映画「ヘレディタリー/継承」覚書(ネタバレ注意)

前エントリで「ボヘミアン・ラプソディ」について書き進めるのが無類に楽しかったのだけれど、今作については「感想書きたい」というより「情報をもっと摂取したい!」という気持ちが強いので、個人的なリンク集として、以下書きたいと思う。

言うまでもなくネタバレ、それもホラー映画のネタバレ満載で書いたり貼ったりするので、未見の方、情報なしのまっさら状態で臨みたい方々は留意してね!
加筆訂正も随時行っていくよ!

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■公式
http://hereditary-movie.jp/
普通の映画公式サイトと大きく異なる箇所は「完全解析ページ」なる物語の謎、初見では判りにくい部分をほぼ網羅しているところ。
いわゆる謎はここを読めば大体消える。
「絶対にこのページは未鑑賞の方にシェアしないで下さい!」と大書されているので、よもや「読んじゃったじゃないか!」とバレを怒る人はいないと思われる。軽いパスワード制になっているという安心設計。

にも関わらず志の低い色々な考察サイトでのネタバレはほぼここからコピペしているので、もう何をか言わんや…。お前ら少しは配慮しろよと…。

■ウィキペディア対象ページ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%AC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC/%E7%B6%99%E6%89%BF
何しろ百科事典サイトだから仕方無いがここでも大々的にネタを割っている。
鑑賞後にデータサイトとして割り切って読むのなら有益。

■TBSラジオ アフター6ジャンクション
https://www.tbsradio.jp/321738
「週刊映画時評ムービーウォッチメン」の書き起こし。
宇多丸師匠いつもながらさすがのレビュー。決定的なネタバレ回避しながらよくここまで…。
今回の白眉は「世界を本当にちゃんと呪ってる人のホラー映画」という一言!
まさにそう!
俺も「この底知れない悪意はいったい何だろう?」とモヤモヤしていたのだけれど、そういうことですよね。こんな世界は壊れてしまえという呪詛が一回転して普遍性を持った、そして万人に…万人って事はないか、ある種の精神状態の人々に向けての途方もないカタルシスがやってくるのです。軋みをあげ苦悶にのたうつ、それでもギリギリ自壊するには至らず危うい均衡を保っている世界をグシャグシャに叩き潰す一作だからして、誠に正しい評価だと俺は思う!

■映画ナタリーの記事
https://natalie.mu/eiga/news/306971?ref=ynews
11月7日に東京・ユーロライブで行われた本作のトークイベントで柳下毅一郎が賛辞を送ったという記述。
所謂ジャンル映画としてというより、そこからハミ出た部分の価値について熱く語るという位置づけがとても素晴らしいです。ああ生で話聞いてみたかった。

■米ホラー映画の新潮流と、各作品に潜む「アメリカの罪」【連載】添野知生の新作映画を見て考えた(5)
https://finders.me/articles.php?id=507
FINDERS内、添野知世氏の連載記事。
本作の制作を行った会社「A24」を主軸にした評論。
そもそも映画会社ってどういう事をやるんだろう?
ディズニーや他メジャーはデカすぎてほとんどイメージ掴めない。
これを読むと、面白い事は小さな独立系のところから出てきがち、というのがよくわかる。音楽と同じだな。
『イット・カムズ・アット・ナイト』も観てみたいけど、これ以上心を削られるのはちょっとつらそうだ…。どうしたものか。

■The Strange Thing About The Johnsons(英語)
https://vimeo.com/155016328
監督アリ・アスターの自主制作短編映画。(これ不法アップじゃなきゃいいんだけど…)
エグい!ひたすらエグい!苦痛に満ちた崩壊家族のイヤーな話ですよ。
へレディタリーとほとんど同じ、あるシーンが出てくるので「お、おお…これも監督のトラウマの一部なのか…」と思う。
これは本当にガリガリ削られるので閲覧注意。

■Colin Stetson - "Part Of Me Apart From You" & "Who The Waves Are Roaring For"
https://www.youtube.com/watch?v=BVYeFRPLc74
本作の音楽担当、コリン・ステットソンのライブ。彼の公式に山程音源あるのでぜひ沢山お聞きいただきたい。
作中ずっと流れるあの厭な「ブオオォォッッ」という重低音は彼のこうしたバスサックスによるもの。サックスとは気が付かなかった。

このライブに限らず、サックスとはいっても所謂伝統的なジャズでは全然なくて、もっと実験的な…というかノイズやポストロック、アンビエントに通じる独特な音である。
俺はこの手の音楽はまるで詳しくない門外漢なのだけど、非常に暴力的でパワフルだと思った。耳に痛いノイズもいっぱい出しているのだけど、不思議に静謐な瞬間もあり、なんとも不思議な人だなあ、と。
評する語彙がないので、好き嫌いでしか言えないが、わたくし割と好きかも。
例えば近場のエレクトロニカ系のイベントでこの人が演るなら行く気はある、とか。

音も異様だよなあ…サックスなのにディストーションギターみたいな音だし…。
昔ちょっと聞いてたECMの一連の音に近いものも感じる。
ところで、数年前公開された「メッセージ」の音楽もこんな感じ、不吉なアンビエントとでもいうものだったけれど、今こういうの来てるんでしょうか?

