ろきちゃんだ!
芸能界を目指すなら、テレビに出ることを目指すなら、街を歩いているときに一度くらいは「あっ」と、顔を差されたいものだ。そして、徐々に周りの人もろきちゃんに気づき始め、人混みの原因になってしまうみたいな。本当は嬉しかったのに、それがだるかったみたいな風に何かの媒体で「この前さー」とトークするみたいな。そんな経験をしてみたい。残念ながら未だそんな兆しすらない。
いや、そんな兆しが見え始めてきたのかもしれない。
4月3日。ろきちゃんが所属する東京大学大学院経済学研究科では、新入生向けに交流会が催された。色々な規制が緩和されて久しぶりの新年度スタートだ。そんな中、交流会では新入生おろか、他コースの同期とも初めて挨拶を交わすことになった。我々「経済史コース」は圧倒的少数派だったので、緊張しながら臨むことになった。なんとなく、グループに分かれて自己紹介していこーとなる。そんな流れ。懐かしい。3年前はこんな感じでグループワークとかしたなー。がしかし、そんなことより、次々と飛び交う名前にろきちゃんたちの情報処理能力は追いつかない。多分、次会った時には名前を思い出せないばかりではなく、顔すらもピンとこない気がする。それ程に情報が飛び交っていたのだ。ごめんなさい。
でも、これだけは忘れない。みんなで距離を計りながら、なんでもない質問から話をしていると進路の話になった。みんな博士課程に進学するんですかーとか。ろきちゃんにも話が回ってくる。え?博士にも進学しないし、就職もしないってどういうこと?と聞かれたので
「僕、お笑いやってて」
そう言うと、向かい側に座っていた女性が顔を指して
「ろきちゃんだ!」
と。兆しが見え始めた。しかし、あ!本当だ!と一種の熱狂が作り出されるハズもなく、会話に参加していた全員の頭にはハテナマークが浮かんでいた。
恥ずかしい。周りが続かない「あっ!」は、熱狂が飛び交うことのない「あっ!」は、ただただ恥ずかしい。気づいてもらえたけど…嬉しかったけど…でも今のろきちゃんにはその場を沸かすほどの実力はなかった。ろきちゃんはその気付いてくれた彼女を「マニアックな人」にしてしまった。
それにしても、ライブ後に新宿を歩いていても顔差されたことなんかないのに、どうして本郷三丁目で顔差されたんだ。彼女は相当なお笑いフリークなのか。
「え、お笑い好きなんですか?」
「全然。でも、ろきちゃんのnoteは全部読んだ」
そんなバカな。一体どういう経路でろきちゃんのnoteに辿り着くことがあるんだ。お笑い抜きでろきちゃんnoteに辿り着くことが出来るのか。
あー売れたかと思ったわ。本当に。
彼女は何も言わなかったが、サインくらい差し上げればよかった。
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