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なぜ九州でサウナを盛り上げるのか 九州とサウナ×糀屋総一朗対談1

ローカルツーリズム株式会社代表・糀屋総一朗と、それぞれの地域で新たなことに取り組む方の対談。今回は、九州のサウナを紹介するWebサイト『九州とサウナ』マガジン編集長のタカハシさん、プロデューサーのカナザワコウキさんのお二人にお話をお伺いしました。対談の初回は、なぜ『九州とサウナ』を始めたのか、その目的と運営方針についてです。

九州をサウナの聖地に

糀屋:まず、『九州とサウナ』を始めたきっかけをお聞きしたいのですが。

タカハシ:まず、僕がサウナにはまったところから時系列でお話していきましょうか。2018年頃、僕は熊本の出版社で編集の仕事をしていました。当時、サウナが徐々に流行の兆しを見せ始めていて、自分の周りの人も、みんな「サウナサウナ」言ってたんです。そこで、一回サウナ施設を取材させてもらおうと思い、西の聖地と呼ばれる『湯らっくす』に行ってみました。

それで、『湯らっくす』の西生社長とサウンドクリエイターの安宅(晃)さん、『あんぐら不動産』を運営する上田さんの3人にインタビューさせていただきました。取材後に、「タカハシくん、サウナに入ったことないなら、入り方教えてあげるよ」と西生社長に言われ、入ってみたのが最初です。そこで、一発でぶっ飛んだ……、もうトリップのような体験をして。今まで半信半疑だったサウナのコンテンツが、体験に変わった瞬間でした。

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それ以降、サウナにめっぽうはまった私は、サウナの連載記事もスタート。そのご縁で、フィンランドの政府観光局公認である、サウナアンバサダーの任命(国内で100名)を受けることに。そうして、他のメディアでもサウナ関連の記事を書きつつ、さらにサウナ熱が深まっていきました。

しかしです。担当していた雑誌が休刊になってしまって。元々福岡の会社から熊本に出ていたため、再び福岡に出戻ってくることになりました。さぁ、これからどうしようか。そう思っていたときに出会ったのがカナザワくんです。たまたま行きつけのサウナに入っていたら、共通の知り合いとカナザワくんがサウナに来ていて。カナザワくんとは、その時初めて会ったにも関わらず、いきなりサウナの熱い話が始まりました。

そして話し込むうちに、お互いのやりたいことが結構リンクしていたと。それなら何かやろう!って。

糀屋裸で初対面、そして意気投合したと。

タカハシ:そうです(笑)。私は以前から、九州をサウナの聖地にしたいと考えていました。たとえば、サウナの聖地ってどこですか? と周りに投げかけます。すると、『静岡のしきじ』とか『熊本の湯らっくす』など、施設の名前を出されることが多いんです。みんな、サウナを点で捉えている。九州は自然があって、水がめちゃくちゃ綺麗な場所です。そして何より、サウナに関わる人々の情熱が各地に点在している。ですから、点ではなく面としての聖地になれたら素敵だよねって思いました。

カナザワ:僕は元々銭湯が好きで、サウナは入っても水風呂には入らない。サウナに関してはその程度でした。それに、サウナから出てきたおじさんたちが、お風呂の外で椅子に座って寝たり、昇天したような顔つきで自分の世界に入っている様子を見て、「サウナってそんなにいいの?」って不思議でたまらなかったんです。

しかし、たまたま友達に誘われて、初めてサウナと水風呂に入ることに。すると、なんとも言い難い恍惚感と、地球全体が回っていくような、今までにない体験をしたんです。あぁこれかと。お風呂の外の椅子に座っている人たちの気持ちも初めて分かりました。今から6年くらい前です。ただ、その後も頻繁にサウナに通うでもなく、気が向いたときに行くくらいでした。

では、僕が大きなターニングポイントを迎えたのは何かというと、テントサウナです。僕は元々アウトドアが好きで、キャンプとかバーベキューもよくやっていました。そこで出会ったのがテントサウナ。これ、モバイルサウナとも言われていますが、車で持ち運べるんですよ。ボストンバッグサイズのテントと、薪、そしてサウナストーンで合計7,80キロくらい。普通自動車に積めるサイズです。僕はアウトドアも好きだし、サウナも好き。この2つが同時に楽しめるなんて凄いな! ってブレイクスルーが起きて…。

気づいたら、テントサウナを即買いしてました(笑)。確か15、6万だったかな。周りの友達からは驚かれたし、何がしたいんだ?と反響が凄かった。まぁ、散々言われながら、買った矢先、定期的にイベントをやったり、周りの人に体験してもらったり。そしてさらにサウナにはまっていくと。

感じていたブームの「兆し」

糀屋:モバイルサウナは凄いですね。カナザワさんは旅行会社で勤務されていますが、そこでもサウナブームの兆しを感じていたとか。

カナザワ:そうなんです。サウナが点ではなくて面、九州というエリアでカルチャーとして広がっていけば面白いのではと感じていました。それに、僕自身が色々なサウナイベントをやっていた関係で、不動産オーナーの方々からも「何か使ってみない?」と、声が掛かっていた時期でした。

