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サウナは地域の魅力を伝える「地産地蒸」装置になれる 九州とサウナ×糀屋総一朗対談3

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と、それぞれの地域で新たなことに取り組む方の対談。今回は、九州のサウナを紹介するWebサイト『九州とサウナ』マガジン編集長のタカハシさん、プロデューサーのカナザワコウキさんのお二人にお話をお伺いしました。対談の最終回は、現在のサウナブームを超えたその先、サウナが地域で果たすことのできる役割についてです。

ブームから日常へ「地産地蒸」

糀屋:今後、サウナはどのようになっていくと思いますか?

カナザワ:今は、まだブームの一環だと捉えられているかもしれません。でも、九州をはじめ、次のフェーズに進もうとしている地域もいくつかあります。そもそもサウナって、中毒性というより習慣化していくもの。カルチャーとして続いていくと思うんです。今後は、もっと地域と一体化して、今まであまりサウナとは関係のなかった食とか、色々な掛け合わせも面白いかなと思います。近所のカフェにいくような、もっとサウナと日常が隣接していくような世界観が生まれていくといいですね。

タカハシ:一言でまとめると、『地産地蒸』(ちさんちじょう)。サウナって、改めて地域の人が地域を知るきっかけになるんですよ。今までよく分かっていなかった地域の魅力を、五感で感じられるアクティビティです。

たとえば、地元の観光地やサウナに行って、知っているようで知らなかった世界を楽しんでみる。すると、ここはこんな風景だったのか、こんな自然があったんだって新たな発見もあると思います。

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また、サウナ以外にも地方の特産品があります。大分だとカボスとか、柑橘系の果物をいかしてアロマオイルを作ってみたり。または、サウナと食事がワンセットになっている場所もあります。サウナ飯と言いますが、改めてその土地のものを食べてみるのもいいですね。

こうして、サウナも普段と違った体験や感覚もセットで覚えていく。色々な地方に足を運び、それぞれの価値観を提唱していけばいいのかなって思っています。これはローカルとの繋がりも関係してくるし、自分たちのような活動をする人にもよるのかなと思います。

糀屋:『地産地蒸』って言葉、めっちゃいいですね。

タカハシ:誰も使ってないうちに広めようかと(笑)。あと、個人的にはもっとサウナを地域のコミュニティスペースとしてたくさんの人に活用して欲しいとも思っています。ただ、これは人によってだいぶ価値観が違うんですよね。

僕たちは現状の第3次サウナブームにおけるサウナクラスターを1.0(X世代中心)、2.0(Y世代中心ソロ志向)、3.0(Y世代、Z世代中心)と、分類して捉えています。その中でも、クラスター2.0はソロ志向が強く、自分のインナースペースを確認するためにサウナに入ります。一方クラスター3.0は、サウナをコミュニティスペースとして捉える傾向が強いようです。「裸で話すと、色々な物事が回るよね」といった感じでしょうか。

元来、古くから温浴施設はコミュニティスペースとしての役割を担ってきました。各クラスター同士のサウナの捉え方に起因するハレーションも問題となっていますが、本筋からそれるので、これはまた別の機会に。

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私自身はソロ志向の強い2.0に近い分類なのですが、これからは、世代を越えて再定義されたコミュニティスペースとしてのサウナが地方から日本全体に広がっていくといいなと思っています。

糀屋:少しずれるかもしれませんが、地域では、よりコミュニティの大事さを感じています。たとえば大島に住んでいる人たち。彼らは大島に対してのアイデンティティがとても強い。みんなで漁業に行って、身体的共同も含めて、非常にバインド(結びつき)が強いんです。そこがサウナはある意味似ているかなと思っていて。

サウナも、メディテーション(瞑想)と言われるくらい、密な身体的共同性を持っています。それに、『ととのう』といった言葉とか、ある種スピリチュアルと近い部分もありますね。

また、サウナはコミュニティを形成したり、気が高まったり、精神的にもとてもいい。大袈裟だけど、「サウナがあるから生きていける」。そういったサウナコミュニティもあり得ると思います。

