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演出家志望だった見上愛。女優としての転機と葛藤

#7 見上 愛(前編)

“今後輝いていくであろう女優やタレント”を独自にピックアップする連載『focus on!ネクストガール』。

見上愛(みかみ・あい)ワタナベエンターテインメントのスクールへ通ったことをきっかけに芸能活動をスタート。2019年に女優デビュー後、映画『星の子』(2020年)、『恋はつづくよどこまでも』(TBS/2020年)、『ガールガンレディ』(MBS/2021年)、『きれいのくに』(NHK/2021年)など数々のドラマや映画、MV、CMに出演。今後も、『プリテンダーズ』(10月16日公開予定)、W主演『衝動』などの公開が控えている。なんでも聞いてください!とでもいうような明るい表情の彼女へ「その歩みを聞く」質問からインタビューは始まった。

「focus on!ネクストガール」
今まさに旬な方はもちろん、さらに今後輝いていく「ネクストガール」(女優、タレント、アーティスト等)を紹介していく、インタビュー連載。

演劇の世界を志したきっかけは“トガった”演劇部

──この世界に入ろうと思ったきっかけはなんですか?

見上 きっかけ……女優になろうと思ったきっかけ自体は、未だになくて。中学2年生のときに観劇に連れて行ってもらい、そこで観劇にハマりました。中高一貫校に通っていたんですけど、演劇関係の仕事に就きたいと思い始めて、高校1年生の途中で部活を演劇部に変えたんです。そこで舞台の演出や脚本をやるなかで演出家になろうと思い、今の大学に入ることを決めました。演出家になるとしても演技もやったほうがいいよと言われていたりもしたので、ワタナベエンターテインメントの養成所へ入って、そこで事務所から声をかけていただいたという流れです。

──なるほど、一番最初に観た劇って覚えていますか?

見上 はい、『私のホストちゃん』(2014年)ていう2.5次元の舞台だったんですよ。

──あ、鈴木おさむさんの舞台だ。

見上 そうです、そうです! 観劇中は「なんでホスト? ……役者? ……えっ?」みたいなパニック状態だったんですけど(笑)。劇場のお客さんたちを見ていると、すごく楽しそうで「なんか演劇ってすごいなあ」って。

──生で観ると違うなと?

見上 そうですね。みんなにパワーを与えて、こんなふうにみんなが笑顔で帰れるんだ、というのが……。

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──その後、演劇部ということですね?

見上 そうですね。トガった演劇部に(笑)。

──“トガった”演劇部?

見上 寺山修司さん、別役実さん、野田秀樹さんしかやらない。それ以外はオリジナルっていう演劇部に。

──肌に合いましたか?

見上 合いました! そこから、本当に演劇に興味を持ち始めたという感じです。

──その演劇部で、演出もやっていた?

見上 そうですね。これも本当に巡り合わせなんですけど、私が中高一貫校の部活の途中から入ったから、その時点で、なんとなく部活のメンバーの役割が……この子は照明をやっているとか、(女子校だったので)男役はこの子がやっているとか、もう決まっていて。ぽっかり空いていたのが、演出と脚本だったんですよね。そこしかやるところがなかったので、じゃあせっかくだし演出をやろうかなと思って。

──ということは、役者として出るよりも先に、脚本とか演出を?

見上 一番初は、寺山修司さんの作品に出演しました。演劇部に入った日が、たまたま次の大会に向けての出演者オーディションの日だったので、とりあえず受けて、人数も足りなかったから出演することになりました。そのあとは、脚本とか演出をやりましたね。

──その寺山修司さんの作品は、なんだったんですか?

見上 『犬神』という作品です。けっこう海外公演とかで打っていた作品なんですけど、全然わかってなかったです、やっているときは。

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──たとえば演技は、小さいころからテレビで観ているので、なんとなくイメージもできそうですけど……脚本や演出は、身近に見本も手本もないので、大変だと思うんです。

見上 たしかに。でも、顧問の先生が本当に演劇が好きで「年に100本以上観ています」みたいな方だったので、いろいろとご指導をいただいたり。それと私も舞台をすごく観に行っていたので、それで得た知識とかを合わせて……あと、とにかく戯曲を読んでいましたね。

──その戯曲も、さっき言っていたような別役実さんとか寺山修司さん……?

