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ボラボラにて「サヨナライツカ」

広島に引っ越してきて1ヶ月が経ちました。
「出身は?」「京都です」
「じゃあ地縁はないんだ!」「はい」
このやりとりも10回以上はしたかと思います。
「女の子なのにかわいそうに」と言いつつも
総合職なのでまぁ仕方ないかで終わる簡単な話。

一人だから本当に簡単な話です。

週末は、立町の喫茶店にて
辻仁成の「サヨナライツカ」を読みました。

「ボラボラ」のサイフォンコーヒーとトースト

「人間は死ぬとき、愛されたことを思い出すヒトと愛したことを思い出すヒトとにわかれる。私はきっと愛したことを思い出す」。“好青年”とよばれる豊は結婚を控えるなか、謎の美女・沓子と出会う。そこから始まる激しくくるおしい性愛の日々。二人は別れを選択するが二十五年後の再会で…。愛に生きるすべての人に捧げる渾身の長編小説。

「サヨナライツカ」裏表紙

開始早々、婚約者がいる青年の前に美女が現れる。
わけも分からず体を重ねて、二人して非現実に溺れる。毎日毎日ズブズブの関係を築く。

世間体は無視して目の前の瞬間を大事にする男女、
つまり理性ではなく本能だけで結びついている二人が、徐々に破綻していることに気付きながら、傷つけるように抱き合う。
それを愛と呼んでいいのか分からない。
そしてそんな甘いだけの時間は現実がアッサリ終了させてくれる。

理性の流れに乗ってしまえばそちらは安全で泳ぎやすい。

あれは何だったんだろう?
単に若かっただけなのだろうか?

いや、それでもその本気だった瞬間は確かに存在する。愛だったと言わせてくれよ。

途中から物語の筋を追っているのか、かつての恋人のことを考えているのか分からなくなっていました。
結末は少し安っぽいような気もしたけれど、それはどうだっていいことで、鮮明に彼のことを思い出させてくれる荒々しさに泣いていました。

賛否がはっきり分かれそうな本です。
浮気や不倫にアレルギー反応がある人や、表現の繊細さを味わいたい人には向かないかもしれません。

しかし自分のことを理屈では説明できない人には是非、おすすめしたいです。

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