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ロコワークジャーナル Vol.1 弘前市編01.起業家支援と関係人口の創出。Iターン者として外の目線で見る弘前のチャンスと課題とは?

ロコワークジャーナルとは…
各地を飛び回るロコワークメンバーによる取材レポートです。観光/テレワークよりも一歩踏み込んだ地域とのかかわりができないか?というロコワークが考える視点で地域を探し出し、地域のユニークな人や資産をレポートします。

 Vol.1は青森県津軽地方の中心都市、弘前市からお届けします。

弘前市といえば、リンゴ生産日本一、弘前城の桜、パワースポット岩木山…など観光地としても有名ですが、現在、移住者や地域に根差した起業家によるさまざまなチャレンジが始まっているといいます。

 初回は、弘前と東京の2拠点生活をしながら、コミュニティスペース「オランド」を運営し地元の起業家を支援する「Next Commons Lab弘前」の森田優子さんのお話です。

弘前市01.
起業家支援と関係人口の創出。
Iターン者として外の目線で見る弘前のチャンスと課題とは?

弘前市では2018(平成30)年から「一般社団法人Next Commons Lab弘前(以下、NCL弘前)」を受け入れ、起業家の育成や地域資源を使った事業開発に力を入れています。「学ぶ」「働く」「暮らす」環境を育てていくのが目標だと語るのは、NCL弘前のコーディネーター・森田優子さん。弘前に縁もゆかりもなかった移住者の森田さんがまちの起業家と関わる中で、自身の経験の活かし方や、地域の人を巻き込みながら後押しする活動の様子と、弘前の魅力や課題についても伺いました。 

大手銀行のSEから弘前へ。
動機は、柔軟で人の役に立てる働き方がありそうだったから

森田さんは群馬出身。前職は東京の大手銀行グループでSEとして約20年間勤務。プロジェクトマネージャーといった管理職に就き、仕事の相談はもちろん、社員たちのマネジメントを担当するようになったと振り返ります。
「周囲には体調不良となったり、仕事を辞めたりする人がいました。そんな人たちの相談を受けていると、働き方や職業選択がもっと自由になり、柔軟な方法で仕事をすることができないかと思うようになった
と森田さん。

▲NCL弘前の森田優子さん

森田さん自身、多様化する仕事のあり方を感じる機会が増え、新しい仕事を作り出す人を支援できるような仕事ができないかと考えるようになります。そこで見つけたのがNCL弘前でした。

 NCLは「社会資本との関わり方を再構築する」をスローガンに掲げる一般社団法人。夢を持った起業家が地域資源や課題に対しやりたいことを実現でき、世の中がより自由な生き方を選択できるような新たな社会の共通資本=ネクストコモンズをつくることを目指し、2016(平成28)年の岩手・遠野を皮切りに現在は全国12カ所で展開しています。
https://nextcommonslab.jp/

 「NCL弘前では『まち全体をキャンパスにする』というキャッチコピーで求人をしていました。私の考えていることに近いなと感じて応募しました。」
都内で仕事を続けるという選択肢はなかった?という質問には
「それもありましたが、東京の仕事だとお金が強く関わるような仕事になりそうだった。お金だけではなく、人の役に直接立つようなサービスに関わりたかった」と森田さん。

 弘前には2017(平成29)年にプライベートで遊びに来ていたそう。温泉を堪能し、城下町や歴史的な建物が多いことを感じたと言います。まさか旅先でしかなかった弘前に住むことになるとは思ってもいませんでしたと、笑顔を見せます。

▲活動のベースとなるオランド。「おらんど」は津軽弁で「私たち」を意味する

地域で起業するメンバーの活動支援をスタート

森田さんのコーディネーターとしての仕事は、2019(令和1)年4月から始まりました。具体的な仕事内容は、NCL弘前に所属し、地域で起業を目指すラボメンバー7人のサポート。ラボメンバーはアート活動によるまちづくりやワインの醸造といったそれぞれの事業を展開しているため、7人といえどサポートは多岐に渡ります。

 就任して最初にとりかかったことは、交流や作品展示などもできる活動拠点づくりでした。中心市街にあったセレモニーホールの跡地を活用し「オランド」を開業。オープンに向けてカフェスペースを立ち上げ、保健所に営業許可の申請を行なったり、設備の準備をしたりと、想定していなかったような業務内容になったと森田さんは話します。