タカハシ:まさに豊後大野市がそれに近いなって。単に観光ツールとしてサウナを捉えるのではなく、住民の幸福度をサウナを通じて上げていく。元々は『リビルドサウナ』の高橋ケンさんが地道に活動されていましたが、ついには豊後大野市長が『サウナのまち宣言』をされるほどの盛り上がりをみせています

そういう取り組み方ってフィンランドもそうで、フィンランド第2の都市・タンペレ市が『世界サウナ首都宣言』をしてるんですよね。そんな地方のあり方っていいなって。サウナ好きだけにこだわらず、関係人口をとにかく増やしていきたい。そういう意味では、サウナはコミュニティのきっかけとなる装置ですね。そうしてサウナとしての存在がさらに認知されていくといいかなと思います。

サウナは地下アイドル時代の構図?

糀屋:僕の知り合いに、今度『九州とサウナ』っていうメディアをやっている人たちを取材するって話をしたんです。すると「え? サウナ? なんか最近、サウナサウナうるさくてやだ」って。そんな風に捉えている人もいるんだなって。サウナの伝わり方が、どこか違った伝わり方をしてしまっている人も多い気もします。

タカハシサウナって結局情報じゃなくて体験なんですよ。一度体験してみないと、その良さは中々伝わらない。これってもどかしい部分でもあるんですけど、タッチポイント(顧客と企業の接点)みたいなところが、さっきの地産地蒸(ちさんちじょう)があるって伝わってくると、世界観が違ってくるのかもしれない。

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カナザワ:サウナに対するアレルギーってすごく分かります。これってサウナどうこうよりも、流行っているものに対して斜に構えちゃうというか。既に成熟しつつあるマーケティングに乗っかるダサさみたいな。これってアイドルの構造にも似ていると思います。
たとえば、地下アイドル時代から応援していたのに、握手会を始めた瞬間に新しい参入者も入ってくる。古参のファンは、「俺らはテレビに出る前から応援していたのに、あいつらは生意気だ」ってなる人もいる。

一方、「あぁ、ももクロね。AKBね。一定のファンたちは根強いけど、どこか今更感もあるよね」と感じる人もいる。でも、僕もそうでしたが、友達にももクロのライブに連れて行ってもらった瞬間、感動した。ものすごいブレイクスルーが起きて一体化した。それは体験です。行ってみないと分からないんですよ。そう考えると、サウナとアイドルの文化は似ている気がします。

糀屋:時系列順のクラスター発生ってどのカルチャーにも起こりうると思う。クラスター1.0の人たちには、「俺らが始めたんだ」って自負がある。これってどのカルチャーにも起こりうる問題でしょうね。

タカハシ:そもそもサウナって今第3次サウナブームと呼ばれていて、そんなに目新しいコンテンツでもないんですよね。カルチャーのリノベーション、昔からあった価値を掘り起こして面白がられているんだと思います。リバイバルじゃないけど、文化をイノベーションしているような事例って面白いですよ。

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『九州とサウナ』としては、これからもっとたくさんの人たちにサウナという素晴らしいカルチャーを習慣にしてもらいたいと思っています。「九州をサウナの聖地にしたい」という想いの解像度が上がってきていて、「外からそう見られたい」というよりも、サウナの習慣化が九州に住む人たちにとって幸せにつながるものになればいいなというモチベーションになっています。

「人気施設に出向く」だけではなく、多くの人々が自分の住むまちのサウナ施設に通うことが習慣になる。そうなることで施設は元気になって、ユーザーの間口も広がる。ユーザーの間口が広がれば、様々な多様性が九州のサウナカルチャーに生まれていく。そんな未来になれば、ユーザーとしても嬉しいですね。

糀屋:僕ももっとサウナ行きたくなりました。引き続き、九州からの発信も楽しみにしています!

「九州とサウナ」マガジン


(構成・松永怜)

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