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Vol.37 書きたいことがないときは、書きたいことがないってことを書いたらいいじゃない。


途中バカンスを挟みつつ、毎週書き続けたフランス滞在記は今号で37回目。

わたしは頭の中がとっ散らかっていて、いつも何かしら言葉が漂っている人間なので、正直、書きたいことがないということがあまりない。いつも何かしら書くことがある。ただ、テーマを絞って連続物を書いてみるとわけが違う。
「書きたいことがない」という波が何度かやってくるのです。逃げ道がないから。

ちょうど今がその時で、「フランス滞在記」という絞られたテーマに関して、書きたいことが浮かばない。今までちょいちょいそういう波は来たことがあったけれど、今回の波はそれらよりちょっと大きい。

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外気のせいだよ。また寒くなってきたらフランスにいた時のことを思い出すよ(フランス滞在期間は一年の中で一番寒い時期だった)。だからさ、冬までバカンス取れば良いじゃない?そうしたらまた書けるようになるよ。

そんな風に思考は冬までの長いバカンスを推奨してくる。無理に続けなくても良いんじゃない?ちょっと休んでさ、のんびり書いたら良いじゃない?と。
うむ。それもそうかもしれない。たしかに無理くりやり続ける弊害ってものもあるだろう。しかし、フランス滞在記に至っては「こんな時こそあえて書き進める」という方法をとってみている。そして「あぁ書けない」の波が来た時は、こんな風に問い返す。

「そもそもなんで君は滞在記を書こうと思ったのかい?」

すると、だいたい面白い発見がある。まるで順調に書きたいことことがあるループにいるときには影を潜め、密かに醸造されていた何かがむっくりと顔を出してくるかのように。そやつを発見すると、身体の奥の方からざっくりと大きくかき混ぜられるような感覚が起こって、新しく何かが循環し始める。それで、そうかそうか連続物を書く上ではこの「書きたいことがない」という体験も全て折り込み済みなのだなと唸ってみたりする。むしろ、書きたいことがないという体験のために書いているといっても過言ではない、とさえ思うこともある。

だから「書きたいことがない」という時は書かない・休むということを選択するんじゃなくって、とりあえず「書きたいことがないです」っていうところから書き始めてみたらいいんじゃないかと思うようになった。そんなわけで今まさに「書きたいことがないです」ってことをつらつらと書いてみているのですが、気づいたら1,000字を超えた。

何だよ書きたいことがあるじゃないか

と、さっきまでお休みを推奨していた自分が呆れ顔でつぶやく。


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そういえば一年前、フランスにいたあの頃の自分も同じような感じだった。
当たり前にドライブしていた日常に突然ノスタルジーを覚えるようになって、溢れかえっていた言葉がどんどんと消えていき、静寂の中に引き摺り込まれるという混沌の中にいた。

それでも、とにかく手足の動きだけは止めずにいようと思いながら過ごしていたあの頃の自分と、今の自分はとてもよく似ている。

そう。似ているのだ。
そうか、わたしがフランス滞在記を書く理由とは、あの頃と今を自由に行き来できる道を作るためなのかもしれない。それはずっとずっとやってきたことだ。
過去を丁寧に振り返るのは、過去現在未来と点として存在している時間同士に関わり合いを持たせて、一直線に感じられる時間軸をぐるっと円で捉えて自由に廻れるようにしたい。とわたしはずっと望んできたのだ。

今回の「書くことがない」の波はそんな気づきに連れて行ってくれた。


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