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しずおかMaaS 将来ビジョン 中長期計画が公開

ポイント①:誰もが移動しやすい新たな移動サービスの提供と、持続可能なまちづくりを目指して、将来ビジョンとロードマップが公開

ポイント②:作成はしずおかMaaS(静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト)

ポイント③:将来のライフスタイルの変化を訴えている所が新しい。2022年からスモールスタート

1.しずおかMaaSって?

しずおかMaaS(静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト)は、2019年5月に発足した地域密着型の官民連携コンソーシアムであり、運行事業者(鉄道・タクシー・バス・船舶等)や地元自治体・福祉・商工会・銀行・観光業、国交省等が一体となって設立した組織です。

国土交通省 「日本版 MaaS 推進・支援事業」、経済産業省 「地域新 MaaS 創出推進事業の先進パイロット地域」の支援を受けています。

代表幹事:静岡鉄道株式会社
幹事団体:静岡市、商業組合静岡県タクシー協会、富士山清水港クルーズ株式会社、静岡市社会福祉協議会、静岡商工会議所、公益財団法人するが企画観光局、株式会社静岡銀行
オブザーバー :国土交通省中部運輸局静岡運輸支局、国土交通省中部地方整備局静岡国道事務所

MaaSって?という方は、以下の記事がお勧めです。
https://jidounten-lab.com/u_maas-basic-matome

2.どんな実績があるの?

2019年には、AI相乗りタクシーサービスの実証実験を行っていました。アプリを開発したのは、未来シェアという会社です。

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 図 AI相乗りタクシーサービスのイメージ 出典:https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/shizuoka/press/20191007.pdf

2019年度の実験時には、179名(延べ315名)が利用、相乗り発生率はおよそ1/4だったようです。

日本ではAI相乗りタクシーサービスは、静岡のほか、宇部等でも行われています。海外では、例えば米国Uberでは、既に相乗りがプラットフォームの中に組み込まれており、当たり前のように相乗りしていくほど普及しています。

参考:

https://s-maas.jp/wp-content/uploads/2020/07/7cd3b4b243ebbd306e58c8bff078d079

https://www.miraishare.co.jp/201911shizuokamaas/

https://www.city.ube.yamaguchi.jp/houdou/compact_kyosei/2019/aitaxi.html

(おまけ)法制度

中部運輸局静岡運輸支局からは、道路運送法第21条の申請を許可するといったプレスが出されております。これは、法律の第二十一条で、「乗合旅客の運送」を行うことができる条件が限定されているためです。

乗合一つとっても、様々な法制度の制約があるのが現状です。

第二十一条 一般貸切旅客自動車運送事業者及び一般乗用旅客自動車運送事業者は、次に掲げる場合に限り、乗合旅客の運送をすることができる。
一 災害の場合その他緊急を要するとき。
二 一般乗合旅客自動車運送事業者によることが困難な場合において、一時的な需要のために国土交通大臣の許可を受けて地域及び期間を限定して行うとき。
(輸送の安全性の向上)

https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/shizuoka/press/20191007.pdf

3.将来ビジョンの中身

以下の5つの方向性ごとに、近未来のライフスタイルコンセプトが提示されています。将来ビジョンにおいて、このように新しいライフスタイルが提示されているものはあまり見たことがありません。しかしながら、車を使って移動することが当たり前になっている現状において、市民の方に利用されるような移動サービスにしていくためには、このようにライフスタイルに共感してもらうことが非常に重要であると思いますので、このような提示は非常に意味があることだと思います。

1.気の向くままに移動しよう
2.心にゆとりを、暮らしにうるおいを
3.安心や快適をあたりまえに
4.近未来にわくわくチャレンジ
5.私にもできることがある

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図 ライフスタイルのイメージ 出典:https://s-maas.jp/wp-content/uploads/2020/07/d38fd0095d3fd6688dbe8a9e02da6767.pdf

また、具体的な取り組みとして、

①連携によるサービス高度化
②分野間の連携
③モビリティの拡充と統合
④データ利活用によるまちづくり
⑤活動機運の醸成

が挙げられています。


最後にロードマップとして、2022年のスモールスタートを目指しここ1-2年で実証実験や各種検討が進められる予定です。情報銀行やサブスクモデル等、気になるワードもでてきています。

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図 しずおかMaaSのロードマップ 出典:https://s-maas.jp/wp-content/uploads/2020/07/d38fd0095d3fd6688dbe8a9e02da6767.pdf

4.静岡でMaaSを考える

このビジョンは、一つの切り口として非常に面白く、また日本全国の一つのモデルケースになりうる可能性を秘めています。一方で、これからの検討になるものだとは思いますが、「静岡」を意識して考えたときに、空間的にどのようなまちを目指し、そのためにこのサービスがどのように下支えしていくのか、そういった空間的・属地的な観点が気になりました。また、ほかにもいくつか気になった点があるので、順を追って考察を加えていきます。

