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「暮らし」からはじめるエネルギー革命とまちづくり エネルギーまちづくり社×糀屋総一朗対談1

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と、それぞれの地域で新たなことに取り組む方の対談。今回は、エネルギーから暮らしをデザインする株式会社エネルギーまちづくり社(以下、エネまち)の代表取締役・竹内昌義さんと、役員の内山章さんをお迎えし、エネルギーの観点からのまちづくり、地域創生について語りました。対談の初回は、エネルギーの観点から考える地方の問題、そして「暮らし」から変えていけるエネルギー問題についてです。

エネルギーから考えるまちづくり

糀屋:僕は今、福岡県の宗像市にある大島という離島で宿をやったり、いろんな投資をしてるんですよ。事業を始めるにあたって、産業連関分析とか、地域でのお金の流れがどうなってるのか、実際人口が減っていって1人当たりの所得ってどういうふうになっていくのかっていうのをシミュレーションしてみたんですよね。

そうするとやっぱり目に付くのはエネルギーコスト。漁業が基幹産業なのでガソリン代がめちゃめちゃ高いんですよ。だから、売り上げの15%ぐらいがエネルギーコストとして外に出ちゃってる。またガソリンも値上がってるし、そもそも日本のエネルギー自給率も10%ぐらいしかないし、死活問題ですよね。地域でそういうエネルギーの話を色々考えることがあるんですが……でも、そういうエネルギーとまちづくりを結びつけて何かをやっている会社って、そうないじゃないですか。

内山:そう。うちは、他にないので作ったっていうところがあるんですけどね。

糀屋:それで、エネまちさんのことを思い出したんですよ。エネまちさんの仕事をみんなに知ってもらいたいと思っているんですけど、そもそも会社を作ったのはいつごろだったんでしょうか?

内山:2017年かな。前身になったのは、一般社団法人HEAD研究会っていう建築関係の研究団体がありまして。

糀屋:ああ、あれが前身なんだ!

内山:そうそう。元々は建築関係者、不動産会社、施工会社……建築産業にまつわる人たちが、「日本の建築ってもっと可能性があるはずだよね」、設計にしても、施工にしても、プロダクトにしても世界に誇れるものなんだという思いで立ち上げた研究会でした。その中で「リノベーションTF(タスクフォース)」って言う、リノベーションに関するいろんな活動を推進してくっていうグループがあったんです。

それを5〜6年やっていたんですが、普通のリノベーションじゃ飽きたらなくなってきました。グループの中で、もともとエネルギーの話を竹内(昌義)さんがずっとやってたんですね。「原発と建築家」なんて、とてもエポックメイキングな本を出したりしている中で、一緒にやらない? って誘われて「エネルギーTF」を立ち上げたんです。

環境とエネルギーのことをやっていくと標榜して始まったんですけども、その中の仲間5人で、立ち上げたのが今の「エネルギーまちづくり社」です。竹内さんと私。あと佐々木龍郎さん、丸橋浩さん、大川三枝子さんという5人の建築家が集まり、2017年に法人化して始まりました。

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糀屋:そうだったんですね。

内山:本当に日本って毎年、20何兆円かな? 外部からエネルギーを買っているので……一昨年くらいは確か27兆円とかって言ってたかな。毎年毎年アラブの王様にお金を払っているわけですよ。日本の経済活動が良くなれば良くなるほどエネルギーを使って、海外にお金を払っている状況なので、それはやめたいね、というところがベースにある。為替に左右されない、海外事情に左右されないエネルギーっていうことを意識しないとやっていけないと考えています。

糀屋:僕の試算だと大島だと、例えばエネルギーコストが10%上がるだけで、漁師さんの利益率1.6%ぐらい下がっちゃう。1.6%って小さく見えるけど利益率ですからね。

内山:でかいね。

糀屋:でかいですよ。小さい島にとってはインパクトが大きいので、これを何とかしなきゃいけないなってのはあるけど、「じゃあ明日からエネルギーコスト下げます」っていうのは、なかなかそう簡単にいかない。船でガソリン使ってるからそれを代替、リプレイスするってのはとんでもなく難しいし、でもなんらかの手段でオフセットするべきだなと思ってて。でも、放置してるのもよくないので、今日は僕なりのヒントをもらいに来たというところもちょっとあるんですけど。

竹内:島っていうのは、独立した経済圏ですよね。エネルギーの問題も、閉じた経済圏の中で何ができるかと考えなくちゃいけないというところもありますよね。

エネルギーを「見える化」するところから始めよう

糀屋:大島って、みんなで漁に行ったりするから身体的な共同性も強いし、宗像大社があって、世界遺産になっている沖ノ島があって、宗教的な共同性も非常に強い場所なんですよ。だから非常にアイデンティティは強いんです。

行政も結構協力的なので、何かプロジェクトとしてやろうというときに、誰かが「やろう」って言えば、出来ちゃう可能性はあります。太陽光とか風力とかはまだ不安定なところがあるんですけど、水力とかバイオマスとか、そういう安定したエネルギーをうまく導入できたらいいのかなとか思ってるんですけど、どこから手をつけていいかってのもちょっと今悩み中で。例えば竹内さんだったら、何を取っ掛かりにしますか?

