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小説:母斑〜Vofan〜 chapter5

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『行夢』と書かれた表札の下にあるインタアフォンを押すと、小柄な年配の女性がにこやかに出迎えた。サトコが女性に挨拶すると、部屋の中に案内された。マンションの一室で洋裁教室を営んでいるその女性の名はマアシャといった。マアシャは大手のアパレル会社のデザイン企画部で長年パタンナアとして働いた後、独立してこの洋裁教室を経営しているのだった。この教室を見つけたのはサトコの母親だった。サトコが祖母のミシンを引き取った時に、洋裁を習いたいと呟いたのを母は覚えていたのだった。サトコの母も若い頃に洋裁教室に通っており、サトコの幼い頃はよく母親に洋服を作ってもらったのだった。サトコは母親から紹介してもらってここを訪ねたのだった。
 部屋は8畳程のワンルウムで、真ん中には大きな作業用のテエブルがあり、その周りでニ名の生徒が椅子に座って作業していた。壁側には業務用ミシンが二台とロックミシンが置いてある。サトコはメガネをかけたショオトカットの中年女性の隣に座り「こんにちは、よろしくお願いします」と声をかけた。中年女性は人なつこい笑顔で「こちらこそ」とサトコに言った。その時、サトコはその中年女性のスカアトの裾が血で染まっているのに気づいた。
「あ、あの」と、サトコかびっくりして戸惑っているのを、マアシャが気づいた。「あら! アマノさん大変、血い出てるわ」とマアシャが言うと、そのアマノという中年女性は出血に気づいて立ち上がり「あららら、先生ごめんなさい! わあ、どないしよ」と慌てふためいた。「大丈夫よ、私の着替えを貸すから、さあこっちへ」とユニットバスルウムにアマノを連れて行った。
 サトコはもう一人の生徒らしい中学生くらいの大人しそうな女の子と顔を見合わせると困ったように声を出さずに笑い合った。しばらくするとマアシャとアマノが戻ってきた。
「お騒がせしてごめんなさいね」とアマノが言った。
「お腹に爆弾を抱えていて、それがたまに爆発しちゃうのよ」
「爆弾ですか?」とサトコがアマノに言った。アマノは笑ってうなずき何も言わなかった。

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