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どうせ選ぶのならば、一つ上のシソンヌライブを。

シソンヌライブ「neuf」DVDはコードレスの掃除機と似ている気がする。
持っているだけで部屋が少しおしゃれに見えてくるし、何だか人生のステージが上がったような気になる。迷いなく買える値段ではないけれど、買うと決めたら何とか頑張れそう。もしもコード付きの掃除機を持っていたらすぐに必要になるものではないけれども、あれば嬉しい。
そんな気持ちでDVDを待っていた。

このDVDを買った理由の1つ。劇場で見た時に衝撃を受けた1シーンを見るため。客席にいて声が出せず、急に沸いた力が目に伝わってバッと開き、鳥肌が立つような経験をした。5本目のネタ、「老後」。お互い妻を先に亡くした幼馴染が喫茶店でどちらが先に死ぬかを話すネタだ。このネタで、長谷川さんが「先に死なせてくれ」と話す場面がある。このシーンが、ここ半年、私の人生を掴んで離さない。

シソンヌはしばしば「演技がうまい」芸人だと評される。その通りだと思う。ただ、うまいの特徴が異なるのではないかと考えている。じろうさんは「巧い」長谷川さんは「上手い」のイメージ。とりわけこのシソンヌライブにおいて、じろうさんの演技は職人気質の技術や集中力、切替の早さが際立っており、圧倒的な力で観客の心を掴む。じろうさんの演技を評する上で、本人が書き手であることについては考えておく必要がある。演技とは他者を演じるプロセスのことであると考えれば、自分が書いた役を演じることについて、(自分が全く理解できない人物、あるいは演じることができない人物を書くことはあり得るのか)、という問題を孕む。ただ、本人以外の脚本であってもこの巧さは発揮されており、キャラクターの特徴を理解して身体的な表現に落としていく能力は一線を介することが分かる。自らの脚本でも、キャラクターごとに自身との距離感も絶妙に変えているのだろう。その加減もまた魅力的だ。
一方、長谷川さん。ドラマに出る際などは、ツッコミとしての能力を期待されてキャスティングされる傾向が多い。ドラマにおけるツッコミの肝が「間合い」であると考えると、常に全体を俯瞰して流れを見ることが必要で、自分の役から離れて芸人の意識に変わる時間が多くなるのではないかと考えている。役とある程度の距離を保って、自身の意識を覗かせる塩梅の上手さ。そしてそんな中で、ふとキャラクターの方にぐっと入り込む瞬間が素晴らしいのだ。
「老後」のネタは、簡単にまとめてしまうと、おじいちゃん達のどちらが先に死ぬか対決の話である。互いに相手を長生きさせるために薬を貰ったり病院を予約したりする。ネタの後半、長谷川さん(の役)が頭を下げて、自分が先に死にたいと言う。この淡々と話す姿は、体が一回り小さくなったように見えて、迫るものがある。普段のツッコミとしての役割は仕舞われて、演技が立ち上がる。軽快なツッコミも良いが、このような一瞬の煌めきを掴み取って握りしめ、零れ落ちないように時々見つめる瞬間が堪らない。DVDを持っているということは、この瞬間を常に手にしているということだ。

先日、初めてコードレスの掃除機が家に来た。有線のものは壊れていなかったが、階段を掃除する時に少し不便だと思って買ったものだ。買ったあとは見事にコードレスしか使っていない。場所を取るし、充電は必要だけれど、買って良かった。今まで絶妙に届かなかったり、延長コードが必要だった場所にも手が届く嬉しさがある。「今全然間に合っている」の上には思ったよりも余白があった。
「他のDVDがあるから」「今もう趣味の時間は間に合っているから」そんなことがあったとしても、シソンヌライブneufのDVDは、生活を少しランクアップさせてくれるだろう。
あと、パッケージがシンプルでおしゃれなので、インテリアにも良し。買って損はないです。


追記
「老後」のコントは、じっくり見たいので、あまり疲れていない時に腰を据えて見ています。一本目のクラブのコントは出掛ける前に見て、一緒に拍手したり踊ったりして気分を上げる様。

(もしここまで読んだ方がいれば、是非ハート頂けると嬉しいです。)


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