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竹内まずは「見える化」ですね。エネルギーの何を、誰がどのくらい使っているのか。それが暮らしとしてどうなのかっていうところを把握する。例えばモビリティで言えば「島の中の移動はどうしてるんだ?」とか「島に車は何台必要なんだ?」とか「シェアできるのか?」とか。島って閉鎖系なので、何を持ち込むとどのくらい、ってすごく明確に数字が出るので、そこでの工夫というものが「見える化」しやすいんですよ。

「モデル的なこと」であれば、いろいろな企業と組むこともできるので、「電気自動車ちょうだい」みたいな話もありうるとは思います。モデルになっていくっていうことでですね。そういったこともできたりすると、島の方にも喜んでもらえるかな?とかね。

糀屋:なるほど!

竹内:瀬戸内の……豊島(てしま)でガソリンスタンドが島からなくなるかもしれない、という事件があったんですよ。ガソリンスタンドを作り替えるのにそれなりに投資が必要なので、どうするんだっていう話になったときに、島の人たちはエネルギーのことを突きつけられるわけですよね。だからといって、再生可能エネルギーを使うのかっていうと、そうもいかなくて。

その時、いきなり「こうしようよ」ではなくて、「今こうだから、将来こうした方がいいよね」っていう話をあらかじめ地元の人とすることから始めなくちゃいけないんですよね。外の人だけでやると「あいつらまた変なことやってて、なんかよくわかんないよ」っていう話になるので。

糀屋:そうですね、おっしゃる通りです。

竹内:だから「島の将来考えませんか?」っていうところから始まって、現状把握をして、じゃあどうしたらいいかっていう。それが島の人のためでもあるし、自分たちの活動の方向性を示すものにもなるっていう。それができるといいんじゃないかな。

大きな国の流れの話をすると、環境省が結構頑張ってくれていて、脱炭素地域っていうのを全国に100箇所作りましょうってことで、地域を募集しています。100箇所の脱炭素エリアを先行させて、それをモデルにしていろいろやっていこうと。例えば屋久島だと、水力発電があるので、ほぼほぼエネルギー自立ができそうなぐらいになってるんです。

糀屋:ほぉ〜。

竹内:それはたまたま水力発電があるからなんですけど。やっぱり島のモビリティをちょっと変えて、家のエネルギーのあり方も変えていくみたいな場所はまだそんなにないはずなので、そういうところを狙っていくっていうのもあるかなって思います。

家からエネルギーを変える、エコハウスの選択

糀屋:島全体のエネルギーについては確かにそういうことですよね。それを「エネまち社」さんでは、家とか、建築という形で取り組んでいらっしゃる。

内山:そうですね。僕らがやっていることのひとつが、エコハウスの普及活動です。一昨年、山形で20件のエコハウスの開発を手伝いました。二階建ての、35坪から40坪ぐらいの家なんですけど、断熱がしっかりしてあるので、10畳から14畳ぐらい用のエアコン1台で、隅から隅までちゃんと温度管理ができるような建物なんですよ。

糀屋:それはすごいですね。

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竹内:どこにでも家はあって、どこにでも暮らしはある。島のエネルギー問題に関わっていくとしても同じで、産業でコミットするのはすごい難しいんですけど、まず暮らしのところでコミットする。家や暮らしを少しずつ良くしていく手段としての「断熱」をやっていくと、そこにコミットできるなって思いますね。「ここをちょっと変えたら、これだけ良くなったね」っていう結果が見えてくるリアリティがあるので、そこはすごく大事かなって思います。

内山:でもそういう話をすると誰もが「それいいね」って言うんだけど、みんなの周りにはエコハウスって建ってないんですよ。多分知り合いの中でエコハウスに住んでる人っていないと思うんです。

糀屋:いないですね。

内山:エネルギーを無駄に使わず、光熱費も安い。こんなにいいことなのに普及していない。社会的なプレゼンテーションが今までされてなかったんです。1977年に、今をときめく大和ハウスが一番最初にDH1っていうのを作っているんです。当時は「省エネ住宅」っていうふうに言ってたかな。40年以上前ですよ。それなのに誰もエコハウスに住んでないってどういうことなのか。

