうだ、すごく飲みやすいお酒があるから、一緒に飲もう。少しくらいなら大丈夫でしょう?」
 亜沙美は頷いた。
 琴美が真っ青な瓶と、真っ赤な切子ガラスのお猪口を二つ取ってきた。
「スパークリング日本酒なの」
 早速口をつけると、甘くて飲みやすい。お猪口なので、すぐ飲み切った。
「もう少し飲む?」
 亜沙美は迷わずに頷いた。たわいない話をしているうちに、琴美が注ぎ足すので、亜沙美は気づかないうちに飲み過ぎていた。時間もいつのまにか二一時を回っている。帰らなければと思ったけれど、体が思うように動かせなかった。
「あさみん、もう、飲みすぎ。酔った顔、撮っちゃおう」
「えー、やめて」
 顔を隠そうとしたが間に合わず、写真を撮られた。琴美も酔ったのか上機嫌だ。
「明日休みだし、泊まっていくよね」
 この時間にバスが何本あるのかもわからない。タクシーで帰るのももったいない気がする。
「でも、着替えがないから」
「一日くらいどうってことないでしょう。体形が似てるから未使用のショーツあげようか? なんなら一緒にお風呂入る?」
 温泉でもないのに、一緒に入るのはおかしい。
 琴美は完全に酔っているらしい。考えれば明日の早い時間に帰って汗を流せばすむ話だった。
「泊めてもらうね。お風呂は帰ってから入るからいいや」
「やったー。じゃあ、もっと飲んで、『恋バナ』とかしよう」
 恋の話と言われても、亜沙美にはネタがなかった。
 泊まることになったので、亜沙美はもう少しお酒を飲むことにした。琴美の家なら安心して酔える。
「あさみんは、高校の時に彼氏いた?」
 高校の時は誰とも付き合わなかった。
 三年生になってすぐにクラスメイトの男子に告白をされ断ったら、校内でセックスをしたという嘘の噂を流された。
 友達は信じなかったが、話したこともない相手からは変な目で見られるようになった。訂正をしてもきりがなく、亜沙美は地元にいるのが嫌になって大阪の短大に進学したのだ。
「短大の時は?」
「バイト先の人とちょっとだけ付き合ってた」
 亜沙美が体をなかなか許さずにいたら、別れを告げられた。
 就職してからは、ストーカー被害に遭って転職しただけだ。
 亜沙美はざっくりと話して聞かせた。
「男運、悪くない?」
 亜沙美も感じていたことだった。
「ストーカーもだけど、襲おうとした男が一番許せない」
 琴美が本気で憤っている。
「話からすると、あさみん、そいつに初めて奪われるところだったんじゃ?」
 指摘されて、あの夜の恐怖がよみがえった。亜沙美は泣き出してしまった。
 琴美に抱きしめられた。
「ごめん、嫌なこと思い出させて」
 しばらく琴美の頭を撫でられながら泣いた。優しく慰められているうちに落ち着いてきた。
「もう、大丈夫」
 琴美に、顔を洗うように言われた。
 洗面所から戻ってくると、テーブルの上の食器が片付けられていた。
 代わりに、さきイカや、ナッツ類が盛られたプレートがあった。
「せっかく泊まるんだから、とことん飲もう」
 亜沙美はつぶれるまで飲んだことはなかった。たまにはいいかもしれないと思った。お酒を再開した。
「あさみんは、芹沢さんのことどう思ってる?」
 亜沙美は言葉を選ぶ。
「優しくて、アドバイスが適切かな」
「それだけ?」と、顔を覗き込まれた。
 ゆっくりと頷いた。
「琴美さんは?」
「えっ、嫌い」
 間髪入れずに意外な言葉が返ってきたので亜沙美は口を開けたまま動けなかった。
「そんなに驚くことないじゃない」
 恋愛感情を抱いていないだけなら、わかる。嫌う要素はない気がする。
「芹沢さんて、顔は普通、スタイルも痩せてるってだけで普通でしょ」
 間違いではないと思い亜沙美は頷いた。
 琴美は「普通のみためのくせに、動きとしゃべり方がイケメン風なのが嫌」と、言った。
 かなりの言いがかりだ。
 琴美の言うように、芹沢の動きはどこか洗練されている。だから、美容師としての芹沢を見たくなるのだ。
