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エネルギーを考えることは「人の命」を守ることにもつながる エネルギーまちづくり社×糀屋総一朗対談3

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と、それぞれの地域で新たなことに取り組む方の対談。今回は、エネルギーから暮らしをデザインする株式会社エネルギーまちづくり社(以下、エネまち)の代表取締役・竹内昌義さんと、役員の内山章さんをお迎えし、エネルギーの観点からのまちづくり、地域創生について語りました。対談の最終回は、エネルギーから考える「居住福祉」についてうかがいました。

古民家の改修で考えるのは「冬の部屋」

糀屋:ちょっと個人的な質問なんですけど、今度、投資をするかもしれない古民家があるんですけど、寒いんです。ただ、意匠の問題もあるから、その辺をどう工夫してやれるもんかな?っていうのが僕の中でまだモヤモヤしてて。

内山:その相談、本当に昔からすごくあるんです。みんな古民家が好きで価値を感じる人たちが多くて。でも古民家の風情を残しながら断熱改修していったら、ものすごくお金がかかるんですよ。

糀屋:そうですよね。

内山:そこで、僕らはよく「全部やらなくていいです」って言うんです。「冬の部屋作りましょうよ」って。必ず自分たちがいる場所だけちゃんと断熱改修してあげる。

竹内:まずは寝るとこですね。

内山:あとは春夏秋の部屋でいいじゃないかと。古民家らしくて風が抜けて上が抜けて気持ちいい空間をちゃんとキープして、冬の寒い時に「ここにいれば暖かく過ごせるって部屋」を1個作ればいいじゃないか。って。

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糀屋:あ、なるほど。

内山:実際、そうやってもらってますし、気持ちよく住めるんじゃないかなと思いますけどね。

屋:全部やらなきゃいけないってものではなくて、ハイブリッドで、一部だけ断熱にして。あとは古民家の良さを生かして

内山:逆に夏なんかクーラー使わなくても涼しく住めるわけですよ。土間があって、上が吹き抜けてれば、空気の容量が大きいので。春夏なんかはそのまま過ごせばいいだけだし。だから冬だけ。あと、できれば水回り。お風呂、トイレが寒いので。そこは頑張ろうぜっていう話はよくしてます。

糀屋:そうか! いいヒントいただきました。

社会的弱者を守る「居住福祉」の考え方

内山:やっぱり高齢者の場合は、ヒートショックが怖いので。ヒートショックで亡くなる事例っていうのが、基本的には年間、交通事故で死ぬよりも年間多いんですよ。交通事故死って、毎年だいたい3200人ぐらいだと思うんですけども、ヒートショックで病院に運ばれる人が年間1万9000人ぐらいいて、そのうち6〜7000人死んでるのかな。だから外を歩いているより家の中にいる方が危ないのが日本の家なんです。

糀屋:確かに、古民家とかも設備は変えた方が全然いいですからね。

内山:ここ一、二年ぐらい、僕は『居住福祉』っていうのに注目してるんですよ。災害が起きたときに一番最初に死ぬのが社会的弱者という現実があるんです。老人と身体障がい者と在日外国人と非部落出身の人たち。要するに住居をちゃんと与えられない人、住居の選択肢がすごく狭められている人たちがいる。その人たちを何とかボトムアップするために、その居住福祉っていう考え方があるんです。「居住は人権だ」ということなんです。

それで、僕は去年、ものすごく、エネルギー的な意味でも高性能な木賃アパートを作ったんです。今は新築なので若い人たちが住んでいるんですけれど、それが20年経ったとき、僕らが老人になったときに入るようなアパートになっているといいんじゃないかなと。高齢者の方とか、あるいは低所得者の方たちに借りてもらって、そこがめちゃめちゃ暖かかったら、幸せになれると思うんですよ。エンパワーメントができる。

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一時的に社会的につらい立場にあっても、温かい住居があって安心して静かに眠れる場所があって、そうすると、次のチャンスを自分たちで作り出すことができる。賃貸住宅が豊かになると、多分日本のセーフティネットがぐっと上がってくるんじゃないかなと。

糀屋:福祉の話とエネルギーの話、一瞬結びつかないイメージがあるけど全然そんなことない。大袈裟じゃなく、命を守る役割があるんですね。断熱するっていうことの意味。居住福祉という意味がわかってきました。

ーーエコとかエネルギーとかだと、なかなか儲からないみたいなイメージもあったりするんですけれども、実際のところ今、会社としてはいかがですか。

内山:儲かってるとは言わないけど、儲かってなくはないって感じですね(笑)。一生懸命ビジネス頑張ってますけど、でもまだまだかなっていう感じはありますね。ただ今後、ビジネスになるなというふうに思ってて、いろんなとこで啓発活動はしてます。糀屋さんが言ってくれたように、エネルギーと建物の実際のところをトータルでやってるのって多分僕らだけだと思って。そこはアドバンテージはあるのかなと思ってるんですけど。

