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韓国ドラマ「D.P. -脱走兵追跡官-」:いじめを黙認することの罪。

韓国ドラマ「D.P. -脱走兵追跡官-」を見た。疾走感溢れるドラマで、全6話あっという間に見終わった。いじめのシーンは刺激的だが、1話を見終わればいつの間にか最終回になっている。一気見推奨だ。

あらすじ

D.P. とは憲兵から選ばれた脱走兵追跡官のことで、軍務を離脱し脱走した兵士たちを連れ戻すことを任務としている。二等兵アン・ジュンホ(演:チョン・ヘイン)と先輩で組長のハン・ホユル(演:ク・ギョファン)のふたりがバディとなり、脱走兵を探しだす。アン・ジュンホは任務を通して、脱走兵たちが脱走した理由や事情を知り軍隊内部の問題を目の当たりにする。


この動画↑では、監督ハン・ジュンヒとチョン・ヘイン、ク・ギョファンの3人がドラマ「D.P.」を解説している。


部隊内での先輩と後輩

冒頭で「1話を見終われば」と書いたが、1話の部隊内で巻き起こるいじめがリアルで怖い。1話以降もいじめのシーンはあるが1話を耐えられれば次に進める。


釘の刺さった壁の前に立たされて、先輩にどつかれる。少しでもふらついたら、釘は頭に刺さる。当の先輩は苛立って小突いてくる。周りの人たちは助けてくれない。

夜になると、先輩たちの気に障った人は外に呼び出されていじめられる。新人が入ってきたら、先輩は新人をいじめるように指示してくる。先輩の命令は聞かないと自分が危ないが、新人をいじめる理由もない。


だんだんアン・ジュンホの部隊内での親友みたいな気持ちになってドラマを見入ってしまった。アン・ジュンホが先輩にいじめられてるときは彼を助けたいんだが、次は自分がいじめられるから怖くて助けられない。早くこのいじめの時間が終わってくれ、早くホユル来てくれ!と祈ることしかできない。そんな気持ちだ。しかし、このような行動が後の悲劇を巻き起こす。


いじめを黙認すること

誰もが部隊内でいじめが起きていることはわかっている。しかし、誰も止めることはできない。みんなより太っているだけでいじめられ、漫画や絵が好きだったらオタクだといじめられる。いじめの対象になってしまうことに理由はない。「ただ、気に入らなかったから」だ。

いじめが起きているのに止められない。いじめられている人を助けることもできない。これが結果的に、いじめを黙認することになる。最終回はここがポイントになっている。

いじめられていた側は「なんであの時助けてくれなかったんだ」「いじめてきた人の方が悪いのに、なんでいじめられた方が悪いようになるんだ」「みんないじめを黙認して、加担してたのと同じじゃないか」となる。なにも間違ってはいないし、いじめている人・見て見ぬふりをしている人たちが完全に悪い。


そのことが自明だからか、最終回はどうしようもない恐怖と不安と悲しみで心がいっぱいになる。脱走した兵士たちの脱走した理由に触れたとき、なんであの時に彼を助けられなかったんだろうか?、と後悔する。


おわりに:元自衛官の告発

単純に「日本ではD.P.みたいなことはないよ」とか、逆に「日本も同じだ」とは言えない。単純な比較は禁物である。他方で、「いじめ」はどこにでもある。それに関して、最近のニュースから思い出したことだ。

最近、自衛隊での「パワハラ」が話題になった。しかし、その内容はもはやパワハラというかそういうレベルではなく、脅迫だ。

自衛隊内部の壮絶なパワハラについて、上官と部下の実際のやりとりを録音した音声を入手。部下に対して「骨を全部折る」と暴言を吐いた上官に、news23が直撃しました。上官の考えとは・・・。
〈ボイスレコーダーに録音された上官の声〉「落とし前つけろって。つけるのか、つけんのか。どっちや!!」
これは男性自衛官が上官との電話を記録した音声だ。
〈上官の声〉「死ねや。殺したる。鼻の骨も頭蓋骨も折るよ。なあ、全部折る。お前の骨。一本一本折ったろか?全部」
上官は40分間にわたり延々と暴言を続けていた。自衛隊の内部で起こったパワハラ事案。

この元自衛官は「部隊内で孤立し、他の上官からも嫌がらせを受けるようになった」。別の上官にパワハラ被害を訴えていたが、まともに取り合ってくれずに、退職を迫られた。この上官がパワハラをしていたことは、他の自衛官も見ているだろうが、部隊には味方になってくれる同僚はいなかったようだ。


2013年の別のニュースだが、上司から暴行を受けた自衛官が自殺未遂を図ったといこともあったようだ。

自衛官も兵士も緊張感を持って任務を遂行しないといけないため、上官や先輩の命令に従わなければいけない。しかし、それとパワハラや暴力は別の問題だ。「上官がやっていたのは知っていたけど、黙認しました」ではよくない。しかし、黙認するしか方法がなかった、ということもあるだろう。しかし、それではよくない。

日本と韓国は徴兵制の部分では大きく異なる。「D.P」で脱走した兵士は、命懸けで脱走するしか生き残る方法はない。脱走しても自殺する兵士もいる。日本の自衛官は簡単ではないだろうが辞めることができる。そこは大きな違いだ。


「D.P」をただ「韓国の徴兵制のドラマ」として見るのはもったいない。

例えば、自衛隊内部でのパワハラ問題、部活動での指導員や先輩による暴力、学校内でのいじめに対して「いじめを黙認すること」をテーマに、「D.P.」と照らしてみれば、「韓国の徴兵制は大変だな」「先輩後輩関係、上下関係は大変だな」の感想だけではない、捉え方ができるのではないだろうか。もっと深刻だ。



全く話は逸れるが、「賢い医師生活」を見ながら並行して「D.P」を見たからなのもあるだろうが、韓国籍男性でこの世に生まれて、病気もせずにすくすく大きくなって、受験戦争にも落ちこぼれないように努力して大学に入学して、兵役も無事終えて、大学を卒業して立派に生きているだけで、奇跡のように思えた。

「賢い医師生活」もそうではあるが、「D.P.」もまた現実的でリアルで色々考えさせられるいいドラマだった。最後にひとつ。「D.P.」はNetflixのみでの配信だ。なぜなのかはなんとなくわかる気がするが多分そういうことだろう。Netflix Koreaの攻めの姿勢に拍手だ。

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