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韓国ドラマ「イカゲーム」:単純さと美しさとそこにある奥行

韓国ドラマ「イカゲーム」が世界中で驚くべきヒットを記録している。個人的な指標ではあるが、"BBCのニュースに取り上げられたとき""アメリカの番組The Tonight Showにアメリカに住んでいる人以外の人がゲスト出演したとき"、そして、"海外で暮らす友人らと同じ時に同じことで盛り上がっているとき"、「これは世界中で流行ってるんだな」と実感する。

「イカゲーム」の俳優陣がThe Tonight Showでインタビューを受けて、ゲームをしていた。そして、その動画の一部が、今、The Tonight ShowのYouTubeのホームのトップにある。「イカゲーム」は大ヒットしている。

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10月1日に私が何気なく「イカゲーム」のことを呟いたのだが、つぶやきからの続きを書いていなかった。「イカゲーム」を見て気が付いたことを述べていきたい。


「イカゲーム」のあらすじ

ソン・ギフンは多額の借金を抱えているがまともに働かず、競馬に勤しんでいた。結婚し娘もいたが、今は離婚し親権もなく露天商の母親との同居生活だ。ある日、競馬で456万ウォン当てる。その勢いで、娘に誕生日お祝いをしようと意気揚々と食事に行く約束をする。しかし、その直後、借金取りに追われ、女性と衝突した拍子に競馬で獲得した賞金も盗まれてしまう。結局、娘には充分なプレゼントも渡せず、元妻の家まで娘を送っていくも冷遇されてしまう。

その帰り道、ギフンが駅のホームで電車を待っていると、一人の男が「メンコ」に誘ってくる。「メンコ」をしてひっくり返すことができたら勝ち。できなければ負け。敗者は勝者に賞金10万ウォン払う。敗者がお金を払えなければ、勝者からビンタを1回受ける。ギフンは「メンコ」に勝ったり負けたりしながら、幾らかのお金を稼ぐことができた。そして、その男に、「もっと大金が稼げるゲームに参加しないか」と誘われ、名刺を渡される。

不審に思いながらも、お金に困っているギフンはゲームに参加することにする。約束の場所に行き、車に乗り込むと睡眠薬をかけられ寝てしまう。目が覚めたときには、「イカゲーム」の会場だ。

ギフンと同様に多額の借金を抱え人生に困窮している人たちが、「イカゲーム」の会場には集まっていた。6日間で6個のゲームを行う。脱落者が出るたびに賞金は1億ウォンずつ増え、優勝者は賞金456億ウォンがゲットできる。ここで「脱落」とは「死」を意味し、参加者たちは生き残りをかけたサバイバルゲームに挑戦することになる。

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子どもの頃の遊び

6日間で6つのゲームをする。

まずは「だるまさんがころんだ」だ。「だるまさんがころんだ」のルールと同じで、鬼がふりかえった時に動いた人は即脱落。時間内にゴールラインを越えられなかった人も脱落だ。

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2つ目のゲームは「カルメ焼き」だ。溶かした砂糖で作ったアメのお菓子「カルメ焼き」に描いてある絵を綺麗にくり抜くことができれば勝ち、ヒビが入ってしまったり、絵が割れてしまったり、制限時間内にできなければ脱落だ。

3つ目のゲームは「綱引き」だ。高台に設置された会場で綱引きを行い、綱を引き入れたチームが勝ち、負けたチームは高台から落下する。

4つ目のゲームは「ビー玉」遊びだ。参加者はペアを作り、ビー玉で遊ぶ。最初に1人10個づつ配られたビー玉を2人でゲームをしながら20個集めた方が勝ちだ。ビー玉を使った遊びならなんでもいいが、ここでは暴力は厳禁だ。

5つ目のゲームは「飛び石ゲーム」だ。2人乗っても割れない強化ガラスと普通のガラスが並んだ橋があり、強化ガラスを選びながら時間内にゴールに辿り着ければ勝ちだ。普通のガラスに乗れば、その瞬間にガラスは割れ、橋から落ち脱落だ。

6つ目のゲームは「イカゲーム」だ。最後のゲームまで勝ち残った者でイカゲームをする。これは昔の子どもの遊びで攻撃的なゲームだ。ドラマのなかでは第1話冒頭に思い出話として、ルール説明がされている。

「カメル焼き」や「イカゲーム」は知らなかったが、そのほかはどこの国にでもある「子どもの頃の遊び」だ。そのため、ルールは単純明快で簡単だ。「カルメ焼き」も「イカゲーム」もこのドラマでルールを知ったが、ドラマ見終わったすぐにでもできるくらいには簡単だ。

この単純さがドラマ「イカゲーム」の特徴だ。

話は少し脱線するが、日本の漫才No.1を決める大会に「M-1グランプリ」がある。2020年の大会に「東京ホテイソン」という漫才師が出た。彼らは決勝戦に出場できたのだが結果は最下位だった。漫才の後、審査員のオール巨人が「ネタは面白いが、頭を使わないと理解できないネタだった」とコメントしていた。(個人的には東京ホテイソンのネタは好きだ。愉快だし、わかったときの快感がたまらない)わかったときには面白いのだが、短時間で理解できなかったときに、「どうゆうこと???」となってしまい心の底から笑えないのだ。しかし、だからといって、単純な笑いすぎるとまたそれは面白くない。

このように、単純すぎてもよくないが、かといって複雑でもよくない。ドラマ「イカゲーム」はその点がちょうどいい塩梅なのだ。ゲームそのものは簡単なゲームだ。しかし、勝たなければ死ぬ。誰かを殺しても生き残るためには勝たなければいけない。ときにはパワーだけではだめ、頭脳だけでもダメだ。そこに人間ドラマがある。


