事業創出だけではなく、事業承継で地域の未来をつなぐ ローカルツーリズム株式会社の新たな展開
ローカルツーリズム株式会社は、2021年10月の発足から1年超が経ちました。改めて「地域循環経済の拡充を目指す」という方針のもと、今後どのように地域と、その抱える問題と向き合っていきたいのか。代表の糀屋総一朗が考えるビジョンについて語ります。
「地域循環経済の拡充」にもっとインパクトをもたせるために
――ローカルツーリズム株式会社として1年間、地域の事業に投資されたりしてきましたが、改めて振り返っていかがでしょうか。
糀屋総一朗(以下、糀屋):まずこの会社として目指したいのは「地域循環経済の拡充」で、基本的にその考え方は間違っていないと思いますし、今後もブレないと思います。この1年、さまざまな地域のプレイヤーの方たちとお会いしてお話を聞いていたのですが、はじめは地域で新しいことを始めようとしている人に少額でもいいので投資をして、少しずつ地域を変えていけたらと思っていました。
しかし突っ込んでお話をしたり、「ビジネス」として事業を見た時に、「思いはわかるけど、それが地域のためになるのだろうか?」という案件の方が多いように感じました。それで改めていろいろと考えました。いくつかの案件には投資させていただきましたが、この会社として「地域循環経済の拡充」を目指すのであれば、より影響力の大きい、世界にも通用するサービスやものにもっと投資していくべきなのではないかと考えるようになりました。
例としては、福岡で焼酎の価値を再定義し、日本国内のみならず世界を視野にビジネスを始めている「SHOCHU X」さんのような取り組み、プロダクトに注目しています。2023年はもともと地域の資産としてあったものをブランディングし直して、外に大きく展開していきたいと考えている方やプロダクトに対して適切に投資を行っていきたいと考えています。
――何かそのように考えを転換する具体的なきっかけがあったのでしょうか。
糀屋:現在ローカルツーリズムとして、すでに福岡県宗像市大島でさまざまなプロジェクトを仕掛けています。もともとは一棟貸しのヴィラ「MINAWA」から始まり、旧村役場を改装してコミュニティスペース「umiba」を作りました。ここは地域の人たちとの関係づくりという要素があり、弊社にとっては重要な拠点です。
しかし一方で「ビジネス」として考えた際には、大きな売上を生み出すわけではない。地域の人と交流すると、「やっている感」は出るのですが、それで満足して終わってしまうということが多いんですよね。
そうではなく、経済を活性化させるという意味では、もっと具体的に地域で活躍している方たちに対して投資をしていく。宿泊業であれば、MINAWAだけではなく、もう少し規模感があるものが必要なのではないかと考えるようになりました。それが「影響力をもった事業」や「尖ったものを伸ばしていく」という考えにつながりました。
消えつつある地域の事業を繋いでいきたい
ーー事業を自社で作っていくだけではなく、すでにあるいいものを掘り起こしてもっとブーストをかけるということですね。
糀屋:その通りです。すでにあるもの、という意味では、消えかかっている事業を承継し、支援する仕組みを作っていくべきだなとも考えています。
大島を例に挙げると、現状でもほとんどの宿が70歳以上の方が1人や2人で営んでいる状況です。少数でやっているから、すみずみまで清掃を行き届かせるのは難しい。時には、お客さんから電話がかかってきても、面倒臭いから取らない、なんていうこともあるわけです。それは事業としてダメだよねと。
しかも島からは若者が出て行ってしまい、後継者はいないので、その方が廃業すると決めたら宿がなくなってしまうことになります。宿に限らず他の産業も、高齢化によって似たような状態に陥っています。産業がなくなってしまうと、地域が自立できない状態に陥ってしまいます。
地域に関わり始めた当初は、「事業がないなら、自分が事業を作っていけばいいじゃん」という気持ちだったんです。でもそれでは限度があると気づき、まず地域にある産業を存続させ、適切に次代に繋いでいくことが必要だと、「事業承継」こそが、地域衰退にダイレクトに関わる問題で、ここを解決しない限りは未来はないのではないかなと、実体験をもって考えるようになりました。
中小企業庁のデータによると、経営者年齢のピークは60〜70代。多少改善されたとはいえ、6割程度の会社が後継者不在だというデータも帝国データバンクから出ています。大島での実体験が、日本全国でも同様に起こっているのだと改めて認識できました。また、事業承継の市場規模は、推計主体や推計方法によってブレはありますが、20兆円近くとかなり大きく、地域へのインパクトも大きいです。
ローカルツーリズムとして承継できるものはやっていきたいと思うことはもちろんですが、地域での事業を継承したいと思っている人と人をつなぐことも重要だと考えています。
つなぎ、創り出し、伸ばす
――事業の創出ではなく、承継に重きを置いていくということでしょうか。
糀屋:正確には、今まで創出しか考えていなかったところ、承継も考えていくということになると思います。両輪だと思います。新事業の創出は期待感を創り出すことができます。逆に、うまくいくものもあればうまくいかないものもあるので、それだけやっていては弱いなと。長年残ってきたものにはやはり残ってきた理由があり、価値があるのだなと改めて感じています。そういうものの底上げをすることには価値がある。今までその面での目線が弱かったなと改めて思い直しているところです。
ーー具体的にはどのような展開となるのでしょうか。
糀屋:承継に関しては人と人をつなぎ、弊社が仲介となる場合もあれば、承継したいと考えている人と弊社が共同で事業に取り組むこともあり得ると思います。いろんな目線で可能性を探っていきたいですね。まずは事業を自分では引退したいけれど、事業自体は誰かに継いでほしいと思っている人を探し、同時に地域で挑戦したいと思っている人に声をかけていきたいです。
また、冒頭でもお話したように、すでに地域にあるものをよりブラッシュアップして事業をしている人たちにも投資して、良質なものに適切な値付けをして広めていきたいと思っています。僕はこれを「珍味路線」と呼んでいますが、地域ならではのものをもっと尖らせていきたいですね。
尖った事業も、事業承継についても、このローカルツーリズムマガジンでも紹介していきたいと考えているので、興味がある方はホームページやTwitter @komehanaya のDM、Facebookのメッセージからお気軽にいただけると嬉しいです。
古くから残っているものも、放っておくとなくなってしまいます。でも、日本の魅力を作り出す潜在的価値を持ったサービスやものがなくなってしまうのは、避けなければなりません。古くから続くもので、残した方がいいものも確実にあると思います。その感覚がわかる方、地域や事業に惚れ込んだ方と一緒に、未来の地域づくりをしていけたらベストですね。
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