■映画の中で構築され・崩壊し・再生する家族
http://www.fic.i.hosei.ac.jp/~kumasemi/yosiRON.htm
今作「へレディタリー」とは特に関係なく、「家族映画」全般についての記述。

これは法政大学のあるゼミである学生が出したレポートのようだ。
これ一般のWebに上げられてしまっているが、ネットリテラシー的に果たしていいものなのか?
もしかして学外秘なんじゃないだろうか?大丈夫か?
といってももうアップから十数年経っているし、もし本当にダメなものなら幾ら何でもシステム担当部署が削除するか、セキュリティをキツく設けているであろうし、まあ…いいかな?
ゼミ名も作者である学生の氏名もバーンと載っちゃってるけど、俺は敢えて晒さないようにします…。
で、これはずいぶん読みごたえのある評論だと思う。
(少なくとも俺は二十歳そこそこのころは絶対こんな端正な文章書ける頭は無かった)

「私達はなんでまた他人の家族の物語を劇場に出かけてまで観るのか?自分の家族があればもうゲップが出る程知り尽くしてるんじゃない?それでも尚、なぜ?→それは…」
という主旨。
そしてその結論を読んで、まあ、そういう答えになるよねと納得した。そこに異論はない。
異論はないけど、数ある家族映画の中で、所謂ジャンルとしてのホラー映画だけは「観客に恐怖刺激を与える」という至上目的があるので、別に再生を目指す必要がない。
だからこそこの「へレディタリー」は崩壊しっぱなしの惨劇なのである。まったく何の救いも存在しない。
アニーが憤怒に任せてドールハウスを破壊する行為がこの作品の縮図なのである。

このレポート作成者もおそらくは今三十代半ば、家庭を持っている可能性は充分ある。この人が今、本作を観てどう評するか、おそらく更に深まった考察をしてくれると思うが、俺はそれが読みたい。

■Of The Arte Goetia
http://www.esotericarchives.com/solomon/goetia.htm#paimon
例の「ペイモン」の設定上の原典の一つらしい。
その原典がまるまるネットに上がってるとか、なんかもう世も末。
中世なら異端審問で火炙りですわ…。
この「ゴエティア(Goetia)」とは「レメゲトン(Lemegeton)」という悪魔書の一部分であり、全5部のうちいちばん有名なパートだそうな。当ページはさらにその一部、様々な悪魔の紋章が色々載ってる。うわ楽しいぞ。上記URLはページ内直リンクにしたのですぐ見られるよ。「おおっまさにこのマークだ!」としみじみする。
で他の悪魔の紋章もみんなイイ味出してて好きだなあ。
BathinとかVeparとかAmdusciasとか、お前デザインやる気ないだろ適当に書いたろみたいな雑さがあっていいなあ。なんか子供の落書きみたいに見えるものも多くてほっこりする。ペイモンさんはまだまだ真面目なデザインであった。
これ考えた人たち、すげえドキドキしながら作ったんだろうなあ…。
現代視点からすると古代多神教の痕跡が悪魔として変形したり混淆したりして、しまいにはこんな十把一絡げで妙な紋章の設定までされちゃって不憫といえば不憫である。

もし壮大なifとして、今のキリスト教が結局勝ち抜けなくて、なにか他の異教が世界大メジャーになっていたとしたら、ちょうどこのペイモンさんの位置に「ヤハウェ」ちう悪魔の伝説があり、ヤハウェカルトの皆さんはこれはと思う人材を磔刑にして周囲を引かせていたのかもしれんなあ…。

■Paimon Tatoo
あのさあ……ちょっと、どうなのよこれ。

これはリンクじゃなくて適当に拾った画像なのだけれど、うわあ~多分外国人だと思うけどあなた人生棒に振りすぎ!お…終わってる…来るぞ来るぞ……青い光が……

コッ

■青春の光と影(both sides now)- ジュディ・コリンズ
https://www.youtube.com/watch?v=ZFxPpDdwcHU

EDテーマ曲。ジョニ・ミッチェル作。
ジョニのバージョンの方が後年有名になった。今やスタンダード曲。
Jコリンズ版はソフトロック的解釈でひたすらに可愛い。
…のだが、こういう使い方をされると悪意が底無し。
訳詞を御覧下さいな。もう何も言えない。
「私はこれまで人生について全然判ってなかったんだ」
「今それが判った」
心底ぞっとした。

こういう認識に至ったピーター、つかペイモン様がですね、これから何をするかというと、人の世に解き放たれたいま、世界を絶望と混沌に陥れるしかないじゃないですか!その輝かしい出発の賛歌としか思えない。
つまりマイクル・ムアコック「ストームブリンガー」のラストと同じ。
もうひとつ外の枠で考えれば、本作を世に出したアリ・アスター監督が「どうだあ!やってやったぜ!俺の悪意を喰らえ!」とガッツポーズしてるも同然。他の解釈は考えられないと思う。
というか、そういう事でのみ傷が癒えるのだろうね……。
(一方、「デトロイト・メタル・シティの根岸くん」と同じ方法論でもありますね)



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