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悲劇の10連敗を超えてーーUSGの姿に見た"努力の形"

日本のeスポーツは弱い。

それは業界において用いられやすい言葉であり、実際、様々なタイトルを見れば見るほど否応なしに感じられてしまう言葉でもある。
僕も、往々にしてそう感じてきた。勿論、べらぼうに弱いわけではない。国内にも、ゲーム内のランキングでトップをとる選手は多くのタイトルで存在する。

しかし、である。日本には何かがーーあと一歩が、足りない。それが何かは分からないが、世界の舞台で勝ち進むトップチームと日本のチームとの間には、漠然として、それでいてれっきとした、言い得ない壁がある。とは、誰しも思ったことのあることだと思う。

ジャンルによっては、日本が非常に強いゲームもある。格闘ゲームなどに多くあてはまるだろうか。もっとも、その数少ないタイトルよりも圧倒的に、実力の不足しているゲームはある。それは確固たる事実だ。

これには、多くの意見が寄せられている。
やれ、資金の不足だのやれ法律の問題だの、やれ選手の雇用状態だの。粗探しは尽きない。それらは確かに明確な問題ーー実際的な海外との差ーーであろう。

問題はある。だが、それは各チーム、各選手が解決すべき独立した問題である。普遍的な課題、というのは定義し辛く、また定義したところでその問題の解決がきっぱりと日本のeスポーツを強くするのか。僕は、甚だ懐疑的である。

無論、日本に生まれeスポーツを愛した身としては、日本チームにはもっともっと活躍してもらいたい気持ちはある。世界の舞台で日本チームが栄光を手にするーーあわよくば自分のこの手で、或いは直接的な関与を通して。そんな夢想は否定しない。いや、否定できない。

しかし。僕たちは多くのタイトル全てに直接関与できるわけでもなければ、たった一つのゲームのプロになる夢さえ、多くの場合叶わない。
故に、その輝かしい舞台に立つ選手たちに期待を寄せ、夢を抱く。

AOV、というゲームを御存じだろうか。正式名称をArena of Valor。日本語では伝説対決とも称される、スマホゲームだ。

内容はオーソドックスなMOBA。幾らかMOBAを触ったことのある人には非常に馴染みやすい、良い意味でカジュアルなゲームとなっている。

このゲーム、かなり大々的にeスポーツの大会を実施している。それが、年に二度開催される世界大会、AWC(Arena of Valor World Cup)とAIC(Arena of Valor International Championship)である。

本稿では、現在行われているAIC2019に関して、日本代表であるUSGがいかなる活躍をしたのか、それがどれほど素晴らしいことであったのか。心から彼らの姿に感動したために、僭越ながらそれをより多くの方に届けたい一心で書かせていただく。

AWCの悪夢

実はこのAOV、日本でリリースされる以前から、東南アジアを中心に人気を博していたゲームだ。なんと、日本リリースされる前からユーザー数は2億を超えていたとか。2018年の11月に日本で配信されたのに対し、海外では少なくとも1年以上前から配信されていたらしい。

言うまでもないが、これでは日本と海外との差は計り知れないものになる。さらに、日本で配信された時に当てられていたパッチは、海外の最新パッチとは大きく乖離していた。
そこには、日本で新しく始めるプレイヤーに向けたテンセントなりの戦略があったのだろう。競技シーンとして発展し複雑化された海外の最新パッチと比べると、日本のパッチは簡素で分かりやすいものだったといえる。そして、その戦略は極めて合理的なもので良い判断であったともいえる。

そうして日本国内でもAOVは発展していき、今年の4月には国内最強を決める公式大会、日本代表決定戦シリーズが行われた。

そう。日本代表決定、である。この大会で優勝したチームは、7月に開催される世界大会、AWCに出場できた。

実は、僕がAOVを始めたのは丁度この日本代表決定シリーズが終わったころで、当時はさらさら興味もなく、大会の存在さえ知らなかった。ふとYouTubeの公式チャンネルを見つけたことで初めて知った。