「あの人、誰にでも優しいでしょう」
 亜沙美は、他の人と話す芹沢をあまりみたことがなかった。
「あさみんはまだ、電話を交代してもらったことないから知らないと思うけど、すごいクレーマーの応対しててもずっと、あんな感じ。ああいう、一見、仏のようなタイプって、心がないから穏やかでいられるのよ。サイコパスに決まってる。好きになったら絶対不幸になる相手」
 琴美の言い分には納得できなかったが「好きにならないから、大丈夫」と返した。
「すごく安心した。あさみんが不幸になるのなんて嫌だもの」
 琴美は「そろそろ寝ようか」と言い出した。とことん飲もうと言っていたのに気が変わったようだ。
 それから、よく眠れるハーブティを淹れると言ってキッチンへ行った。
 戻ってきて渡されたお茶は、苦くて美味しいものではなかったが、不思議とすぐに眠気に襲われた。
 亜沙美にしては酒量が多かったせいだと、思った。
 琴美に支えられて寝室に入ったところで、亜沙美の記憶は途切れた。

 尿意に耐え切れず目を覚ますと、すっかり明るくなっていた。
 見覚えのない天井に一瞬戸惑ったが「起きた?」と、琴美に声をかけられたのですぐにどこにいるかを思い出せた。
「お手洗い借りるね」
 起き上がると、自分が服を着ていないことに気づいた。
「ごめん、着替えさせてる途中で、もう動かなくなったから」
 ショーツしか身につけていなかった。
 途端に昨夜見た夢の内容を思い出して、亜沙美は焦った。
 夢の内容を琴美に知られる心配はないのに、枕元に畳んでおいてあった自分のカットソーだけをひとまず着て、トイレに逃げ込んだ。
 亜沙美は、芹沢に抱かれる夢を見たことを思い出したのだ。
 知識としてはあっても実際にどんな感覚なのかは知らないはずなのに、優しく愛撫され感じている夢だった。
 快感を逃したくなくて、亜沙美は芹沢の名前を呼び、背中に腕を回してしがみついた。
 夢とはいえ、大胆な行動をとった自分が恥ずかしくてたまらなかった。
 そして、相手が芹沢であったことにも動揺していた。自身の願望から見た夢だと思った。
 琴美に忠告されようが、自分で抑え込もうとしようが、亜沙美が芹沢を異性として意識している現実を、突き付けられた。
 経験もないくせに、夢を見るほどに欲求不満の状態であることが恥ずかしくて仕方なかった。
 忘れてしまいたいのに、一度思い出してしまうと、夢の中の甘い感覚を探してしまう。
 亜沙美は過去にみた映画のラブシーンの切り貼りでできた夢の痕跡に、捉えられていた。
 トイレで下着をおろすと、おりものが付着していた。亜沙美は早く家に戻ってシャワーを浴びたくなった。
 服を着るために寝室に戻った。琴美はまだベッドの中にいた。亜沙美がブラジャーを付け始めると「あさみん、胸大きいよね」と言い出した。
「普通じゃない?」
「こらっ!」
 琴美が起き上がって勢いよく亜沙美のそばに来た。胸をわしづかみされた。
「こんなにやわらかいおっぱいしといて」
 揉みしだかれた。指先が乳首をこする。相手が同性でも他人に触られると感じてしまう。
「もう、やめて」
 亜沙美は琴美の手を押さえた。
「自分の胸が大きいって認める?」
 亜沙美は仕方なく頷いた。
「あっ、あさみんは共学だったからこういうノリなかったのか。私は、女子高だったから普通におっぱい揉みあったりしてたんだよ」
 琴美の距離の近さは女子高の感覚なのだろう。戸惑うこともあるが多少触られても相手は同性だ。今は仲良くしてもらえることがありがたかった。
 亜沙美は、着替えたら帰ることを告げた。琴美から「この後作業で忙しいから送らなくても良い? 今日は、良い材料がたくさん仕入れられたから、いつもより時間かけたいんだ」と言われた。なんの作業か訊いてみると「趣味でいろいろ作ってるの」と、内容までは教えてもらえなかった。
 何かハンドメイドをしているようだ。亜沙美は早く帰宅したかったのでそれ以上は訊かなかった。玄関までは見送られた。
