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おじさんがくれたほうじ茶ラテ

2週間にわたるインターンが終わった。

初日はもちろんド緊張。慣れない土地でひとりきり、もちろんインターンなんて初めて。でけぇキャリーバッグをごろごろさせて何度もつまづきながらサラリーマンの聖地に降り立った。慣れないパンプスを履いた足にはいくつも靴ずれができていた。

それから2週間が過ぎ、私は今帰りの新幹線の中でこの文章を書き始めた。足元にはバカデカキャリーバッグ。手元にはほうじ茶ラテ。


このほうじ茶ラテはインターン先のおじさんが帰り際にくれたものである。
それはそれは馴れ馴れしいおじさんで、しょっぱなから私のことをあだ名で呼んできたし、大して用事がないのに私のデスクまで来ては雑談をしてくれたし、『きみは将来でかくなるだろうから今のうちに媚び売っとかんと』とまで仰ってくる始末。常にダルそうな態度だが業務には真摯に取り組んでいて、同僚や取引先にも良好な関係を築いている。

私はすぐにそのおじさんのことが大好きになった。それはもう大好きで、インターン先のオフィスには出入口が複数あり私のデスクは後方の扉の目の前にあったが、毎朝そのおじさんにおはようございますを言いたいがためだけに中央扉から出勤するほどだった。脈ありサインを出し過ぎて、おじさんにはとうとう『きみ俺のこと好きなんか?』と訊かれた。『好きですね』と答えておいた。ラブ・ストーリーは突然に。あの日あの時あの場所で君に会えなかったら僕等はいつまでも見知らぬ二人のまま←まじそれな?

あの日あの時インターンに応募していなかったら。受かっていなかったら。おじさんがあの課に配属されてなかったら。そもそも私が何かのきっかけでその業種を志望していなかったら。僕等はいつまでも見知らぬ二人のまま、私はあの素敵なおじさんのことなんて知るよしもなかったわけで。そういう一期一会的なことこそ人生の醍醐味かもしれんね、などとくっせぇことをぼんやり考えた。


そんなリアコおじさんから頂いたほうじ茶ラテ。てかなんで私の大好物知っとんねん。心も胃袋も(?)ガッツリ掴まれてしまっている。どこまでも沼。
新幹線の車内で一口飲んでは蓋を閉め、思い出したようにまた一口飲み、大切に飲み切った。感謝の気持ちで一杯だった。忘れたくないなと思った。同時に、私が普段の生活に戻った後もおじさん達は私の知らぬ業務を毎日こなすんだなぁと思うと変な寂しさも感じて、ラテ飲みながら少しだけ泣いた。


それはそうとほうじ茶ラテは奇跡の飲料である。茶と牛乳、最悪の組み合わせに見えて最強タッグなの、出自の違いにより初期はずっといがみ合ってた癖に最終回が近づくに従って『お前…やるじゃん』『…そっちこそ』となって唯一無二のバディになってゆく少年漫画のダブル主人公って感じで非常にアツい。

ちなみにこの綾鷹ラテシリーズを教えてくれたのは仲の良い友人である。どっかの自販機でおすすめどれ?と訊いたら背後から手が伸びてきて抹茶ラテのボタンが押された。そして私はその美味しさに衝撃を受け、次の日にほうじ茶ラテに挑戦し、さらなる衝撃を受けたのであった。友人、その節はありがとう。お前があのとき綾鷹ラテをチョイスしてなかったら私はこの美味さを知らぬままほっそい生涯を閉じるとこだったよ。綾鷹ラテのある世界線に生まれ落ちて本当に良かったです。綾鷹ラテと最高なおじさんの共存してる世の中で本当に良かったです。生きてて良かったです。


おじさんは私の2倍ほどの人生を生きてきているらしい。私もこれから今までの2倍か3倍かそれ以上生きるのかなぁ、と思うと少し不思議な気持ちになる。就職とか転勤とか結婚とか、色々なことがあったりなかったりして、そうやってみんなそれぞれ生きてるんだなって、改めて。

おじさん達と出会って、なんかわからんけど今後の人生も悪くないんかもなって思えて、すっかり履き慣れたパンプスで夜の京都駅に降りた。



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