そこで、タカハシさんとサウナで出会います。初対面ながらサウナトークが熱くなり、今まで「面でサウナ」とか、そういった話を同じ目線で話せる人がいなかったのですごく感動。さらに、僕の目線より遥か上回る目線と構想を抱いている人がいることに衝撃でした。そこで、ご一緒させてくださいと。そこから『九州とサウナ』が始まっていきます。

タカハシ:あと、メディアの立ち位置として、我々はプレーヤーではなくて、あくまでユーザーだと。ユーザーとしてカルチャーを伝えていく。コロナ禍だし、まずはメディアからローンチしようかという流れになって、2020年からメディアをスタートさせました。

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カナザワ:あと、メディアの方向性を考えたときに、僕たちは九州のサウナ施設を支援していきたい。自分たちがどうこうじゃなくて、サウナという間口を作りたい。コロナ禍で、ユーザーとして何かしら応援する気持ちを一緒に盛り上げていくようなメディアを作ろうとなりました。今では同じ想いをもってくれる多くのメンバーが集まり、一緒に活動しています。

PV数より偏愛を!

糀屋:『九州とサウナ』は、どれくらいのPV数なんでしょうか?

タカハシ:あんまりそれ見てなくて(笑)。PV数を追い求めるようなことを、あんまりしたくないというか。僕たちのポジションとしては、プレーヤーじゃなくてユーザー。サウナ業界を生業としてご飯を食べているものじゃないと。ユーザーの立場でプレーヤーを応援するためには、PV数よりもサウナのカルチャーとしての価値を作っていくところに重きを置いていきたいなと思ったんです。まあ、ちょっと怠けの気持ちもありますけど、あんまりそこをメインにしたくないないなって。一応エンジニアの方で見てもらってはいますけど、僕もほとんど把握してないですね。

糀屋:ローカルツーリズムもPVを追わない方針なので、一緒ですね。

カナザワ:当初からPVを伸ばして広告をつけるようなことは辞めておこうと決めていたんです。ユーザーの立場を明確にして、僕たちはマネタイズを目的にしているわけじゃないんだと。

糀屋:ということは、マガジンは利益を追わない。自分たちでお金も出して、取材も身銭を切って行っていると?

タカハシ:そうです。さっき話した聖地化の話にも繋がっていきます。何をもってサウナが盛り上がっているのか。そう考えると、実際サウナ施設はすごく頑張ってくださっています。でも、それだけでは「このエリアは、サウナがすごく盛り上がってるよね!」とはならない。少しピースが足りない気がしていて。そのピースを埋めるためには、ユーザーの盛り上がりもすごく大切な気がしたんです。そのためにどんなアクションをしていくか、そんなユーザー目線のメディアにしようって。

カナザワ:あとは、メディアにプロのライターを付けるかどうか。そこは、編集長のタカハシも言っていたけど、読み手に刺さるのは愛と熱量、情熱だと。どれだけ有名なライターを置くかより、サウナに対して情熱を持っている。情熱や偏愛こそが循環していくんじゃないかって。実際に取材・執筆をしているメンバーはプロのライターではありませんが、サウナへの偏愛にあふれており、記事はとても見ごたえがあります。

糀屋:そういう話を初めて聞いたので、僕はとても感動してます。ビジネスって聞くと、どこかで割り切ってやらないといけない部分もあったりする。でも、何か事業をやるときはそれだけだとね。愛とか情熱、そういう信念の元で動いていると聞いて、とても感動しています。

カナザワ:あと、もし金銭とかPVを追っていたら、たぶん1年は続いていなかったと思う。自分たちの偏愛を追いかけてやっていく絶妙な温度感がいいのかも。

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タカハシ:ビジネスとして活動するのかどうかって話ですね。私もその是非を考えました。これをする意味って何だろう。慈善活動をしたいわけでもないし。でも、熱量から始まることってどれだけの波形を生むものか。個人的にもちょっと実験をしてみたい気持ちがあったんです。
スモールコミュニティのような存在が、どれだけ人の気持ちを動かしていくのか。これは、今後も色々なテーマになりえるのかなって思っています。また、経済活動から入っていくのか、熱量から入っていくのか。レピュテーション(評判)の獲得の仕方ってまた変わってくるのかなと。

我々って単純にサウナが好きなチームなんですよ。そんなチームがさらにサウナを突き詰めていくと、どんな活動が起きるのか。または、経済にバインド(結びつける)された人間の活動ってどこに繋がるんだろう。ポストキャピタリズムとか、話が大きくなっちゃうけど、そこを超えた先って何かを生み出す力や燃料みたいなところから、実は始まってるんじゃないかなって。そこが最終的にビジネスになるんだったら、それはそれで面白いとは思いますが、今はまだ実験しながら進んでいます。

「九州とサウナ」

(構成・松永怜)

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