4-1.MaaSのビジネスモデルから考えると、基幹的な公共交通が結局は重要に。

MaaSのコンセプトは明確ですが、ビジネスモデルは世界的に確立していません。しかしながら、利用者は「一定料金で一定区間・一定期間どのモビリティも利用可能」になるサブスクモデルのサービスを想定し、MaaSオペレータは単純に利用者が各モビリティを利用する毎に、モビリティ提供者に利用料金を支払うものとすると、モビリティの提供者も、MaaSオペレーターも、利用者もwin-winの関係になるためには、以下の達成が必要であるように思います。実はこれは最も単純なビジネスモデルですので、今後様々なモデルを深堀をしていきたいと思っています。

①利用者は従来の移動総費用>MaaSサービス利用料。最も簡単な達成は、自家用車を手放すこと。もともと自家用車がない、交通弱者をターゲットにしていることも鑑みると、タクシー利用よりも圧倒的に安いこと。

②MaaSオペレーターはMaaSサービスの収入>モビリティ提供者に払うコスト。簡単な達成方法は、利用者の多くが、実際には安価なモビリティばかりを利用すること。

③モビリティ提供者はMaaSオペレータから支払われる料金>従来のモビリティ利用料金。つまり、単純にMaaS利用者がどんどんモビリティを利用してもらえればよい。

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図 MaaSの便益のイメージ(筆者作成)

②と③は矛盾するモビリティもあります。それがおそらくタクシー等の高単価なモビリティです。そこに恐らく価格設定の均衡点があると思われますし、実はこの不均衡こそが、MaaSが属地的な検討をせざるを得ない一つの理由であるように思います。つまりは、結局ある程度バス等の基幹的な公共交通が利用しやすい環境でなければ、MaaSのビジネスモデルは成り立たないのです。基幹的な公共交通は多くの利用者が乗合的に利用するために、運行コストが安くなり、結果として運賃も安くなるのです。そして、基幹的な公共交通が成り立つためには、一定の人口密度が必要となり、土地利用などの属地的な話と密接に関係してきます。

以下の人口密度と自動車利用率の位置づけを見ると、それなりの相関が見られます。つまりこれまでは、人口密度の低い所は自動車に頼らざるを得なかったわけです。これがMaaSになって自家用車を手放したときに、すべてがタクシー等に転換すると、おそらくMaaSサービスは崩壊するでしょう。だからこそ、人口密度の高い所と低い所はそれぞれ分けて考えて、まちづくりと一体となってMaaSを検討していかなければならないのです。

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図 人口密度と自動車利用率の都市別比較(全国PT調査と国勢調査より筆者作成)

研究課題:

・タクシーとバスの価格とMaaSのサービス価格均衡点

・しずおかの人口密度と公共交通の関係、30分カバー人口地図

⇒MaaSが成り立つ都市構造・人口密度についての考察

参考:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/44.1/0/44.1_117/_article/-char/ja

https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/45.3/0/45.3_661/_pdf


4-2.自家用車を手放すことについて

4-1で説明した通り、MaaSが成り立つためには、自家用車を手放すことが最も簡単な方法です。逆に言うと自家用車を手放しても生活が成り立つようなサービスの提供が必要になります。実は、しずおかPT調査の結果を見ると、静岡都市圏の世帯数と自家用車の保有台数がほぼ同程度です。つまり現状は完全に1家に1台状態なのです。実際には、1台もない家庭と、2台以上ある家庭もあるので、最初のターゲットは「2台以上ある世帯」が1台を手放す ことかもしれません。

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図 静岡都市圏の世帯数と保有台数・運転免許保有者の関係(静岡PT調査、国勢調査より筆者作成)

しかし、自家用車を手放すことが少なくとも短期的には容易でないとすると、他の考え方が必要です。例えば、「本当はこんなことをしたかったけど費用がかかりすぎるから諦めていたこと」が安価にできるようになることです。先ほどの4-1の図でいえば、出発点を「従来の利用料金」でなく、「本当はしたいことをするためにかかる料金」と捉えるのです。おそらく、それは基本タクシーの利用料金が高すぎるからできなかったドアツードアのいつでも、どこでも の移動なのです。

だからこそ、MaaSにはライフスタイルの提示が求められているとも考えられます。おそらくこのしずおかMaaSプロジェクトでは、しずおかMaaSで示された生活をするためにかかる費用などの分析がすすめられているのではないでしょうか。


出典:

pref.shizuoka.jp/kensetsu/ke-510a/s_c_pt4/documents/4_pamphlet.pdf

課題:

・車の購入費・維持費とバスタクシー等の利用料金の関係性

・しずおかMaaSで示された生活をするためにかかる費用

・コロナ禍での変化

参考URL

https://www.mlit.go.jp/common/001287842.pdf

https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2019/pdf/mhir18_maas.pdf




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