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建築物の「断熱」によってエネルギーはもっと削減できる エネルギーまちづくり社×糀屋総一朗対談2

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と、それぞれの地域で新たなことに取り組む方の対談。今回は、エネルギーから暮らしをデザインする株式会社エネルギーまちづくり社(以下、エネまち)の代表取締役・竹内昌義さんと、役員の内山章さんをお迎えし、エネルギーの観点からのまちづくり、地域創生について語りました。対談の2回目は、エネルギーを削減するために大きな鍵となる「断熱」について詳しく伺いました。

普及活動としての実証実験

内山:去年から仙台市と組んで、小学校の断熱化の実証実験もやっています。一昨年から全国の公立の学校全て、100%の教室にエアコンがついてるんです。仙台市は公立の小学校と中学校が200校あるんですけど、そのエアコン代は全部自治体が払うんです。ただ学校には断熱が一切されてない

糀屋:ああ、そうなんですね。

内山日本全国、基本的に断熱されている公立小学校中学校なんてなくて、エネルギー垂れ流しなんです。夏の暑いときに授業やってるとエアコンをつけっぱなしなんですけど、これからそのコストを自治体がずっと抱えてかなきゃいけないんですよ。そこで、仙台市の営繕課の人間がそこに疑問を持って「これ断熱したらどうなるか、調査をしましょう」ということになったので、実証実験を始めたんです。

まず教室を三つ選んでそれぞれ断熱改修をしました。「既存の小学校を改修するんだったらこのぐらいの断熱改修ができる」という仕様。「新築するんだったらこのくらいのレベルだろう」という仕様。あと一つは、僕らが「このくらいの小学校を作ったらすごくいいよ」と考えるドリームプランの仕様。それぞれにセンサーを12個ずつぐらいつけて今エビデンスの調査をやっています。

ちゃんとやれば、自治体が負担するエネルギーコストを下げられるだろうという考えが1つあるんですけど、もう一つは現場の環境変化なんですよ。これまでの断熱材が入っていない教室だと、冬の寒い日にはエアコンから風が吹き出しっぱなしになってしまう。でも改修するとちゃんと熱がたまっていくから吹かなくなる。普通の家で、部屋が暖まってくると風が吹かなくなるのと同じなんですけど。

糀屋:そうですよね。

内山:そうすると、子供たちの集中力が増すんですって。授業がすごくしやすいって。学校の先生方がとにかく喜んでるんです。断熱すれば馬鹿でかいエアコンを買わなくてもいいから、電気代も下がる。それにエアコンって15年に1回は変えていかなきゃいけないものなんですが、断熱材は30年40年で駄目になってしまうものはないので、そこの更新コストも下げられる。非常に投資効率がいい材料なんですよ。

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糀屋:ほお〜。

内山:あとは断熱って、換気も大事なので、そこにプラスして換気設備も付けているんですね。そうすると、教室の中の二酸化炭素濃度がちゃんと下がるんですよ。小学校環境衛生基準では今、学校の教室内の空調環境の指針として「二酸化炭素は1500ppm以下を目指しましょう」となっているんです。 コロナなどの影響もあって、厚生労働省では二酸化炭素濃度を1000ppmに抑えることを推奨していますが、換気扇がないとこの基準をすぐに超え てしまうんです。窓あけってあんまりあてにならないことがわかりました。

考えたら当たり前で、教室って全国どこでも、7m×7mから8m×8m。だいたい60平米ぐらいです。60平米ってマンションで換算すると家族4人ぐらいが住む環境じゃないですか。でも教室だとそこに30人の人がずっとたまってるわけです。そういう意味で言うと、過酷な環境の空間なんですよね。だからそこをちゃんと空調してあげないと駄目だねってことがわかってきました。

糀屋:なるほど。

内山:そういうエビデンスを作って、これから仙台の小学校も次は予算をちゃんと取ってちょっとずつ断熱改修していきましょうね、という事業になればいいなと思ってやってるんです。だから単純にエネルギーって地球環境の話とかだけじゃなくて、人々の生活に密接に関わってくるんですよ。

糀屋:断熱の工事をすると、少しコストはかかるけど、将来的に見たら全然いいよねってことになると。

内山:そのベネフィットがどこまで積み上げられるかっていうのは今実験中っていう感じですかね。日本の電力コストって世界に比べてめちゃめちゃ安いんですよ。

糀屋:そうですね。

内山:そういった意味で言うと、単純に電気代だけでクロスポイントを作ろうとすると、借金を返し終えるのに30年ぐらいかかってしまうんです。でもエアコンの更新コストだったり、学習環境のメリットみたいなことも加わっていくと、それもいいよねっていう話になっていかないかなと。

理解者を広めるために何をすべきか

ーーエコハウスを建てるんだったら自治体が補助金を出しますとか、そういうような話っていうのは可能性としてはあるんですか?

