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【報告】新入社員による課長レポート

課長の机は汚い。

課長の机を見て、隣の課の係長は『コックピットみたいだ』と形容した。机上の両サイドに書類がうず高く積まれており、デスクトップにもたくさんの付箋が貼られているような複雑な構造についてそういうふうに形容したのだと推察される。そんなかっこいいものではないと思うが。

課長が不在のとき、課長の机に資料を探しに来た総務課の人がいた。彼女が机上の資料に手を伸ばしかけた瞬間、先輩が『触らないで!』と叫び声をあげた。鬼気迫る声色であった。なにしろこの机は素人が触ると大災害になる危険性をはらんだダンジョンなのである。総務課の人は『すみません…』と言いながらわなわな震えていた。


昼休憩明け、課長は必ず顔を拭く。

ギャツビーのフェイスシートである。13時から自席参加のWeb会議があった際、ログインした瞬間に顔拭き中の課長が信じられないくらいどアップで映り、(課長は普段眼鏡をかけているが、顔拭きの際は一度眼鏡を外すためログイン時にモニターにかなり顔を近づけていらっしゃったためと思われる。)そのご尊顔があまりに面白くて私は笑った。本当に失礼すぎる話だが、久々にこんなに笑ったというくらい笑った。課長は向こうの席から『今笑うのはどうなんですか?』と言いつつ許してくれた。


課長の趣味はバードウォッチングである。

課長とどこかに出かけると、必ずといっていいほどバードウォッチングをする。特に、緑の多い場所を歩いているとしばしば無言で立ち止まり、リュックからやたらとゴツい双眼鏡を取りだして鳥を探し始める。時折その口から『ピシピシピシ…』と異音を発し鳥を呼び寄せにかかることさえある。私は配属2日目にしてこの異音発出現場に出くわしたいへんな恐怖を感じたものである。しかしそれももう2ヶ月も前の話、今となっては突然の立ち止まりにもゴツい双眼鏡にも慣れっこである。なんなら課長の影響で、私も町を歩いているとき鳥の鳴き声がやたら気になるようになってしまったほどだ。

先日、私の地元である和歌山への出張があった。もちろん課長も一緒である。仕事が終わって予約していた飲み会までまだ時間があったため、我々は和歌山城の天守閣に登ることにした。眼下の町を指差して『あれが私の実家です』と言うと課長はいつもの如くゴツい双眼鏡を取りだし『洗濯物は干していないようです』とだけ言った。その後はすぐに手前に見えたアオサギのコロニーに夢中になっていた。

そのあと2人で何故か動物園に行く流れになった。私と課長はぽつぽつ会話を交わしながらおおむね厳かに園内を巡回した。時折互いに『最近YouTubeでヤギの動画を見るのにハマっています』『このインコ若干悲しそうな顔をしていませんか?』『カピバラって常にこちらが想像しているより少し大きいですよね』などのような感想を述べあいながら進んだ。時間潰しに入った割にそこそこ有意義な時間であった。



社会人1年目。
これ以上ないというほど良い上司に恵まれている。



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