「また、遊びに来てね」
 琴美が目を細めた。
 亜沙美は、大きくうなずいた後、手を振ってから外へ出た。
 まだ通勤時間帯にかかっているので、バスには乗らずに歩いて帰ることにした。
 亜沙美と芹沢のシフトは同じなので、今日は休みのはずだ。まだ時間が早いので出かけはしないと思いつつ、会ってしまうかもしれないと、歩きながら辺りを見回す。
 芹沢に会いたいのか会いたくないのか亜沙美自身にもわかっていなかった。
 二日間の休日を、亜沙美はただ落ち着かずに過ごしてしまった。
 たまった家事をしながらも、映画をみながらも気が付くと芹沢のことを考えていた。こんなことでまともに仕事ができるのか心配になる。
 あれ以来、恥ずかしい夢は見ていない。しかし、亜沙美の悩みは解消されることなく出勤の時間になった。
 ロッカーに私物を置いて、コール室に入った。
 芹沢はいつも早めに席についている。亜沙美が席にたどり着くと当時に、芹沢が椅子を少しひいて振り返った。亜沙美は目が合った途端に頬が熱くなった。慌てて、頭を下げて、席に座る。
 すぐに、パソコンのスイッチを押した。OSのマークの後で、会社のロゴが表示された。社内のシステムにログインする。
『おはようございます』
 芹沢からのメッセージが入った。
 亜沙美も挨拶をした。
 朝一番で、芹沢から今日の予定が知らされる。昼休みの後、二時間、ケーススタディがあるらしい。講師は芹沢だった。午後の話なのに、亜沙美は緊張してしまった。
『今日は、慣れない操作が多くなるけど、佐藤さんなら大丈夫』
 芹沢から、優しい言葉をかけてもらえた。
 電話対応に入る前にメールチェックをする。休み明けなので、社内ニュースがたまっていた。隣から、芹沢のタイピング音が聞こえてくる。先週まで、気にならなかったことに意識がいく。亜沙美は音が出ない程度に自分の頬を掌でたたいた。
 実際業務が始まると何も支障はなかった。隣にいるとはいえ、衝立で仕切られている。チャットで声をかけられると、前より嬉しく感じた。
 商品が顧客の手元に届いた後の問い合わせは、返品に関するものが主だった。最初に、返品理由による切り分けが必要になる。
『サイト情報に誤りがあった。』『別の商品を送った。』『製品に不具合があった。』などのこちら都合による返品か、『注文を間違えた。』『いらなくなった。』などのお客様都合による返品でわける。どちらが返送料を負担するかが変わってくる。
 もし、お客様都合の返品が着払いで返送されてくると、返金額から控除される。
 返品に付随した「返金はまだか」「返金額が少ない」なども応対するようになり、一気に対応範囲が広がった。
 忘れたころに、高齢者の「アカウントがうまく作れない」という問い合わせにあたると、癒された。琴美が前に「アカウントもすんなり作れないで、買い物がまともにできるはずがない」と、言い捨てたのを思い出す。確かに琴美の言い分には一理ある。実際、注文がうまく進められずに繰り返し問い合わせしてくる高齢者もいるようだ。亜沙美は「遠くにいる孫にプレゼントを贈りたい」や、「足が痛くて遠くに買い物へ行けないので利用したい」など、理由を知ると、力になってあげたくなる。芹沢から「目先の成績でなく、サイトの発展を優先させた応対は、ちゃんと評価されるから安心して」と、言われている。
 成績のことは気にすべきことではある。それでも亜沙美は重きをおいていなかった。
 自分の成績がブラザーの評価に影響するとしても、今は、人の役に立っていると思えることの方が大切だった。
 もちろん、わざわざ芹沢の評価を下げたくない。時間がかかった後は、他で取り返す努力をしている。
 顧客の抱えている問題の原因を、出来るだけ早く特定し解決に導く。
 ページのどの項目から開いていくのが効率的かを考える。