見上 そうですね。あと、チェーホフとか。けっこう王道の古典系を読んでいましたね。

──その後、大学へ入って……。

見上 はい、大学に入って、それから事務所へ入りました。

自分にとって転機となったドラマ『きれいのくに』

──仕事をやってきたなかで印象に残っていることってありますか?

見上 なんだろう……そうですね、3つ印象に残っているものがあって。ひとつ目は、『プリテンダーズ』(10月16日公開予定)という映画です。初めての映画撮影で、それこそ何もわかっていない状態で。監督が、脚本に捉われずその場での自分の感情や思いを大事に、一緒に作っていこうという考えの方だったので……心が本当に動いて演技をするとか、自分の頭の中でこうしようと思った感じじゃなく身体が動いちゃうとか、泣きたくもないのに泣いちゃうとか、そういう経験を初めてしました。それはすごく記憶にも残っているし、演技の出来がいいかどうかはわからないんですけど、すごくいい経験をしたなと思っています。

──監督の演出方法が合ったんですね。

見上 そうですね。もう私自身のいろいろなものを引き出してくれて。相手役も小野花梨ちゃんだったので……本当にうまいんですよ! いろいろと優しく教えてくれたりとかして。演技するってこういうことなのかなっていうことに触れた瞬間だったかもしれないですね。ふたつ目は『衝動』という、これもまだ公開されていない映画で、私の初めての主演映画です。倉悠貴くんとのW主演。私は声が出ない役なので、基本的にセリフがない状態なんです。その場その場で演技をするというのとはまた違う感じで……言葉を出さずに表現していかなきゃいけなかったりとか。それに、現場での主演としてのあり方みたいなものも考えていくうちに、今まで、主演の方や年上の方々が、すごく気を遣ってくださっていたんだろうなということに気づいて。そんなふうに「演技すること以外」の女優としての仕事に気づいたのが『衝動』です。

──いわゆる、座長的な?

見上 そうですね。倉悠貴くんとのお互いの役割……役としての役割もあるし、現場でのあり方の役割もあったりとかして、互いにバランスを見て考えていくっていうことが、そうでしたね。

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──では、3つ目は?

見上 3つ目は、この前のNHKのドラマ『きれいのくに』(2021年)です。レギュラードラマで初めてメインの役をやったことに加えて、作り方や脚本がおもしろかったんです。ドラマなのに稽古期間が3週間くらいあって、きっちり作っていくというか……もちろんその場の感情とかも大事なんですけど、どちらかというと、なんでこうしてこうやってというのを一個一個読み解いて、ちゃんと目的と衝動を持って演技をするみたいなことが、すごく難しくて。それは勉強にもなったし、同世代の子たちとガッツリずっと一緒にやって、仲よくもなれてとか。脚本・演出の加藤拓也さんも、年齢的には私とそこまで遠くないのに、こんなことが書けてこんな演出までできるとか……作り手目線としても、このレベルにならなきゃいけないんだなというか。そういうのを感じました。

──ホント、天才ですよね。加藤拓也さん。

見上 そうですよね。そういう感じで『きれいのくに』は、転機になっていますね。

──この『きれいのくに』でもそうですけど、若手俳優の方々と仕事をしていて、仲よくなった方っていらっしゃいますか?

見上 『きれいのくに』の(自分を入れて)5人……岡本夏美ちゃん、青木柚くん、山脇辰哉くん、秋元龍太朗くんは、もうめっちゃ仲いいです。LINEもよくするし、みんなで大富豪したりとかもするし、そういう仲です。あと河合優実ちゃんは、大学が一緒でそこで知り合って。私がナンパしたんですよ(笑)、優実を! あまりにもかわいい子がいるから「すいません、めっちゃかわいいです。友達になってくれませんか?」って言ったら「あ、いいですよ」みたいな(笑)。そのとき、優実はもう女優をやっていたけど、私はまだ女優をやっていなくて「あ、女優さんなんですか」と。

──ナンパと言うと、井桁弘恵さんが、やっぱり大学が一緒の小川紗良さんをナンパした……って(笑)。

見上 えー、同じだ!

