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つねに革新し続けて、地域の「伝統」をつくりたい 前田大介×横尾文洋×糀屋総一朗対談4

ローカルツーリズム代表・糀屋総一朗と、地域を変えるキーパーソンの対談。今回は富山県立山町で新しいビレッジ(村)「ヘルジアン・ウッド」を運営する前田薬品工業代表取締役社長の前田大介さんと、不動産領域のインパクト投資に取り組むランドアーツ代表の横尾文洋さんをお迎えし、地域づくりについて大いに語り合いました。4回連続掲載の最終回は、「伝統」についての考え方、地域のファイナンスについてうかがいました。

前回はこちら

https://note.com/localtourism/n/nf296afe5f8b3

伝統とはアップデートしつづけること

前田:ヨーロッパの町並みとか歴史的な世界遺産もそうなんですけど、人が変わっても脈々と経年変化で良くなるものってあると思うんですよ。ただその時々の「人」っていうのが大事ってことだと思います。「あの時のシェフはこうだった」「あの時のセラピストはこうだった」っていうレジェンドがどんどん生まれるといいなと思ってますけど。

糀屋:何か歴史ですよね。

横尾:競合になるかもしれませんけど、近所にいいレストランが来て、そこと切磋琢磨するっていうのもありますよね。

前田:それはもう僕の中の構想にもあります。「今から三つぐらいレストランに声かけて呼ぶから競争だよ」っていう話はシェフたちにも言ってるんです。

横尾:そうなれば、この地域の素材を生かして食べられる料理の開発やジャンルも広がるし、注目も浴びやすくなり、より魅力的になるんじゃないかなって。

糀屋:すごくいいですね。話を聞いていて思ったのは、地方が衰退していくって、モノカルチャー化しちゃってるというか、物差しが単一化されていっちゃうというか、レストランはもうどんどん減っていながらもうここしかないとか。でも、それって衰退の兆候なんですよね。やっぱりいろんな人が来ていろんなとこでいろんなお店をやったりとか、そういう方向に行くと、すごくいいだろうなって思いました。

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前田:そうですね。糀屋さんにも見てもらった通り、富山県の岩瀬町っていうのは20年かけて、レストランや作家さんが集まってきています。桝田酒造さんが20年かけてやられたことですけど、僕もまだ40歳で60歳まであと20年あるので、あんまり焦らず、レストランに限らず寛容に受け入れてやっていきたいなと思ってます。

僕が尊敬している経営者の1人に、『能作』の能作克治さんがいらっしゃいます。江戸時代から何百年と続く鋳物という伝統産業にデザインとクリエイティブを入れて、世界中で人気になってる会社なんですけど、彼は「伝統とは革新の連続」っておっしゃってますね。伝統産業と言われるものも、常々ちょっとずつアップデートして革新的なことをやってきた。革新をしなかったものは、結局伝統として残ってないっていう。それはこの村作りも一緒のことかなと思ってるんです。

糀屋:確かに。

ーー地方って「今あるものを守りたい」っていう気持ちが強すぎて、どんどん衰退していってるのかなっていうこともありますよね。

前田:富山って、実は面白い指標がありまして、一戸建ての持ち家率が日本一なんですね。それから貯蓄率も日本一。それから一家に保有する車の台数日本一。高校進学率100%で6年連続。

ーー100%?!

前田:そう(笑)。それから震度1以上の地震が平均6回以下でほとんど地震災害がない。こういうことになってくると皆さん「今のままでいいじゃない」って思うようになるんです。「無理しなくてもいい」「これで十分幸せ」みたいな感じなんで。ただそれって、ある時、エアポケットのように落ちるときあるよな、とか、なんとなく予感していて。そうならないようなものをこの場所では作れたらいいなと思ってますかね。

富山から発信する新しい教育

糀屋:あと興味があるのは先ほどのインターナショナルスクールの件。今は軽井沢にもあったり、今度は白馬にもインターナショナルスクールができるんです。地方に居住するときに、教育の問題がやはり親にとっては非常に大事ですよね。インターナショナルスクールを作ろうと思ったのは、どういうきっかけだったんですか。

前田:『ヘルジアン・ウッド』で進出する際に、すぐそばの小学校があと2年後に休校になり、その先廃校になるという情報は入ってたんですね。いい規模感の学校で、状態も良かったんで、もし空くんだったら何かしたいなぐらいの感じは持ってたんです。

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糀屋:そんな感じだったんですね、元々は。

前田:それで、休校になる頃は全校生徒で小学生6人という状態でした。僕、たまたま朝、最後の日の集団登校の光景を見ちゃったんですよ。それ見て、僕は泣いちゃいまして……。全国でも廃校の利活用で商業施設をつくったり、いろいろあるんですけど、学校は学校のまま復活させることがやっぱり最高だよな、って思えてきて。ただ、旧態依然とした学校を復活しても人は来ないなってずっと考えていたんですよ。急にポコッて廃校になるっていう情報が入ってきて、思わず手を上げたんです。今考えれば、自分の父と母は教育学部出身で塾の先生をやってたと言うのも大きいと思いますけど。

糀屋:家族のバックグラウンドに「教育」があったと。

前田:その影響はあったと思います。中学校のとき歴史の先生の授業がめちゃくちゃ面白かったんですよ。授業で毎日ディベートするような。それが印象に残っていて高校になっても「あの授業をやりたい」と思ってたんです。そのチャンスがいよいよ巡ってきたなと思って。学校をやるんだったらどんな学校がいいかな?と思って考えてて。たまたま、今の富山県知事も国際バカロレア(世界共通の大学入学資格及び成績証明書を与えるプログラム)の認証支援を八十八の具体的な政策に入れておられ、今はコンテンツをビルドアップしてる最中ですね。