 支払い情報なのか、配送状況なのか、サイト全体の問題の場合は、顧客宛にメールが一斉送信されていることもある。亜沙美は、落ち着いてさえいれば要領よくできる。ただ、せっかちな顧客相手だと急かされてかえって時間がかかることがある。亜沙美は早くしゃべるのが苦手だった。
「無理に早く話す必要はないよ。せっかちなタイプは、次々別の質問をしてくる傾向がある。必要なことを聞きとったら、いったん、保留を使っていい。その代わり、できるだけ手短に調べてすぐ保留を解除して。ひとつひとつ片付けていく。操作に慣れてきたら、保留にしなくても相手をしながらできるようになる」
 相談をした時に芹沢からそう言われた。
 芹沢は甘いわけではないと亜沙美は感じていた。多分、やる気を引き出すのが上手いのだ。責められないことで、できるようになりたいという思いが強くなる。
 芹沢がブラザーになると仕事が続くのは、フォローアップ期間中でしっかり自立できるからだと亜沙美は思う。
 亜沙美はまだ、芹沢が実際にクレーム対応をする場面には出会えていない。
 それは、亜沙美が代わってもらわなければならないほどのクレームにまだ当たっていないからだ。当たりたくはないけれど、琴美が、芹沢をサイコパスだと言い出すほどの冷静な対応を見てみたかった。
 一つ一つの問い合わせの間に調べることが増えたので、時間が進むのが早かった。
 午後は、芹沢から講義を受けることになっていた。二人きりで数時間、ミーティングルームにこもる。意識していることが態度に出てしまわないか心配だった。
 お昼休みに入った。夜になかなか寝付けなかったせいで弁当が用意できなかった。亜沙美は近くの弁当屋に買いに行くことにした。ロッカーへ財布を取りにいく。コール室は温かいけれど、外は上着なしではもう寒い季節だ。
 亜沙美は通勤中に着ているジャケットを羽織った。
 エレベーターへ向かっている途中で、芹沢に声をかけられた。
 芹沢も外へ行くらしい、紺色のジャケットが似合っていて亜沙美はついときめいてしまった。一緒にエレベーター前まで歩いた。
「いつも、お弁当を持って来てなかった?」
 亜沙美は「寝坊したので」と答えて、俯いた。
 芹沢とは、コール室とミーティングルーム以外で顔を合わすことはほとんどなかった。
 エレベーターがとまった。コールセンターの職員は、食堂でお弁当を食べる人が多いので、同じ階から乗り込むのは二人だけだった。
「どこかに食べに行くの?」
 訊かれたので、弁当屋に行くと伝えた。
「それなら一緒に食べに行こう。おごるよ」
 思いがけない言葉をかけられて亜沙美の鼓動は早くなった。
「いつも行く、定食屋でいい?」
 芹沢と、仕事に関係のない話をすること自体初めてだった。
「いいんですか?」
 亜沙美は、自分が変な態度をとっていないか心配になる。
「庶民的な価格帯だけど、わりに美味しいよ」
 エレベーターを下りるとすぐに芹沢はビルの出口へと向かい始めた。歩くのが速い。亜沙美は、小走りに近い状態でついていく。芹沢はすぐに気づいて、速度を緩めてくれた。
 芹沢がこうして誘ってくれるのは、やる気を引き出すのが目的だとわかっていても浮かれてしまう。
 定食屋は、歩いて五分ほどの場所にあった。店の前に立て看板が出ていてチョークでランチメニューが書いてある。
 十一時から十四時まではAランチかBランチを選ぶようになっていて、価格は七百円だった。Aが生姜焼きで、Bがさわらの照り焼きだった。
 店内には、カウンターが五席と、テーブル席が三つほどあった。内装は喫茶店に近い。カウンターが三席空いていたので並んで座った。
 年配の女性が一人で切り盛りをしているらしい。
 カウンターの向こうから歓迎の挨拶された後、おしぼりが出された。芹沢が伏せておいてある湯飲みを二つとって、お茶を注いでくれた。亜沙美は気を利かせる余裕もなく、ただ座っていた。
「どちらか決まった?」
 芹沢に訊かれ「生姜焼きの方で」と返した。
「A二つでお願いします」と、芹沢が調理中の女性に注文をした。