海外ではAOVがもっと流行っていてもっと進んでいるなどとは知らなかった僕は、国内最強のチームのご尊顔でも伺おうかと、何気ない気持ちでその動画を見た。

待ち受けていたのは、衝撃だった。

僕が見たのは、いや、見せられたのは、あるチームがほかのチームを蹂躙しているようなーーそんな光景だった。

そのチームの名こそ、Unsold Stuff Gmaing、いわゆるUSGだ。(当時はBlizzard)

日本でも最高の選手が集まったこの大会の中で、このチームだけは素人目にも突出して見えたし、実際結果でも突出していた。なんと、真に日本一が決まる決勝戦、四本先取の戦いにおいてUSGが落としたのはたったの一試合だけである。

このチームは、ミクロ(各選手のキャラを動かす個人的能力、PS)においても、マクロ(試合の動かし方、チーム全体の戦略)においても、まさしく格が違った。恐らく、何度戦ったとしてもUSGが優勝していただろう。そう思わせるほどのものだった。

その時に僕が抱いたのは、ほのかな期待感だ。

このチームなら、世界大会の舞台でも好成績を残してくれるだろうと思った。そう思うと俄然AOVに対する意欲は盛り上がり、僕が始めた5月の頭からAWCが行われた7月までの間に、僕は実に500戦以上もゲームをプレイしていた。ことを記憶している。それだけ日本代表に夢を託し、AOVの魅力に憑りつかれていた。

そして始まったAWC。そこで僕が見たもの。それは、

あの最強のUSGが、為す術もなくぼっこぼっこにやられる。そんな姿だった。

まず、驚愕した。初めて日本代表決定戦シリーズを見た時以上の衝撃だった。
次に、目を疑った。ここまで明確な壁が存在するのか、と。そこには、僕の心を躍らせたあのチームの姿は見る影もなかったのだ。
そして、落胆や失望、或いは無気力とも言える、形容しがたい虚無感に襲われた。

最初に対戦した相手チームが悪かったわけではない。事実、USGはその後も続くリーグ戦、計10戦の全てに敗北を喫した。その全てが、完敗というわけではなかった。しかし、比較的良かった試合だとしても、それを称する言葉には善戦や奮闘という言葉が似あう。そこには海外チームとの溝があった。底の見えない、深い溝が。

勿論、その結果には様々な要因がある。そしてその要因は、ある種仕方のないものでもあった。

当時の日本のパッチは、幾ばくか海外のものに追いついていたとは言え、まだまだ不完全なものだった。しかし、世界の舞台で適用されているパッチは当然ながら最新のものであって、日本のパッチとは大きく異なっている。

特に重大な問題は、キャラクターの種類だ。日本のサーバーには存在しないキャラクターが海外には跋扈していた。日本チームの選手たちは、向こうに滞在していた期間、その未知のキャラクター達を時間の許す限り練習したであろう。試合の中でも、十分とは言えないのかもしれないが、問題がない程度にそのキャラクター達を使いこなしていたと思う。だが、それはあまりにも大きな差だ。他のチームが当然知っていることを、何一つ日本のチームは知らなかったのだから。

配信された時期、というのも非常に大きい要因であっただろうことは、想像に難くない。日本の選手たちが半年ほどしかAOVをしていないのに対して、海外の選手たちは1年も2年もプレイしているのだ。その間に培われた経験、ノウハウの差は一朝一夕に埋まるものではない。

さらに、ダメ押しがある。それは、日本チームを支えてきたエースジャングラー、HipPiii選手の欠場だ。大会の日程との都合が悪く参加できなかったらしい。その穴に入ったのがSota選手である。彼は日本代表決定戦シリーズ決勝にてUSGとしのぎを削りあったチームのジャングラーだ。