竹内:自治体では鳥取県が補助金を出してます。それは地元の工務店さんの産業振興がひとつにあって、ハウスメーカーができないようなことをちゃんとできるんだったら、そこをちゃんと手当てするよっていうことなんですけど。今度、長野県でも始まりますね。進んだところは始めてます。

ーーエネまち社では、そういう流れをブームアップしようという部分もあるんですか?

竹内:もちろんあります。今、環境省のホームページにも載っていますけど、各自治体が「気候緊急宣言」を出しているんです。温暖化止めなきゃねってことで気候緊急を宣言するんですけど……、次の一手がないんですよ。

その中でも、長野県が一番進んでいて「ゼロカーボン戦略」を立ててるんです。どこを削減していくかって話を具体的に始めています。まずは「モビリティ」。その次が「住宅」なんですよ。そして「業務」(住宅以外の建築)、それから「産業」なんです。長野は産業がそんなに大きくないのでこの順番なんですけど、2番目と3番目の「住宅」と「業務」ってどちらも建築なんです。特に公共建築物をちゃんとゼロカーボンにしていきましょう、という話もあります。

とにかく、エネルギー消費を減らさないと話が始まらないんですが、その感覚があまりにも今の日本にはないんですね。実際、地味なんですけど、断熱さえすればエネルギーの消費は減らせるんですよ。

ーーそこがなかなかできないということでしょうか。

竹内:それにはいろんな要因があって、元々寒くないよって思い込んでる部分もあるし、断熱しても意味がないんだ、効果的ではないんだと思い込んでる部分もあるんですけど、実はただやってないだけなんですよ。それを思いっきりやることによって、住宅のエネルギー消費が半分とか3分の1になる。その効果は意外と大きいよっていう話ですね。長野だけの話ではなく、日本全体のエネルギー、3分の1を住宅と建築で使ってる。小さい家の話も広がっていけば、実は大きな動きになるんですよ。

ーー電気を使った文化的な生活をやめますかやめませんかみたいな、そういう極論になっちゃう人も多いと思うんですが。

竹内:江戸時代に戻るのか? って言うんですけど、いや、自分の家に太陽光パネルをつけて自給すればいいじゃないか、って話です。化石燃料やめるって決めたら、思いっきり変わってきますよ。太陽光パネルの性能もどんどん進化してますし、30平米ぐらいの屋根に乗せて、ちゃんと断熱すれば、それで家は自給できるくらいです。値段は90万ぐらいですよ。

ーー家を建てようとしたときに、予算の一部をそこに回せばだいぶ変わりますね。

竹内:全然変わりますよ。

糀屋:エネまち社さんでは、独自でのエコハウスの開発もやっていらっしゃるんですよね。

内山:そうですね。新しいエコハウスのプロトタイプも開発をしてます。とにかくエコハウスを普及させるためにみんなが買いやすいものを作ろうと。そのために、仕様の決まったやつを作っておいて、それでいろんな全国の工務店さんにこれ建ててっていうと立ててもらえるようなモデルですね。

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あとは普及啓発活動で『エネまち塾』っていうのをやってて、エネルギーの話をしたりだとか、エコリノベーションしていく話だとか。最近は『エネまち設計塾』っていうのもありますね。受講料50万円ぐらい取る高い塾なんですけども、エコハウスを建てられるまでを設計者に全部教えるという。

糀屋:それは対象になっているのは設計士さんですか。

内山:そうですね。設計者の方に、エネまちの5人が持ってるエコハウスに関するスキルを全部伝えるという、かなりハードな塾です。今は初年度なので7人。もっと集めたいなと思ってるんですけど、値段が値段なんでね。でも温熱環境のシミュレーション。設計をしていく中でこのくらいの断熱材を入れる、このくらいの窓にすると室内の環境がこう変わるとか、シミュレーションソフトを使ってるんですが、そのソフトの使い方から、施工の管理の方法から、設計の勘所みたいなところ全部教えてます。

ーートータルで受講するとどのぐらいの期間でその履修ができるわけですか?

内山:2週間ごとの講座で、全8回のクラスなので、4カ月ですかね。その期間、ちゃんと学ぶっていうモチベーションがある方たちです。実設計をしてもらって、住宅の設計をする設計者人が多いんですけど、敷地を決めて、ここにこういうのを建てるという具体例を持ってくると。

ーーかなり実践的なレベルですね。

内山:そうですね、めちゃめちゃ実践的なレベルです。4カ月間、2週間に1回なんですけど、その間に宿題もいっぱい出て、それをこなしながらになりますから、結構ハードルが高いハードな講座だと思います。

(構成・斎藤貴義)


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