糀屋:確かに疑問ですね。

内山:僕が最初にエコハウスの存在を知った時、本当になんで普及してないんだろうって思いました。ただ、ひとつはね、技術者がやってるのでデザインが良くないんです。「いかにも」みたいな感じでちょっとかっこ悪いなみたいなってことはあって、デザインを変えたいなって常々思ったんですけども。でも今ではもう、デザインもすごく良くなってますし。

もう一つは、先達たちに技術者が多かったからだと思いますが「月に何100円光熱費が安くなります」とか「エネルギーのなんとかの性能が0.4が0.3になります」みたいな話とかデータの話に終始してたんですよ。結局エコハウスで、どんなライフスタイルが待ってるかっていうことを誰もちゃんとプレゼンテーションしてこなかった。

糀屋:ああ、それだと今ひとつわからないんですね。

「体感」はなにものにも勝る

内山やっぱり一番効くのは「体感」なんですよ。僕もエコハウスのオープンハウスに行ったのが多分7年ぐらい前。ドイツのパッシブハウスっていう一番高性能なエコハウスで、単純に言うと屋根に40センチの断熱があって、壁に30センチの断熱があって、窓はトリプルガラス。そこに入った瞬間びっくりしました。「空気が違う」んです。僕も建築家としていろんなところに行ってますけど、素晴らしかったわけです。

人間ってよくできてるもので、1回気持ちよくなってしまうと、それより不快なものは絶対受け入れたくないんですよね。だから体感はすごく大事で、自分にとってどれだけの良さがあるか、一瞬でわかってもらえるんですけどね。そういうところが大きいかなと。

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竹内:それを一番最初にすごい形で実践したのが「ReBuilding Center JAPAN(通称リビセン)」の東野唯史さんで、「エコハウスってどんなものなの?」って言って、山形市や紫波町のエコハウスを見て、紫波町では実際に泊まって。体にまったくくストレスがない、春の気候みたいな状態で「ああ、こういうことなんだ!」ってわかったら、すぐに自分でやって、それをちゃんと仕事にしているっていう。

何をしてるかというと、「僕はリノベでやってきたから新築やったら意味がない!」ってことで、諏訪の古い家を工務店さんに断熱施工をしてもらって、自分でリノベをして、かっこいい家にして、そこの一部を宿泊できるようにしておいて、諏訪に引っ越してくる人を1回宿泊させて、体験させてあげて、それをもとにして、エコリノベをしていく。それが事業スキームになってるんですよ。

糀屋:へぇ〜!

竹内:「早っ!!」っていう感じですよ。体感して、実施まで行けるという点で東野君はだいぶ特殊な方だと思いますけど、そういう、体感できる場所がもっと必要だよねとも思います。

内山:僕らも、これをちゃんと普及させるためにはどうしたらいいんだろうねって言って、2016年から「断熱ワークショップ」を全国で始めています。空き家に入って行って、畳を剥がして、防風シートを引いたり、障子を断熱化させたり、天井に断熱材を入れたり……。

普段、僕らがやってるエコハウスから比べたら本当に微々たる改修なんですけど、それでも、真冬の寒い日に断熱ワークショップやってると、畳の上の指先が冷たさでジンジンしていたのが、改修後はなくなってる。そうすると「暖かいって気持ちいいよね」「すごいよね」ってことになる。そういうことを地道にやりながら、少しでもみんなに「暖かい」ってどういうことか、と普及させていきたいんです。

糀屋:体感するのは確かに大きい効果がありそうですね。体感していないと「価格がちょっと高いからいいか」とか思っちゃうんですね。

内山:国交省も2018年から2021年の4年間にわたってエコハウスが健康に与える状況の調査とかやってるんですよ。そこでも血圧が下がります。アレルギーがなくなります。当然風邪も治ります。お年寄りがトイレに行く回数が減ります。夜よく眠れるようになります……とか。そういうエビデンスがワーッと出てきてこの4年間ずっと蓄積されてるんです。

もちろんその前段もあるんですよ。慶応大学の伊香賀俊治さんが健康とエコハウスの関係を調べていて……要するに「性能の数字」だけじゃないメリットもちゃんとわかるようになってきた。だからそこをちゃんと僕らの方でもアピールしてかなきゃいけないねってことで、いろんなことやってるんですけどね。

糀屋体感してもらうことと、メリットのエビデンスを出すこと、ですね。

(構成・斎藤貴義)


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