彼の実力が不足していたとは思わない。寧ろ、彼はあのHipPiii選手に優るとも劣らない選手のように、僕の目には映っていた。しかし、即席のチームということは連携の大切なAOVにおいて不利益であるのは間違いない。

これらの要因から導き出された日本チームの大敗。それは仕方のないことであったかもしれないが、僕には、悲劇のように感じられた。悪夢を見る気分だった。なんせ、この半年後に日本がこの舞台で輝く姿など、到底イメージできなかったのだ。それほどまでに絶望的な惨敗を、今でも忘れられない。彼らのその姿に、僕まで悔しくなった。

日本のAWC挑戦は、こうして幕を閉じた。僕も受験生の身であったために、ここから少しづつAOVとは距離を置いていった。

悲劇を超えて

それからはや4ヶ月。先日11月5日から冬の世界大会、AICが始まった。

実は、それまで僕はAOVの公式の動向を一切追っていなかった。だから、僕がそれの行われているのを知ったのは、まったく偶々だったといっていい。

正直な話をすると、僕はほとんど期待などしていなかった。日本サーバーもかなり海外パッチに追いついたということは風のうわさで聞いていたが、半年も経たずに、あの絶望的な状況が好転するとは思わなかった。

ほとんど暇つぶしのように見ていた。相変わらず海外チームは集団船が上手いな、とか、スノーボールが綺麗だな、とか。とりとめもなくそんなことを思いながら。

そうしてリーグ戦2戦目、USGの試合が始まった。

1ゲーム目。USGは、負けた。えらそうな言い方になってしまうが、AWCの時より上達した感じはあった。
僕自身は、素人もいいところだ。でも、一応MOBAはやってきた方で、AOV自体もビギナーは抜け出しているくらいだろうか。その僕の目には、漠然とだが、USGの成長が感じられた。

でもやはり、冒頭に述べたような何かが足りていない。そんな念も抱いた。

AICの予選はAグループとBグループに分かれている。それぞれ6チームずつ、総当たりで2ゲーム行う。2ゲーム終えた時点で1本ずつ取り合っても3戦目は行われず、全てのマッチが終わった時点での勝ち数に応じて順位が振り分けられる。そして、両グループ上位4チームが決勝トーナメントへと勝ち進む。

そして、USGの2ゲーム目が始まった。序盤はどちらが優勢ともいえない状態。惜しい場面はあったが、あと少し足りずにキルにつながらなかった。歯がゆい気持ちでいっぱいだった。

だが、あるプレイを境に戦況は一変した。ここでは内容を掘り下げないが、簡潔に言うならば、ピンチをチャンスに変えた、とでもいうのだろうか。AWCの時に嫌なほど味あわされた、人数有利を作られ、奇襲によって一瞬の間にキルが奪われてしまうようなシーン。そこで、USGは逆にカウンターを決めてのけた。

僕はピンチが訪れた時点で、あぁ、またか。そう思って、諦めた。でも、彼らは諦めることなんてしなかった。寧ろ、そんな僕をあざ笑うように、実に鮮やかなーーまるで海外のトップチームのようなーープレイを見せた。

そこから、USGは試合の流れを掴んだ。USGのキルが続く。実況にも熱が入る。自然、僕の意識も画面に吸い込まれる。

そして、その時は訪れる。

決して、不意の来訪ではない。MOBAの勝利とは、劇的なものではなく、計略的なものだ。有利な状態を作りつづけ、リードを広げていき、最後に自分たちが勝てる状況で敵を排除し、コアを破壊する。それは大逆転とか刹那の決着ではない。故に、ある程度プレイしていると、大概の試合で、大体どっちが勝つのかは想像がつく。

実際、USGの勝利はほぼ確信的なものだった。或いはそれは僕の経験が浅いだけなのかもしれないが、少なくとも僕には、順風満帆に思われた。

なのに。僕は、分かりきった勝利に一人、感動していた。

それは、形勢逆転をしたdejiwo選手とslashmoon選手のスーパープレイに?そこから見事にキルを連ねたゲームメイクに?それとも、AWCの雪辱を晴らした為に?