 結構な年齢に見えるのに、動きがテキパキしている。ちょうど一席分出来上がり配膳しに行った。
「ここのオーナー、動きに無駄がないから、見ていて飽きないよ」
 芹沢が『おばちゃん』などではなく、オーナーと呼んだのは、尊敬しているからだろう。亜沙美には頻繁に外食をするような経済的な余裕はないが、そのうち琴美を誘って来ようと思った。
 カウンターテーブルと、キッチンは、三十センチほどの高さの棚で仕切られている。
 オーナーはフライパンの様子を見ながら、棚の上にトレーを二つおいて、小鉢を並べた。芹沢の言うように効率が良いのがわかる。
 亜沙美も自分の対応の中でこの効率の良さを意識したいと感じた。芹沢が、昼食に誘ってきた意図を亜沙美は理解した。
 トレーに出来立ての生姜焼きが載せられた。芹沢が「オーナー、取っても良いですか?」と、声をかけた。
「お待たせしました」
 オーナーが芹沢に笑顔を向けた。オーナーはかなり手際がいい。亜沙美は、まったく待たされた気がしていなかった。
 芹沢が亜沙美の分を先に、手前に置いてくれた。亜沙美は、もたついている自分が恥ずかしくなり、お礼を言う声が小さくなった。
 隣から「いただきます」と、聞こえてきた。ごく当たり前のその挨拶だけで、芹沢への好感が増した。
 割り箸を割ったのがわかる。
 カウンターで横並びだといつもより距離が近い。亜沙美は腕が触れるのではないかと気が気でなかった。しかし、テーブル席で向かい合うよりは良いとも思っていた。顔を見られながら食事をするのには、耐えられない。 
 亜沙美も手を合わせた後で箸を持った。生姜焼きは味付けも濃すぎず美味しい。火の通し加減が適切なのか、お肉もとてもやわらかい。
「美味しいでしょう?」
 芹沢の問いに、亜沙美は「はい、とても」と、返した。
 ふと、この数年のうちに、これほど嬉しく感じる出来事はあっただろうかと思った。芹沢と一緒に、仕事以外のことをしているだけで、ここまで気分が高揚するとは想像していなかった。
 そっと、芹沢の方へ視線をむける。箸を持つ指が綺麗だった。急に自分が見てしまった夢を思い出し、亜沙美は慌てて目をそらした。
 亜沙美は、食べるのにいつもより時間がかかっていた。
 芹沢から「ゆっくり食べて」と言われたけれど、そうもいかない。
 ようやく食べきると、芹沢がお茶を注ぎ足してくれた。
「まだ、時間は大丈夫だよ」
 二十分ほどは残っていた。
 お茶を飲み終わったので、戻ることになった。
 会社に向かって歩いていると、亜沙美のスマートフォンが震え始めた。芹沢に断って出ると、琴美だった。
〈どこにいるの? 休憩が三十分重なってるからデザート持って来てるんだけど〉
 亜沙美はとりあえずお礼を言った。
「お弁当がなかったから外に出たの」
〈一人で?〉
 亜沙美は、芹沢と一緒にいることを言うか迷った。
〈もしかして、芹沢さんと?〉
 一緒に出ていったことを誰かに見られた可能性もある。やましいことはないので、亜沙美は肯定した。
〈誘われたの?〉
 琴美の口調がきつくなった。
「たまたま、エレベーターで一緒になったから」
 亜沙美は言い訳をした。
「大丈夫?」
 芹沢から小声で訊かれた。亜沙美は、すぐに戻ると琴美に説明して電話を切った。
「村田さんが、私を探していたみたいで」
「そうなんだ。悪いことしたなあ」
「いえ、約束があったわけではないんです」
 亜沙美は、もう一度食事のお礼を言った。
 琴美が、芹沢を悪く言ったのはきっと、亜沙美が芹沢を好きにならないようにするためだ。やはり、琴美も芹沢のことを想っている。どちらかが芹沢と付き合えるとも思えないが、十分に厄介だった。亜沙美は、芹沢への想いを誰にも悟られないように気を付けなければと、自分に言い聞かせた。

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