note創作大賞2024応募作品 オールカテゴリ部門 書簡型小説「知人Nへの手紙」

N様、いかがお過ごしでしょうか。
Nさんのところへ行こう行こうと思っていたのですが、なかなか行けずにいます。
最近は危ないので1人で外出する事もできず、家で寝るか妊婦検診に連れて行ってもらうかです。
稼ぎが無いせいで自分の貯金も底をつきました。
夫に自分の通帳を渡して管理してもらう事になり、自由な買い物ができなくなりました。
それもこれも私が妊娠したせいです。

子供がかわいくないのではありません。
昨年の夏に初めての妊娠をして、その子が成長していないとわかって流産した時、もちろん悲しみを感じましたから、再び妊娠する事ができて嬉しいと思っています。
子供がかわいくないのではなく、私の人生で成し遂げる事が、せいぜい子供を産んで育てる程度なのかと思い知らされるようで辛いのです。

Nさんもご存じの通り、私は幼少期からずっと、小説家として生きていく事、成功する事を夢見て生きてきました。
私にとって生きる意味とは、小説を書く事であり、最終的には小説家として成功したい、成功できなければ、意味が無いと思って生きてきたんです。
私にとって日本社会は生きづらいものでした。
幼い頃から小説家になる事を夢見てきた私にとって、堅苦しい学校生活は向いていなかったし、ご存じの通り私の家庭環境は私には適していなかったから、教育ママの母によって無理やり勉強させられたり、塾に行かされる日々は地獄でしかなかった。
成長して働き出してからも、小説を書く以外どんな仕事もやりたくないと思っていたのに、いやいや働かなければいけなかったし、結局のところ、小説家以外のすべての職業、どんな職業であっても、自分に向いているとは思えなかった。
私が子供の頃からひたすら望んでいたのは、自分が望むまま読書をさせ続けてくれ、自分にとって不要なものはすべて排除し、私には才能があるのだという事を認めて本を出させてくれる事でした。
しかし、フリーランスのライターとして仕事を始めてからも全然稼ぎがありませんし、電子書籍として販売した自分の本も全く売れていないのです。
私には才能がある筈なのに、この状況はおかしい。
私は毎日毎日そう思いながら眠りについています。
自分が望んだのはただひとつ、小説家として成功する事だけなのに、
別にどうでもいい妊娠出産が叶ったところで、私が生きている意味があるとは思えません。

小説家として成功できないなら、私は何のために生きているのでしょうか?
今まで成功のために頑張ってきたのに、頑張っても頑張っても成功できないんだったら、生きている意味がありません。
何十何百と文学賞に応募したのに駄目で、いろいろやっても全部駄目で、じゃあもうどうしたらいいのでしょうか。

厳しい親も、幼少期のいじめも、成人してからのパワハラも、どれも別にしたくてした苦労ではありません。私は若いうちに苦労はしとけという言葉が大嫌いです、しなくていい苦労をする必要は無いと思うからです。
それもこれも、将来的には小説家として成功すると思うからこそ、それで元が取れると思ったから耐え忍んだのに、それができないと言うのなら、尚更何のために生きているのでしょうか?私は。

子供を産んで育てる事を、小説を書く事よりも幸せだとは思えません。
こんな母親の元に生まれてくる子供がかわいそうだとも思います。
私は夫の事も、子供の事も、小説を書く事よりも重要だとは思えないからです。

Nさん、成功できないんだったら、生きている意味が無いと思いませんか?
少なくとも私はそう思います。
もうこれ以上生きている意味がありません。
今までお世話になりました。
妹の事をよろしくお願いいたします。


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