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Vol.31 デュッセルドルフの一杯のラーメンが日本人としてのアイデンティティを回復させた


bonjour!🇫🇷毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。

このフランス滞在記は時系列が行ったり来りするのですが(笑)、ここからはちょっと戻って2020年の年始。日本からきた友人S君とリヨン空港でお別れしたのち、ドイツ・デュッセルドルフ、オランダ・ナイメーヘンへ友人を訪ねに行った話。


2020年1月某日。
年が明けて早々、ドイツのデュッセルドルフへ向けて飛び立つ。
クリスマス休暇は長いけれど、お正月休みは短いヨーロッパ。ちょっと急足で懐かしい人たちのもとへ。

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娘のお腹のご機嫌をとるために飛行機に乗る直前、大急ぎで買ったクロワッサン。どこに行ってもあるチェーンのブーランジェリーのやつなんだけど、美味しかったなぁ。懐かしい。


デュッセルドルフの空港へ降り立つとまずはレンタカー会社のカウンターへ。ぶらぶらと娘の徘徊欲を満たしながら、鍵の受け取りを済ませると、まるで迷路のような駐車場ビルに入り、ずらりと並んだレンタカーの中からこの日乗る一台を探す。

全部同じじゃん(笑)。

どれよ。

あ、あった。これだ、これ。

車を見つけると、ささっと乗り込んで、Googleマップの地図を頼りにGO!
それにしても、なんて便利な時代なのだ(助手席で紙の地図を広げて夫と二人迷宮ドライビングした新婚旅行が懐かしい)。


この日はパッとしない空模様だったけれど、さすがメルヘンの国。
所々に立ち並ぶ愛らしい建物は物語の世界さながらで、私の胸をキュンとさせた。

「ここ、曲がる!?まっすぐ!?」

・・おっといけない。フツフツと湧いてくる写真欲をこらえ、今はスマホのグーグル先生のナビ画面をしっかり見よう。ナビをしながら時折後部座席でぐずる娘をなだめすかしつつ、頭の残ったほんのわずかな容量で通り過ぎる情景を追う。


すっかり日が暮れた頃、デュッセルドルフの夫の大学の先輩の家へ到着。

温かい笑顔で迎え入れ、案内してくださった部屋はヨーロッパの可愛らしいつくりではあったけれど、どこか日本らしい雰囲気にホッとした。
やっぱり部屋は住む人たちの雰囲気が移るのだ。

夫たちはオーケストラ部の先輩後輩でもあったので、音楽の思い出話に花が咲かせ、それはもう嬉しそうにしていた。時折隣でチラリと顔を覗き込むと、束の間のお父さんでも夫でもない顔に「こんな顔もするんだなぁ」とちょっと新鮮な気持ちになった。

また、お互い子供連れの海外勤務なので、現地での生活や、引っ越しの大変さ、現地での教育のこととか、仕事の仕方の違いなどなど話題は尽きず、テーブルの上にこんもりとあったお菓子はすっかりきれいになってしまった。

おっと。
時計をみると、そろそろお暇の時間。

帰り際、せっかくだからと写真を撮ろうということになって、並んで娘を肩車する夫たちにカメラを向けた。その時、ふと壁に目をやると子どもたちと描いたであろうにじみ絵が飾ってあった。奥様に聞いてみるとシュタイナー教育に関心があるとのこと。やっぱり!

そうだ、ここは本場だ、シュタイナーの国だ。いいなぁ・・。
いつものことながら、帰る前に話したいことがどんどん出てきてしまう。

玄関のドアを開けると、日は落ち、辺りはぽっとり夜の闇に包まれていて、温かい部屋の空気にもう一度戻れと言わんばかりの寒さが押してくる。肩をブルブルっと震わせ争いながら、何度も振り返り手を振って、冷たくて軽い車のドアを開けた。

車が走り出した途端、前方に現れた古い石造の教会の残像が私たちを見送っていた。


さて、デュッセルドルフは日本人が多く滞在する街で、繁華街には美味しそうな日本食屋さんやラーメン屋さんが軒を連ねる。ラーメン大好きな夫にはもうたまらない。

夫のラーメンセンサーを頼りに、ここだ、というお店の行列に、寒空の下並ぶ。
食事を済ませ、店から出てくる人の白い息からは美味しくて懐かしい匂いがした。そして、待ちに待ったお店に入る順番がきて、ドアを開けるとその匂いは、はっきりと迫ってきた。こ、これは・・この匂いは・・・!!

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唐揚げにレモンをキュッと絞り、ハイボールで乾杯。
そして、待ってましたの主役、ラーメンが着座すると、まるで魂が求めるかのように箸をつけた夫と私。


しばし悶絶。

・・う、うまい・・。

うますぎる・・(泣)。

ツヤツヤと立っている白米がまた、甘くて、う、うまい・・(泣)。

これこれ。これですよ。


まるで私らしさを忘れていた胃袋が、かつての自分を思い出すかのように。
この日のラーメンは、五臓六腑、本当にしみました。


日本のものを食べる機会が減って、おそらく無意識的に日本人としてのアイデンティティ喪失を体験していたのでしょう。

それを瞬時に補正してしまった一杯のラーメンは、図らずも日本人としてのアイデンティティを取り戻すようなソウルフードだった。


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