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ハーブに導かれ、隈研吾との出会いで見えてきた村の形 前田大介×横尾文洋×糀屋総一朗対談2

ローカルツーリズム代表・糀屋総一朗と、地域を変えるキーパーソンの対談。今回は富山県立山町で新しいビレッジ(村)「ヘルジアン・ウッド」を運営する前田薬品工業代表取締役社長の前田大介さんと、不動産領域のインパクト投資に取り組むランドアーツ代表の横尾文洋さんをお迎えし、地域づくりについて大いに語り合いました。4回連続掲載の2回目は、地域ファンドのあり方、建築家・隈研吾さんと出会って具体的に見えてきた村の形についてうかがいました。

前回はこちら

https://note.com/localtourism/n/n0e85c116a9d0

投資とデジタルで地域の問題を解決したい

糀屋:横尾さんの経歴も簡単に教えていただけますか。

横尾:はい、今は独立してランドアーツという会社を経営しています。私自身は最初アクセンチュアというコンサルティング会社にいて、その後16年間は不動産金融の仕事をしていました。大手の不動産会社などが自社の不動産を投資家に売り、お金を集めて配当を出す「Jリート」と言われる商品があります。今だと時価総額1720兆円とかなり大きくなりましたが、商品がまだ5000億円ぐらいの小さいときからずっと一緒に成長に携わったという感じでした。

ですが配当の安定性を考えると基本的に、Jリートの投資先は収益性の安定している都心の大きい物件が多いばかり。そしてお金が集まるとさらに都心に新築のビルや物流施設ができていくという循環を見ていて、もっと自然に近い地域や、利回りなどの数値で表せないワクワク、感動するような不動産にもお金を巡らせたいという気持ちになっていきました。僕はそれぞれの地域、それぞれの良さに対してお金を流していきたいなっていうことを考えたんです。

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それでいずれは自分で会社をやろうと思っていたこともあって、独立して、不動産の投資とデジタルを活用して地域に貢献する会社を作ったんです。地域に投資が集まらないっていうことは、その社会的な重要性に気づかれていないこととか、そこに対する情報開示が少ないからなんじゃないかと思うんですよ。リスクやリターンだけでなく、社会課題の解決やそのインパクトに着目するインパクト投資は一つの解決方法。また、投資家さんも「それっていいけど、情報が揃ってないから投資できないよ」って二の足踏んじゃうんです。そこのデータ開示整備をしていきたいなと。それで前田さんのところでヴィラファンドができるんだったら、一緒にやりましょう、とお話をして、今に至ります。

糀屋:地域のファンドのあり方というのは、僕も今悩んでいることの一つなんです。

横尾:前田さんのところは「自然と共存して、そこに村作りで人が参加できる」のが特徴。交流の場みたいのができていく仕組みなんです。今までのファイナンスでいうと地銀や地元の信金が出すのが通常ですが、今回はもうちょっと広く、地域づくりに関心がある個人を含めた投資家さんを集めていく、そういった流れを作っていきたいと思っているんです。

例えば「Jリート」って投資していくと基本的にはほったらかしで配当が年間もらえる、いわゆる普通の資産運用なんです。でも、今回はもっと投資先に関わっていく感じの商品設計にしたいなと思っていて。例えばヴィラの開発に投資した方は、自分自身も泊まれる。そこでお酒、ハーブ、地域とのふれあいなど色々な体験などいろんなものが享受できる。しかもヴィラをはじめとした地域づくりに投資するわけですから、地域に対して染み出すお金っていうことにもなりますからね。地域に対する影響が通常よりも大きいものになると思っています。

ハーブから始まった村づくり

糀屋:なるほど!! その辺、後でちょっと詳しく伺いたいです。聞きたいこといっぱいあるんですけど……まずは前田さんに。どこに行ってもある問題なんですけど「地元の人が地元の魅力をわかってない問題」っていうのがあると思うんです。風景写真家の人が景色に感動してそこに住んじゃうと、逆にいい写真が撮れなくなっちゃう、ってことがあるらしくて、結局慣れて常態化してしまう。新鮮味とか感動みたいなのがすべて生活の中に吸収されてしまうんだと。

で、『ヘルジアン・ウッド』の口コミを見ていたら、結構辛辣な意見とかもあって「なんかいつも見てる風景と一緒だからつまんない」と書いてあったんです。僕は、いやいやいやそうじゃないでしょ! って思ったんですよ。でもやっぱり地元の人から見たら「全然普通じゃん」みたいに感じるのかな? と感じたんですよね。でも前田さんは地元の人なのに、それでも「ここがいい」「価値がある」ってことで大きな投資をしている。なんであそこに投資できたのかっていうのが僕はすごく興味があって。

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前田:のっけからなかなかパンチ力のある質問(笑)。

糀屋:でもこの現象って、大島でも本当に実感しているんですよ。

前田:僕がここで『ヘルジアン・ウッド』をやろうって考えるきっかけになったのは34歳のとき。製薬会社でいわゆる不祥事があってですね……。ネットにも出てますけど、データの改ざん事件があったんですね。それで金融機関も一斉に引いちゃって会社がぶっ潰れそうになった状態で僕が社長になったんです。