それも、あるかもしれない。でも、もっと大きなものがある。そしてそれは、いつかの見えない壁なんかとは違った、実際的なものに対してだ。

選手の様子を映すカメラから見えた、選手たちの静かな、それでいて確かな喜びの表情に、だ。

USGの選手はかなりクールだ。笑わないわけではないが、感情豊かな感じではない。勝った時も、その冷静さは変わらない。大げさなガッツポーズはない。視聴者の僕はしていたのに。選手としてはたいへん頼もしいが、どうも視聴者としては、もっと喜んでほしかったりもする。

だけど、隠しきれていないその喜びは、きっと誰の目にも感じ取れるハズだ。それは悲願の達成のようなものなのだと思う。勿論プロである彼らが目指すのは優勝だ。だが、それは目標であって、悲願ではない。

一体、彼らがAWCの後にどう感じたのか。それは僕には分からない。もしかしたら、仕方のないことだと諦めていたかもしれない。でも、いつか帰ってきてやる、と。そしてその時はーー絶対に、勝ってやる、と。

そう思うのは普通で、そのために努力するのは当然で。それは間違いないもののハズで。

今回からUSGに正式に加入したSota選手は、元々はジャングラーだったのに、今大会ではミッドレーナ―をしていた。その仕事ぶりは見事だった。味方のピンチを、持ち前のスキル精度で何度も救った。ギリギリの体力をキープして、もはやなぜ生きているのか驚き呆れるシーンもあった。また、今大会から始まった1vs1の別トーナメントでも、見事勝利を収めている。

彼はプロだ。センスは、僕なんかとは桁違いなのだろう。

でも、そんなプロたちが集まる世界の舞台で、そう易々と勝利を勝ち取れるだろうか。そんなわけはない。
どの選手もきっと、心から勝利を渇望して、努力してきたに違いない。応援してくれる視聴者の為に。共に歩んできた仲間の為に。

そして、己のプライドの為に。

日本が勝ったその瞬間、その一瞬のーーたった一勝のーー優勝のための小さな一歩のーー中に、そんな、計り知れない努力の片りんを感じて、僕は感動したのだ。

あの悲劇から。あの悪夢から。条件がそもそも不利な状態で。日本が悲願の一勝を果たした。それは、どれほど偉大なことであろうか。

努力は大切だ。努力なくして、夢は掴めない。そして、誰もが皆努力している。だから、努力の成果はありありと現れてはくれない。

努力はその過程が美しいのだと言われる。それは間違っていない。確かに、成功者はみな努力をしているなんて言われる。頑張って、必死になって、やっと見える景色がある。本当の喜びを、そして悔しさを、知れる。

だが。それでも、期待を背負う者には、それを成就させなければならない義務がある。夢を託される、それが一方的に背負わされたものであっても、背負い、努力しなければならない。

なんと重いものだろうか。僕には想像できない。

だが、彼らは見せてくれた。その努力を、勝利という明確な形にして、僕たちに教えてくれた。証明してくれた。俺たちはここまで努力をしたのだと、夢を果たしたのだと。

僕は、その姿に、彼らの現した努力の形に、感動したのだ。

その後USGは予選を4位で突破、決勝トーナメントにコマを進めた。そして、グループAを一位通過したチームに対し、4-3で惜敗を喫した。それは前回大会と比べれば快挙である。途中、誰もが負けたと思った試合も、逆転勝利を収めたりと、興奮冷めやらぬ激戦だった。

いつかの悪夢の影は、どこにもない。僕を感動させた彼らの姿は、たとえ負けてしまったとしても、とても誇らしいものだった。

きっと彼らは、次こそ優勝を持って帰ってくるだろう。僕は確信し、夢を託している。

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