糀屋:僕も最近子供が生まれまして、もう子供は親元から早く離れた方がいいんじゃないかって思って、でも自然が豊かなところがいいなと思っていて、それで今、白馬と富山を検討し始めてます。

横尾:はやい(笑)。

糀屋:富山のあんな環境がいいとこで。子供はそっちに行かせて、俺はたまに富山に遊びにいける。最高ですよ。6年後ぐらいのイメージですよね。

前田:いや、5年以内、できれば3年ぐらいのスピード感を持って考えています。東京の東葛西と西葛西にあるGIISという、元々インド人向けにシンガポール資本で作ったインターナショナルスクールがあって、そこのコンテンツ、カリキュラムとか仕組みを富山に実装することも提案してくださっています。全世界に22校あるのでいろんな人が交流したり、交換留学もしやすいしっていうことで、もうちょっとスピード感として早くなるかもしれないです。

糀屋:超楽しみです。インターナショナルスクールはともかく、教育機関としてのオープンはもっと早く?

前田:今、20人ぐらいの各界のプロが集まってくれますので、日本の教育の課題とか、もしくはこれからどんな教育が必要かとか世界に対するケーススタディをこれから1年かけてやってみます。今年はサマースクールとかウインタースクールで実証実験して、できれば3年後にインターナショナルスクールとしてバーッとオープンしたいんですが、もしかしたら最初ちょっとイノベーティブな教育機関みたいなところを始めるかもしれないです。なんせ、かなり強めの人たちが20人集まってくるので、まとまるかどうかも(笑)。

糀屋:楽しみですね。

地域のファイナンスを巻き込んでいくには

糀屋:横尾さんにも聞きたいことがあるんです。今、いろんな地域のファイナンスの仕組みを集めてるんですよ。間接金融から直接金融までさまざまな形があると思うんですが、既存の金融がなかなか動かないからお金でスタックしちゃってる地域の活動って多いと思うんです。それで新しいファイナンスの仕組みをどういうふうに、ハイブリッドしてやっていくかっていうところにすごく興味があるんですけど。

横尾:まだヴィラの調達方法は確定してないので、細かいところを言えない部分もあるんですけど……ファイナンスもやっぱり「人」だなと思っています。どんな人たちが強い熱量をもって地域づくり、不動産づくりをしているか。都心で不動産をつくれば、「この稼働率で家賃いくら」っていうトラックレコードが取れるんです。でも「地域で何かをゼロから作る」ってベンチャーみたいなところなんで、「人」が見られますね。

次に、「社会の課題への貢献」が明確かどうか。地域にとってどんなインパクトがあるのか、この投資や融資が何を解決していくつもりか、その意図がうまく伝わるとよいと思いますね。
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それから大事なのは、ちゃんとその結果報告をしてくれるか、というところですね。レポーティングでの重要情報開示です。単なる不動産データや財務情報だけじゃなくて、非財務情報も重要。「交流人口が増えてます」とか「近くでこんなことが起きてます」というものがあれば、事業への熱量が図れると思うんです。数字はもしかして出ないかもしれない。だから、できる限り数値化するけど、数字に出ないんだとしたら他の部分。イベントでたくさんの人が笑顔になっている写真でもいいと思いますし、建設現場がこう動いているっていう現状とか、そういうものをどうデジタルを活用して開示していくってのが自社の仕事かなと思って。

糀屋:レポーティングは重要ですよね。

横尾:はい、ファイナンスも一つのコミュニケーションですので、投資家や金融機関は何らかの報告がされないと気になるし、なんか何か問題あったら早く巻き込んでよっていうとこありますからね。そこはこれからツールを開発して解決していきたいんですよ。コロナによってDXが進んだり、社会とのつながりが見直されている今は地域づくりとファイナンスがミックスしてく幕開け時期なんじゃないかなと思ってます。

「飽き性」だからこそどんどんと作っていける

ーー前田さんの熱量って、どんなきっかけで生まれてきたんでしょうか。

前田:よく、モチベーションとかエネルギーって何なんですかって聞かれるんですけど、そんなかっこいいもんじゃなくて、とにかく僕は飽き症なんですよ(笑)。新しいチャレンジとか誰もやってないことやってないとちょっと精神的にだめになっちゃう。

糀屋:わかります(笑)。

前田:ありがとう! よかった、そう言ってくれる人がいて。小学校とかそれぐらいのときから落ち着きなかったし、常に何かやっていたい。で、落ち着いてくると精神的に病んでくる。維持メンテナンスとかの時期になってくると、気持ちがキツキツになります。

ーー運用は人に任せて、どんどんどんどん新しいものを作っていきたいみたいな?

前田:さっきのシェフの話と一緒で、チャレンジしたい人とのコミュニケーションはやっていきたいんですよ。やりたいって人に思いっきりやらせてあげて、困ったときに相談しながら、ちょっと関わってみながらというバランスがいいですね。

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横尾:あの村作りで大事なのは、そういう経営者の視点だなと思ってますね。今やられているのは、やっぱり人作り。「人が活躍できる場」というエッセンスが、さらに村作りに反映されてるなと思うんですよ。

糀屋:今日は、お話しできて本当に楽しかったです。ありがとうございました。

(取材・藤井みさ 構成・斎藤貴義)

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