空間にマッチした「音」はどうデザインするか 安宅晃×糀屋総一朗対談1
ローカルツーリズム代表・糀屋総一朗が、地域で活躍する様々な方にお話をうかがう対談、今回はサウンドデザイナー・安宅(あたか)晃さんです。安宅さんは九州で象徴的な存在となっている熊本の温浴施設「湯らっくす」のサウナサウンドデザインを担当しています。対談の前編では、空間に対しての「音」の選び方について話します。
安宅晃(あたか・あきら)
atk/サウナ先生
サウンドデザイナー
サウナでの最適なサウンドをデザインし、サウナ西の聖地湯らっくすのメディーテーションサウナサウンドデザインを担当。その他サウナ施設からも多数のオファーを頂く。フィンランド政府観光局公認フィンランドサウナアンバサダー、AI Sound Geneletor SOUNDRAW ミュージックディレクター、バーコードリーダーを楽器にするプロバーコーディストでもある。放浪癖アリの新潟出身。酷い時は週7以上サウナに入るハードサウナー
https://twitter.com/sauna_sensei_
「サウンドデザイナー」の仕事とは?
――お二人は以前からお知り合いとのことですが、お仕事でも関わりがあったりするのでしょうか。
糀屋:僕のやっている宗像大島の宿「MINAWA」の音響を安宅さんにお願いして、スピーカー選びもやっていただいたんです。その節はお世話になりました。
安宅:いえいえ。スピーカーいかがですか?
糀屋:音も良くて、宿泊したゲストの方からも好評です。
安宅:良かったです!
――改めて、安宅さんのプロフィールを簡単にですがお伺いできればと思います。そもそもなぜ音楽の道に進まれようと思ったんですか?
安宅:僕は新潟出身で、おじいちゃんが小学校の音楽の先生だったんです。姉がピアノを習っていて、ピアノはうちにあったので、おもちゃがわりに弾いたりしてましたね。そのあとエレキギターに興味を持って、高校卒業後は新潟の音楽専門学校の作曲科に進んで、気づいたら今、って感じですかね(笑)。
糀屋:すごい(笑)。
安宅:いまの肩書としては「サウンドデザイナー」として、テレビやCMの音楽を作ったり、サウナ室で流れるサウンドを手掛けたりしています。代表的なものは熊本の「湯らっくす」さん、熱海の「オーシャンスパfuua」さん、あとは12月に西麻布にオープンするサウナにも音を提供することが決まっています。サウナは本当に好きで、フィンランド政府観光局認定のフィンランドサウナアンバサダーにもなってます。
それから、バーコードリーダーを楽器にして演奏する「プロバーコーディスト」でもあります(笑)。
糀屋:あの動画、超面白かったです。
https://www.youtube.com/watch?v=2zRmNL1SLy4
安宅:バーコードってあの縞々にデータが書き込まれていて、それを読み取ることで情報を得ることができるんです。それを音声信号としてアウトプットすることで「楽器」として演奏しています。縞が細いと高い音、離すと小さい音になるという特性があるので、それを利用して音楽を奏でるという仕組みです。それから使わなくなった家電を楽器にして、音楽を作る試みなんかもしてますね。
糀屋:発想がめちゃめちゃ自由ですよね。
空間は音でコントロールできる
糀屋:MINAWAもそうなんですが、地域で事業を進めていく上で「音」と「光」が必要になる場面が結構あるなって思っているんです。安宅さんがよく怒っている、おしゃれなカフェに深夜のバーで流れているようなジャズがかかっているとか、空間と音がそぐわないな、というのがいろんなところで起きていると思っていて。日本人って視覚的にはかっこいいものを作るけど、それ以外のところがおざなりになっているのでは? と感じることが多いです。地域でいろんな空間を作っていくときに、その概念、考えが抜けちゃうと魅力がなくなってしまうのでは、と思っていて。そういうとろのナレッジって、全然伝わっていないですよね。
