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『一九九一年未刊詩集 青春』

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人に読ませることのできる詩を書けるようになったのはおそらく、十七歳か十八歳、高校三年生か大学一年生のころのことだと思う。人に読ませることのできる文章を書けるようになった時期とほぼ…
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2020年12月の記事一覧

詩集『青春』 第三章 記憶の光景 作品24〜作品27

詩集『青春』 第三章 記憶の光景 作品24〜作品27



【作品24】 街の底

吹きぬける風は路地裏に冷たく
歌舞伎座の鳩は虚しく空を舞う
黄昏
すれ違う人々は言葉も少なく
うつむいたまま会釈を交わし
そこから始まる物語の舗道を
ゆっくり滅びへと歩いていった

そして 夜も更ければ
立ちならんだビル街の
あかりの数は減って
恋人たちの
不吉な予兆に満ち満ちた重苦しい沈黙を
街の底に響き渡る靴音が凛々と奏するのであった

●一九七一年 十一月

【作

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詩集『青春』 第四章 約束の日 作品29〜作品31

詩集『青春』 第四章 約束の日 作品29〜作品31



【作品29】 夜の恨み

にんげんよ 
永劫に不幸であれと
きわめて高い声で
いま わたしは叫ぼう

世界は新鮮でなくなれ
わたしの
夜を迎える深い恨み
閉ざされた物語の扉は
もはや 開かれることはない

わたしのなかの
裏切りへの深い憧れ
倫落の淵に垂らされた
重い錘鉛
人間たちの傷は
だれも同じように
赤い血を流すのだろうか

少年のころ 
わたしはむしろ
なにも尋ねない子供だった
この世

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詩集『青春』 作品32〜作品33

詩集『青春』 作品32〜作品33



【作品32】約束の日

暗く長い日々の果てに
巡りあった異形のもの
柔らかくうごめく闇に
仮面を付けた顔を埋めて
ひとよ
折れた膝のこころが味わう
愛の屈辱をわたしも愛そう

強いられた日々の果てに
ある朝訪れた異形のものよ
あなたもわたしに聞くのか
街に住む全ての人間たちについて
彼らの犯した全ての罪について

そうだ わたしこそ人間の世界の
もっとも醜悪な部分につながるもののひとりだから

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