──あるんですね。井桁さんは試験会場でナンパしたって言ってました。

見上 えー! 私は道でナンパしました(笑)。

役の見え方と役としての気持ちで揺れたジレンマ

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──『きれいのくに』での見上さんの演じた“凛”役って……自分の顔が嫌い、顔に自信がないという、なんとなくすごくやりづらい役のような気がするんですけど、どうでしたか?

見上 正直、私、自己肯定感がめちゃ高くて、自分の顔に、そもそも興味を持ったことがなかったんですよ。好きも嫌いも、自分の顔だし、自分の顔が好きと思ったことも嫌いと思ったこともなくて。だから脚本をもらったときは、あまり実感が伴っていなくて。でもそういう子がまわりにもたくさんいるから、そういう考えがあるっていうこと自体は理解してて……ただそこに実感が伴っていないという状態だったんですけど。稽古をしていくうちに、なんか顔じゃなくても本当は嫌だけど見て見ぬふりしているところがあるなとか、そういうことに気づいていって、そこを取っかかりにしてやっていましたね。あと、友達にも、めっちゃ話を聞いたりして。

──自分に近い役や遠い役があると思うんですけど……たとえば『箱庭のレミング』(ABEMA/2021年)での、承認欲求の強いモデルの“白石未映子”役はどうでした?

見上 私、TikTokも入れたことすらなくて(笑)……急いで入れて監督に使い方を習ったら、打ち合わせで急にめっちゃ音とか鳴っちゃって……急に開いたら「わーっ!」みたいな、大騒ぎだったんですけど(笑)。あの役自体は、すごく自分とは遠くて。あまり人から注目されてどうこうとかも今までなかったんですけど、でもああいうことが社会問題になっていることに興味は持ってて「やっぱり、そういうのって作品になるんだな」という印象でした。だから知らないワードではなかったというか、そこを切り抜いていくんだみたいなのは感じたんですけど、ただそれこそ最初は実感を伴っていなかったですね。

──なるほど。実際に役を演じていくなかで、どう感じました?

見上 かわいい子としか友達にならない友達がいたんですよ。一緒に写るのならかわいい子がいいって言っている子がいて。私にはそんな発想はなかったんですけど、でもそういうことなんだろうなと思いながら演じていたら、ちょっとずつ見えてきたっていう感じはありましたね。

──『箱庭のレミング』の衝撃のラスト……あれを最初からわかった上で演技するわけですよね、特に後半とか。視聴者を騙すようにやることって大変でしたか?

見上 そこは、めっちゃ難しくて。たとえば、役の気持ち優先で進んでいったらラストで悲しんではいなくて、本当は「よっしゃあ、やってやるぜ」と思っているところで悲しんでいるように見えなきゃいけないとか。役の見え方と、役としての気持ちがまったく追いつかない点が出てきちゃって、そこはけっこう監督と話し合って何パターンか撮りました。本当に申し訳ないんですけど、初めて監督に意見を言ってみたかも。「私はこう思うので、まずやってみます」と言ってやってみて、次に監督から出た「やっぱり見え方としては泣いてほしい、落ちてほしい」みたいなパターンを、正直気持ちが伴わないかもしれないですけどやってみます、という感じで撮って……最終的には、ちょうどいいバランスのところを編集してくださったんですけど。

──そういう話を伺っていると、やっぱり演出家気質ですよね。

見上 たしかに、そうかもですね。

取材・文=鈴木さちひろ 撮影=大塚素久(SYASYA) ヘアメイク=ムロゾノケイト 編集協力=千葉由知(ribelo visualworks) 編集=中野 潤、龍見咲希(BLOCKBUSTER)

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見上 愛(みかみ・あい)
2000年10月26日生まれ。東京都出身。2019年デビュー。その後、CMやMV、ドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS/2020年)、『ガールガンレディ』(MBS/2021年)、『きれいのくに』(NHK/2021)、映画『星の子』(2020年)、『キャラクター』(2021年)などへ出演を重ね、今後も数々の主演映画の公開が控えている。
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