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土壌物理学実験班親睦会レポート

1.はじめに
当該飲み会はある授業内で偶然組まれた実験班に私が勝手に愛着を持ちすぎるがあまり開催を決定したものである。


2.背景
前期の授業。名前の順で決まっただけの4人の実験班。砂に電気を通したり土を捏ねくり回したりしているうちになんとなく仲良くなり今に至る。
仲良くなり、と記述したが、正直仲が良いと言えるほどの自信はない。集まると楽しいけれどいつも何だかぎこちない。なにせ班員全員内向的(控えめで奥ゆかしく聞き上手ともいう)ゆえ話を回す人がいないのだ。実験の時も全員が何の責任もとりたくないから一歩後ろから眺めてようとして結果全員で後ずさりする。そういう主体性に欠けた4人組だ。


3.内容
12月某日、我々は大学近くの料理屋にて飲み会を行った。

待ち合わせ時間ぴったりに店の外で【丸刈り】と合流した。
丸刈りは待ち合わせにうってつけの髪型である。遠くにいてもすぐにわかる。加えて丸刈りは極めてクールな髪型である。【丸刈り】は野球も剣道もしていないが、『この世で最も格好良い髪型は丸刈りである』という自らの信念のもとにその髪型にしているナイスガイなのである。

残りの2人は既に到着し店内で待っているとのことだったので、我々は店の扉を開けた。2人は奥のテーブル席に向かい合って座っていた。口々に『どもっす』『うす』などとぎこちない挨拶を交わす。
私が【友】の隣、【丸刈り】が【プロ】の隣に着席した。
鞄を置きコートを畳み終えるとしばし静寂が訪れた。全員が控えめで奥ゆかしく聞き上手のため口火を切る者がいないのだ。仕方がない、ここは私が。しかしながら私もまた控えめで奥ゆかしく聞き上手なのである。これは困った。
とりあえず居酒屋のメニューを見た。『大根のたいたん』というのがあった。これは大根巨人≪daikon-titan≫である。50m級の超大型ド根性大根が壁内の街を次々蹂躙してゆく様が目に浮かんだ。1人で笑ってしまっていたら皆が察してくれて『巨人だねえ』と言ってくれた。
良き友を持ったなと思った。

どうしようもないので私はとりあえず向かいの【丸刈り】にダル絡みを始めた。『どうよ【丸刈り】。調子はいかが』

【丸刈り】は私の問いかけのあまりの雑さにしばらく困窮していたものの、野球選手やエヴァやガンダムの喩えを巧みに利用しつつ自らの日頃の暮らしぶりについて滔々と語ってくれた。ただ、我々は皆それらの分野に明るくなかったため多少の置いてけぼりを食らわざるをえなかった。
彼はそのようにして我々を終始適度に振り回した。極めつけに『僕は今日と明日はかなり楽しいんよ』と、明日も誰かと予定があることを匂わせつつ今日の飲み会を楽しんでいることも同時に表明するというたいへん高度な会話を繰り出してきた。

【友】は豆腐サラダを取り分けながら『あっトマト3つしかないや』とか『モヒートって結局これ何なんやろうねえ』とか言いながら【丸刈り】の話に器用に相槌を打っていた。【プロ】は微笑をたたえながら日本酒をちびちびと吞んでいた。

【プロ】は4人が集まったとき大抵聞き役である。私は彼の話をたくさん聞きたいと思ってこの会を計画したのだが、如何せん私は【プロ】を前にすると何故か緊張してしまうため、結局全ての話を【丸刈り】の方に振ってしまうのだ。
【プロ】は常時微笑みながら我々や出汁巻き卵や肉じゃがを見つめていた。彼は私のはす向かいに座っており、私達は互いに気を利かせあいながら大皿料理の位置を阿吽の呼吸で交換することでしかコミュニケーションを図れなかった。

【プロ】が自分から会話を始めることはほとんどなかったが、会の終盤、彼は大皿に少し残った豆腐サラダに目をやって、『さっき僕だけトマト貰えなかったから豆腐は僕がいただきます』と言って皿を引き寄せていた。

サラダを取り分けた【友】が『ずっと根に持たれてたんだ』と呟き、【プロ】はまた微笑した。


4.考察
それからもどうでもいい話ばかりした。思い返せば我々は実験のときからずっとそうだった。仮面ライダーでは電王が好きだとか、昔通ってた塾のチャイムがやたらうるさかったとか、もし死んだら始皇帝くらいでっかい墓をつくりたいとか、そういうくだらない話ばかりだった。

全員進む研究室は違うけれど、また定期的に開催できたらいいなとか思ったり思わなかったりする。
どうでもいい話ができるから好き、なんじゃなくて、どうでもいい話も覚えてるくらい好き、なんだよなと、最近思ったりする。

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