糀屋:いきなりハードモードですね。

前田:それで社長を引き継いで1ヶ月後に行政処分で11日間の営業停止。3億円銀行から貸し剥がされて、メインバンクの応接室で担当者にタバコの煙吹き付けられて……。これ「朝日新聞デジタル」に記事が出てますんで、それはまた読んでもらえたら、なかなか良い小説みたいになってます(笑)。

それでも僕は精神的にも体力的にもタフだったのでなんとかやっていたんですが、5割、6割って社員が辞めていって、1年半ぐらい経ったところで結局、体を壊して倒れちゃって。突然後頭部を鈍器で殴られたような激痛が走って、1週間くらい全く起きられない感じになってしまいました。でも病院に行っても全然異常なしで、薬を出されても全然治らなかった。そこで出会ったのがアロマオイルだったんです。アロマオイルのディフューザーが炊かれた空間に行ったとき、パーっと体が軽くなって頭痛が消えたんですよね。それまでアロマオイルだ、ハーブだって全く興味なかったんですけど。

糀屋:全然興味がなかった? 突然?

前田:全くなかったですね。それで、店員さんに「何か入ってんですか?」って聞いたんですよ。製薬会社の人間として……。「何かやばいの入ってるんですか?」って(笑)。

一同:(笑)。

前田:そこで「これはアロマオイルというもので、ハーブティーっていうのはこういう物で……」って聞いて、えー! って思って。それで治ったかどうかわからないけど、体も軽くなったし頭痛も消えたので、実際アロマオイルに興味を持ったんです。そこからバリバリ働き出して、会社も一気に良くなっていって、僕自身も前田製薬もそれで復活していった。そのきっかけを与えてくれたのがアロマオイルでした。

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それでアロマオイルの抽出を自分でやりたいって思いました。富山のボタニカルで植物を生産者からいただいて、様々なものを抽出して「富山の香り」を作って人々を助けたいな、と思ってアロマオイルの抽出を始めたんです。いずれはハーブ園を持ってアロマオイルの工房を作りたいっていうことを考えるようになって……。

隈研吾との出会いで見えた村の形

糀屋:当初はレストランだったり、宿泊施設って発想はなかったんですね。

前田:全くなかった。最初の頃に、アロマオイルの抽出しているところをいろんな人に見に来てもらいたいな、と思って、アロマの抽出工房の建築デザインをかなり進めていました。でも、こういうところに来てもらってアロマの抽出だけ見て帰ってもらうのは忍びないなと思ってはいたんです。

それで、スパトリートメントがあるといいな。そこでハーブティーの一つでも出したらいいな。さらにレストランを作れば、ゆっくり食事してトリートメントしてって過ごしてもらえるんじゃないかな? って。それで一泊ぐらいしてってもらうと。そんなことを考えているときに、ご縁で隈研吾さんとお会いして、お話しする機会があったんですよ。そこでいくつかプランが出てきて……。

糀屋:ほうほう……。

前田:隈さんに出会う前のお話を少し。日本で一番魚の種類が多いと言われている富山湾では、400数十種の魚が獲れるわけです。それからその源泉となる水は立山連峰の雪解け水がドーンと滝のように流れている。深海1000mから立山連峰3000mの4000mの高低差が約60キロの範囲に収まっている地形って、日本では他にないんですよね。そういった場所から育まれる「食」とかいろんなフードをプレゼンテーションできる場所がいいなって。

それで「立山連峰が全部パノラマで見える」、「眼下に海が見える」、「水田が広がっている」、この3条件を全て満たす場所を富山県中2年間探し回っていたんです。それで立山町のこの場所を見つけました。

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富山に「散居村(さんきょそん)」という集落の形態があるんですね、大きな田んぼにお屋敷が点在してるようなイメージなんですが、隈さんからそれを模してやっていこうよって。「それ一緒にやろう!」って。増築とかっていう概念じゃなくて展開って話になるので、それは非常に面白いなと思ったんです。

糀屋:ハーブへの愛情が、地域愛と結びついたということなんですね。

前田:そう。この地域しかない、と思ったんです。この場所は以前立山町が宅地として農家さんから買い上げて、移住推進地域として住宅街を作ろうとしたところなんです。だけど、10年間、人っ子一人移住してこなかった。いわゆる町作りに失敗したと言われている場所なんです。それを聞いて僕が「村を作ろう」というテーマに情緒的にもマッチしていたんですね。

富山を象徴する立山。富山湾。水田というのが三位一体としてここにありました。あとはもう決めたら徹底的にやるっていうのは僕の昔からのスタイルなので、あとはもう突き進むだけでしたね。それで隈さんに「アロマ工房とレストランと宿泊施設とボディートリートメントの施設を作りたい」といういうことを伝えたら、パースデザインが出来上がってきたんです。それを見て一番びっくりしたのが「イベント広場」なんですよ(笑)。

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糀屋:え?そうですか。

前田:イベント広場は僕お願いしてないんですよ(笑)。「なんすかこれ?」って(笑)。実際、このスペースを作るのに1.5億円かかってるんですけど、でもすごくシンボリックになったし、ここでいろんなイベントもできるってことで結果よかったんですけどね。隈さんと壁打ちしながらいろんなことやる中で、ハーブとかアロマオイルの香りというものをどうやって衣食住の中に展開できるか? そこから広がっていったって感じです。

(取材・藤井みさ 構成・斎藤貴義)

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