安宅:ちょっと前にいろいろなホテルを点々とする、アドレスホッパー的な動きをしてたんですけど。新しいホテルもけっこうできてて、空間もすごくおしゃれできれいなのに、そこに大容量で音楽がかかってたりとか、「空間と音楽がそぐわないな」と思うことがけっこうありました。
4~5年前に福岡でトークイベントのBGMを担当して、リアルタイムで音楽を合わせていく、という試みをしたことがあるんです。簡単に言うとDJではあるんですが、既成の音源ではなく、電子楽器を使って即興で音を出す。でも決して音が主役になるのではなく、目的はトークイベントが潤滑に進むことです。話すのに慣れていない方でも、音楽が流れていると緊張が和らぐところがあるんですよ。ちょっと場の雰囲気が停滞しているなと思ったらビートを上げたりとか、そろそろ締めに入る、という雰囲気のときはBPM、ボリュームを下げて終わりだよ、という雰囲気を出したりとか。音で場を作れたなという成功体験になって、改めて音って重要だな、と考えさせられた体験でしたね。
今って、「この場所で何を流したらいいか」ということについて、エビデンスが取れていない状況だと思うんです。こういう曲、方向性のサウンドにすることによってお客さんが2倍に増えますよとか、数字に直結しないと経営者としては「音をデザインし直す」というところにまで目がいかないと思います。そこまで影響がないと思ってるのかもしれないですけどね。
でも、スーパーのBGMがチープなのは、そこで売っているものが安いと喚起させる意味合いがあると言われています。あえてチープな音を流しているんです。逆にオーガニック商品を扱うような高級スーパーだと、クラシックが流れているとか。やっているところはやってるんですけど、なかなかまだ積極的にそこに踏み込んでいるところは見かけないですね。
音を決めていくのは誰か
糀屋:外資の大手ホテルチェーンとかは、どういう音楽がゲストの心理に影響を与えるとかはちゃんと考えていると思うんですよね。でも中小の宿はそこまでいってない。気づいていないのもあるけど、気づいていても誰にお願いしていいのかわからない、ということもあると思います。現実はスタッフの中で「音楽に詳しそうな人」が担当してる、という感じですよね。
安宅:そのレベルで止まってるんですよ。福岡のホテルを転々としてた時、これはどこから手をつけたらいい問題なのかな、と悩みました。例えば滞在しているホテルのフロントの人に話しても通じない。どこからどう変えていく……変えていく、というのもおこがましいですけど、どうにかならないかなと。どうアプローチしていけばいいのかなと思っています。どうも、「ぽい」のを流しとけばいいんじゃない、という感じがやっぱり見受けられるんですよね。
糀屋:なんとなくこのへんじゃね? というのを流してごまかしてますよね。
安宅:もちろん、あくまで好みの部分も大きいと思うんです。ホテル近くの居酒屋の店員さんと話したんですが、その店では90年代のJpopがかかっていました。音質もすごくよかったんです。なんでこの曲にしたの? と聞いたら、みんなが知ってたり、カラオケで歌ったりする曲が多いので、そこから会話が弾むこともあるのでこういう選曲にしてる、と言っていて。音楽ってそういう効果もあるな、と改めて思いました。
糀屋:その土地とかお店「らしさ」が音から出ていれば、話としてはわかりやすいと思うんですけどね。また大島の話になりますけど、宗教的共同性も強いちょっと特殊なところは、どういう音をセットしていったらいいんだろう? と考えると、かなり抽象的な話になってくるなと思っているんです。音選びをどうしていったらいいか、見当がついていなくて。「土地なりの音楽」ということにどうアプローチしていけばいいのかなと考えています。これって多分、ほかの地域の人達も興味を持つテーマかなと思ってます。
安宅:MINAWAでJpop流れてたら、ちょっとあれ? ってなりますしね(笑)。
(取材・構成 藤井みさ)
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