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【本の記録】松村圭一郎『はみだしの人類学 ともに生きる方法』

先日、図書館の蔵書検索で「人類学」といれると、一番最初に出てきたのが『はみだしの人類学』だった。2020年春に出版されたばかりの本だし、「人類学」を冠しているし、人気のシリーズでもあるから蔵書検索もビビッときたのだろう。しかし、その日はすでに[貸し出し中]だったため、予約をして後日借りた。

人類学への入門書、というよりは、導入本だ。これを読んでから、気になったら巻末のブックガイドを参照して入門書→教科書→→→と読み進めるといい。

読んで欲しい対象としては、まずは高校生。文系理系問わず、大学進学を考えている高校2年生くらいかな。「こんな学問があるんだな」と大学選びの助けになるだろう。

あとは、大学の一般教養科目で人類学/文化人類学を選んだ、学部1,2年生。そして、学び直しを考えている社会人の方、人類学を専攻している娘息子の親・家族かな。

著者:松村圭一郎

1975年、熊本県生まれ。京都大学総合人間学部卒。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。岡山大学文学部准教授。専門は文化人類学。エチオピアの農村や中東の都市でフィールドワークを続け、富の所有と分配、貧困や発援助、海外出稼ぎなどについて研究。(『はみだしの人類学』より)

目次

はじめに――無数の異なる「わたし」が生きる世界で
第1章 「つながり」と「はみだし」
第2章 「わたし」がひらく
第3章 ほんとうの「わたし」とは?
第4章 差異とともに生きる
おわりに――他者に導かれて「わたし」が変わる
人類学をもっと知るためのブックガイド

概要

 本書は人類学/文化人類学を知るための大前提について簡潔にまとめた導入本である。「つながり」と「はみだし」をキーワードに人類学的なものの見方を紹介し、自分とは異なる「他者」や「異文化」が身近になった現代をより生きやすくするための知の技法としての人類学的知を探る。本書で扱われている事例は松村自身の体験や現地調査での出来事に加え、メディアなどで耳にする普遍的な事象だ。
 例えば、大学で学生に「日本文化とは何ですか?」と尋ねたことを紹介している。学生たちは、着物や歌舞伎、茶道などを答えるが、教室には着物を着ている学生はいない。このように学生たちは「日本文化」として考えられていることに、当てはまらない生活をしているにもかかわらず、それを日本固有の文化であるとして疑わない。この事例では、他者との境界線を引くことや強調することで「自分」や「私たち」というようなカテゴリーをつくっていることを示している。

感想・気になったこと

 感想としては、一般向け「学び直し」の本としていい本だったということだ。事例も大変に普遍的であるし、平易な文体で書かれている。また、人類学者松村自身のエチオピア体験も興味深いものだった。アフリカの事柄なんだけど遠く離れたことのようにはとても思えないくらいに身近に感じ、それこそが人類学的視点なんだと改めて思わされた。『うしろめたさの人類学』同様に楽しく、明るい本だった。

 しかし、この本で人類学をわかった気にはなってはいけない。人類学者の数だけ人類学観のようなものがあり、人類学は互いに批判し合い高め合っていくことで日々進歩をしている学問である。そのため、次のステップとして『文化人類学の思考法』などの入門書・教科書を読み進めてほしい。もっと多面的でディープな文化人類学の様子が見えてくるのではないかと思う。

この本はこの本の役割を十分に果たしている。特に巻末のブックガイドだ。これのおかげで、次への橋渡しができているし、大変ありがたい。

ブックガイドのことで何かということであれば、このガイドは2020年春バージョンでしかないということだ。前述のように、日々進歩しているため、「この説が有力!」となっていても数年後にはそれは打ち砕けている場合がある。一巡して戻っているかもしれない。本には出版するための締め切りがあるわけで、限界があるから2020年後半、21年以降は自分で追いかけ続けていく必要があるだろう。


人類学の教科書を書くのはなかなか難しい。教科書を書こうとしている人たちには敬意しかない。単純にすごいなぁ、と思う。

『文化人類学のコモンセンス』の25年後に『文化人類学の思考法』が出版されていることを思うと、次の25年後にまた新たな教科書ができるん予感がする。携われたらいいなぁ。

私の学部時代の教科書は『文化人類学のコモンセンス(以下コモンセンス)』だった。(エリクセンの『人類学とは何か』やゴドリエの『人類学の再構築』、竹沢尚一郎の『人類学的思考の歴史』も読んだ。)専攻を選んだばかりの2年生の時に「へ〜」と思いながら読んだ『コモンセンス』も4年生になり院試の勉強のために再読した『コモンセンス』は一味違った。すごくわかりやすくて嬉しかった。しかし、修士1年になって、再読すると『コモンセンス』で述べられていることが既に時代遅れのように感じた。そして、『文化人類学の思考法』を読んだときはまた驚いた。こりゃ、よくまとまってていいなぁ、と思った。

このように人類学の教科書は日々進化をする。根幹は同じでも、根幹を揺らそうとしている人たちもいるし、そうであっていい。全くのオリジナルはないだろうけども、新たな見方は発明される。

『はみだしの人類学』で人類学に興味を持った人は、是非とも次の本に進んでほしい。夏休みだし、外出が可能であれば国立民族博物館に行ってみるのもいい。

参考文献


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