色の綺麗さ

次に特徴的だったのは、画面の"色"だ。どのシーンを切り取っても配色がいい。生死をかけたサバイバルゲームなのに、おもちゃの世界のようなポップさだ。

緑色のジャージを着た参加者。赤色の防護服を来た案内役。黒色の服の運営役。

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暗い室内に、ピンクの背景の顔写真、緑や黄色のモニター。

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ピンク、黄色、緑の壁と灰色の階段。そこを歩く赤色の案内役と列をなす緑の参加者。歩いているだけで絵になる。

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かと思えば、真っ白なゲーム控え室。白色の壁に黄色の扉、そこに緑の人たちが入ってきて、赤色の人がぽつぽつと配置されている。

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「ビー玉」で遊ぶ会場は、昔の韓国の路地裏風だ。これもまたいい。砂埃がこちらまで飛んできそうなところが雰囲気がある。

韓国の最近の「かわいい」の部分が凝縮されているようだ。

BTSといえば「紫色」だ。このように、韓国エンターテインメントは「色」とともにあるのかもしれない。淡くて渋い色が今の「韓国っぽい色」のようだ。かわいいし綺麗だ。


それぞれが抱えた家族への想い

登場人物にはそれぞれが抱える悩みがある。それがこの「イカゲーム」の奥行を出している。ただ借金に追われた人たちが賞金を目指してサバイバルゲームをしているわけではない。参加者にはそれぞれの人生があり、また、イカゲームの運営側にも家族がいて、目的があり、開催意図がある。

特に「ビー玉」遊びの場面はうっかり涙してしまう。

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主人公のギフンには、誕生日さえまともに祝ってあげられなかった娘と病気を抱えながらも満足に治療をできずいる母がいる。ギフンの幼馴染で優秀だったサンウは借金を抱え、母親にはそれを打ち明けられず「アメリカに出張している」と嘘をつき続け実家に帰れなくなっている。ギフンと競馬場でぶつかった女性・セビョクは弟と脱北してきた。彼女は施設に預けている弟と母の3人で一緒に暮らすことを夢みている。

それぞれには守りたい家族や、やり残してきたことがある。ゲームで死にたくはないが、現実社会に戻ってもそこは地獄だ。生きるも地獄、死ぬも地獄か。

映画「パラサイト」もそうだったが、韓国ドラマや映画では「家族への想い」はひとつのキーワードなのかもしれない。定番の韓国ドラマといえば、"財閥の家族"と"庶民"との話だ。「梨泰院クラス」も「椿の花咲く頃」も「家族」がひとつのテーマだった。最も普遍的で欠かせないものが「家族」「家族への想い」なのだろう。


単純さと美しさとそこにある奥行

ここまでドラマ「イカゲーム」を振り返ってきた。

単純さと美しさとそこにある奥行

ゲームのルールの単純さ。「韓国っぽい色」の配色の美しさ。登場人物の人生、すなわち、そこに映された韓国社会がドラマに奥行を出す。

この3点はおそらく今、世界を席巻している韓国エンターテインメントの共通点であろう。例えば、BTSのヒット曲「Dynamite」や「Butter」もこの3点を満たしているように思う。

「Dynamite」や「Butter」はBTSの曲の中でも、みんなで踊れるようなダンスだで、なおかつ、英語の歌詞で世界に拡散されやすい。この2点が「単純さ」であるとすれば、「美しさ」はBTSの個人のキャラクターと彼らの積み上げてきたこれまでのストーリーだろう。BTSの曲にはいつも社会問題が組み込まれていることは有名な話だ。これが「奥行」だ。

この2つの曲が全世界の人々の「K-popの入口」になったのではないだろうか。ここからK-popの魅力に気がついて、BTSだけじゃない他のアイドルの曲を聞いたり、コンテンツを見ることになるだろう。

同様に「イカゲーム」の大ヒットが世界の人々の「韓国ドラマの入口」になったのだろう。映画「パラサイト」も「韓国映画の入口」だ。私たちの日常生活に少しずつ韓国エンターテインメントが顔をのぞかせている。それは、オックスフォード英語辞典に韓国語由来の言葉が追加させる力さえをも持っていた。

ただただすごい。日本のドラマや映画にもいい作品はたくさんあるが、今は韓国エンターテインメントの勢いをとめることはできない。


「イカゲーム」は「カイジ」や「今際の国のアリス」と同じ枠組みだ(パクリではない。カテゴリーが同じだ)。これから視聴する方や見直そうとしている方は「イカゲーム」と他のドラマとの差異は何かを考えながら見るといい。

加えて、最近思うことだが、「西暦2020年の今、そして今後、全くのオリジナルの作品などもう生まれない」と私は思っている。科学技術が進歩して、CGも進歩するだろうし、人間の考え方も変わってきて新たなものはできるだろう。しかし、それは元を辿れば「既存の何か」と「既存の何か」の新たな組み合わせによるものだ。すなわち、全くのオリジナルはない。新たな組み合わせから斬新なものが生まれるのだ。


余談をひとつしてこの記事を終わりたい。

この1,2年前くらいまでは韓国ドラマを見ていたら「また韓国ドラマ見てるの?物好きだよね(苦笑)」と呆れられていた時もあった。韓国ドラマファンたちと「私たちが韓国ドラマの魅力を信じて見てきてよかったね」と喜び合いたい。私たちの信じていたひとつの「いいもの」「好きなもの」を世間が認めてくれたのだ。世間から認められなくたって、別に私の好きなものは好きなもので変わりはしないが、誰かに認められるのは嬉しい。「イカゲーム」の次に大ヒットする韓国ドラマはなんだろうか。韓国ドラマの今後が楽しみだ。

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