糀屋:いつもエネルギーの話になると、例えば太陽光で電気を作るとか、もちろんバイオマスで電気を作るとかって話になるんですけど、エネルギーをどうやって流出させないかっていう話も大事ですよね。その時に「断熱」が効果的だよっていう話って、意外と盲点で、あんまり触れられてないと思いますね。部屋が暖かくなるからいいよね、で話が終わっちゃうような感じ。そことところを「それだけじゃない」っていうのを、打ち出していけるといいですよね。

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エネルギーも「逃さない」、魚も「獲らない」

糀屋:これは今までの話からずれるかもしれないんですけど、僕は島に行って地域の複雑な問題だと感じていることがあるんです。人口がどんどん減ってるし、基幹産業である漁業の漁獲量も減っていっている。大変な事態だし、島の人たちもそう思っていると考えていたんですよ。

だけど、実は漁業みたいにパイが決まっている商売をしていると、人口が減ることによって1人当たりの所得が上がるんですね。長い目で見たら魚の量が減ってるんだけど、直近二、三年は漁獲高がちょっと増えたりしているんで、危機感が薄いんです。しかも、その人口の半分以上が65歳以上の年金生活者なんで、なんていうか……島の人たちは「今のままでいいじゃん」っていう空気の中に浸っているんですよね。

僕が言うと怒られちゃうかもしれないんですが、今のぬるま湯的な構造の中でやっているところに、僕が「見える化」をした上で説明をしたときに、どういう反応が返ってくるのかなってちょっと怖いところあるんですけど(笑)。

竹内:よくわかりますね。っていうか多分おじいちゃんとかは「もう俺は年金もらって暮らしていけばいいんだからさ」って、言うんでしょうね。

糀屋:言いますね。「もう面倒くさいことはせんでええし」って。

竹内:ああ、言うでしょ。そう言われちゃうとね、そのままじゃ、地域がなくなりますよっていう話で終わっちゃうので……。でも考えてくれんとなあ……。

糀屋:ただそうは言ってもやっぱりそれは誰かやっていかなきゃいけない。僕がやらなきゃいけないのかな?ってちょっと思っているんですけど、でもやっぱ島の人たちと共同でやっていかないと物事は進まないってこともこの2年間でわかったので、そういうことを今考えながら苦戦しているんです。

竹内:お子さんが戻ってくるかもしれないとかは考えないんですかね。

糀屋:大島って中学校まではあるんですけど、高校はないので出てっちゃうんですよね。働く場所って漁業か、観光の一部しかないから、選択肢がなさすぎ。それで、みんな北九州とか福岡に行っちゃって戻ってこないわけですよ。漁業やりたい人は戻ってきますけど、人口は増えないと思うんですよね。それでもそこまでのイメージは多分働かないんですよね。

竹内:でも、島から出ていった人の中に、島をなんとかしたいなと思う人がいないはずはないんですよ。

糀屋:そうそう! そうなんですよ。

竹内:そこにアプローチできるといいですよね。おじいちゃんたちは「もういいや!「酒飲んで寝るだけだ」って言ってるかもしれないかもしれないけど、出てった人たちの中に「何かあれば俺だって戻るよ」っていう人がいるのなら、その人と「何かを一緒に考えましょう」は多分できるんですよね。重くなく、ね。重いとつらいけど。

糀屋:うん。うん。

竹内:やっぱり漁業についてもサスティナビリティから考えれば「いかに獲らないか」を考えるべきですよね。「漁獲量を抑えることによって、魚を大きくして、単価を上げる」っていう考え方。ノルウェーとかでは、そういうことを一生懸命やってて、鮭とかを獲ってますね。漁師が自分たちで制限をかけているから、どんどん金持ちになっていくって好循環が生まれていってる。日本はそれができてないんだけどね。

糀屋:目の前に魚がいたら獲っちゃう(笑)。

竹内:数獲っちゃう気持ちもわかりますけどね(笑)。確かに、そこにお魚さんがいれば獲りますよね。あとは漁業なんだけど、そこを部分的に観光に振っていける可能性とか、いろいろあるのかなって思いますけどね。

あとね、エネルギー的にはやっぱり船もガソリンで走るだけではなくて、多分漁師は帆船には行かないかもしれないだろうけど……ソーラーにしたりとか……、みたいな、そういうところもあるかなと思います。僕は、大学時代にヨット部だったので、海でのいろいろなアクティビティには興味があるんですけど、九州のこの辺とか瀬戸内とかにはいろいろな意味で可能性は感じるんですけどね。

糀屋:僕も可能性を感じて投資をしているんですけど、大島の人たちからは「大丈夫か?」っていう目で見られてるんです(笑)。

竹内:そうですよね(笑)。でも少しずつやっていくしかないのかなとは思います。

(構成・斎藤貴義)

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