 しかし今までの仕事がまったく生かされないわけではなく、マネジメントや運営といった経験が役に立ったといいます。店内に販売スペースを設け、地元商材の販売を開始。弘前こぎん研究所に依頼してオリジナル商品を開発して販売まで行うなど、活動拠点としての形を作っていきます。

▲弘前こぎん研究所に依頼して開発したこぎん刺しのパソコンケース


ラボメンバーの「やりたいこと」を引き出し、
地域を巻き込んで形にしていく

夫婦でラボメンバーとなった中山智(さとし)さんと未央(みお)さんは、シードルアンバサダーの資格を生かし、リンゴの産地・弘前で近年注目が集まっているリンゴ酒「シードル」の普及や文化の醸成を目指しています。2021(令和3)年4月にはシードルが出せるカフェをオランド内に立ち上げました。

弘前出身の未央さんと一緒に移住した智さんは弘前出身ではないため、弘前に仲間や知り合いがいたわけではありません。カフェの勤務経験もなかった2人は、森田さんたちコーディネーターと営業方法や提供メニューなどを一緒に考え、カフェをオープンしました。

 智さんは「森田さんと話すと銀行や起業の相談窓口とは違ったアドバイスがもらえる。例えるなら身内からアドバイスをもらえているようなイメージ。遠い親戚に相談しているような関係性で、気兼ねなく腹を割って話すことができる。頼りにしています。」と話します。

▲中山夫妻(左と中央)とカフェで打ち合わせをする森田さん(右)

ほかのラボメンバーも同様で、さまざまな事業や企画を森田さんと一緒に考えます。リンゴ農家として起業したラボメンバーとは販路や加工品の相談。
弘前にワイン文化を根付かせる活動をしているメンバーには場づくりの提案。森田さんはラボメンバーの要望や悩みをヒヤリングし、活動を支え、地域の協力者も増やしていきます。

 「私たちだけの力では実現できないことが多い。弘前の人たちを巻き込み、実現のために私自身がアドバイスをもらったり、可能な範囲で協力を仰いだりする。起業を目指すメンバーたちのお手伝いができていることは、当初描いた目的に近いことはできている」と森田さんは語ります。

 

▲起業家たちとの打ち合わせも行われるオランド店内

地域のためならと、協力意識の強い弘前の人たちと

ラボメンバーのサポートのほか、NCL弘前の活動として、市外からの関係人口を増やすこともあります。オランドを活用したイベントもその目的の一つ。コロナ禍で思い通りに実施できていないケースもありますが、オンラインや感染対策を徹底した形で少しずつ開催にこぎつけています。オランドに留まらず、弘前公園で地元の作家らを集めたクラフトフェアや弘前の中心市街を会場にしたアートイベントもラボメンバーらと開催しました。

▲弘前公園で開催したクラフトフェア「百箱」

「新たなイベントや活動を実現させるためには、地域の理解が必要になる。弘前の場合、弘前のためという意識が強く協力的な人も多い」と森田さん。

その一方で課題もあると話す森田さん。「津軽富士・岩木山は弘前の人たちにとってファッションとして身につけるほど好きではあるが、それを外に向けて観光コンテンツとして何を発信するか、どう見せていくかといった視点に欠けている」といいます。
また、商売という点においてはさらに難しい側面もあると指摘。「お金を取るべきところで取らない場合も少なくない。地方のいいところなのかもしれないが、もう少し商売の線引きがあってもいいのでは」と話します。

▲弘前に住み始めて3年目となった森田さん

2拠点居住だから見える課題を、地域の人と一緒に考えたい

現在、家族を東京に残しているため2拠点居住の森田さん。外からの視点を大事にしていると言います。
「弘前の人たちは地元愛が強すぎて、その価値が見えなくなってしまっていることも多い。Iターン者という立場だからこそ見えてくる課題や問題を指摘することが大切」と明かします。

 「地方は外から来る人たちに対して厳しいといった声があるが、私自身の体験としてそんなことはなかった。むしろ地方は人と接することが好きな人が多く、東京ではなかったような、街に知り合いができることもよくある。昔ながらといった人間関係がここにはあり、もしかすると関係人口の創出を考える上で一つのコンテンツになりうる可能性があるのかもしれない」。

 弘前には潜在している価値が多く、掘り出せるものがたくさんあると言います。外の目でそれらを引き出しつつ、地域を巻き込んで新たな起業家が増えるような土台づくり、そして事業開発が今後も森田さんの挑戦として続きます。

(弘前市編02に続きます)