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144. ゴミと一緒に引っ越すなんてごめんだ!

Bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日に更新のフランス滞在記をお届けします。
今号は、これらの記事の続き(↓)。
フランスでのシンプルな生活を経てコロナ禍に日本に帰国。疲労で起き上がれない状態でふと、自分がずいぶん多く物に囲まれていることに覚えた違和感。

さらに、これらを管理しているのはわたしなんだという事実に直面して「なんでわたしが!?」と湧いてきた怒り。

この後、家族会議で引越しをすることが決まったのですが、「この荷物をそのまま段ボールに詰め込んで引っ越すなんてごめんだ!」と、こんこんと止めどなく湧いてくる怒りを原動力にし、人生最大の断捨離祭りが繰り広げられるのであった…。


2020年4月末。
日本に帰国したら、わたしたちは住み慣れた里山の小さな一軒家を出なくてはならないことになっていた。フランス滞在記中、この家の大家さんが急逝されたのだ。それで、今まで賃貸として貸しだいていたこの家の管理が大変なため、売りに出したいというのが理由だ。

でも、こんな状況だからもう少し住んでいても良いという大家さんの奥様のお優しい配慮もあったものの、グッと腹を決めて、わたしたちは新しい住まいと生活を始めることにした。

さぁ、引越しだ。
いつもは友人知人に応援を呼びかけて自分たちで引越しをするのだけれど、時は2020年4月。まだまだ得体の知れないコロナウィルスというものの恐怖が世界中を折檻していた真っ只中だった。

仕方がない。
こういう時は業者さんに頼るしかないだろうと、とりあえず、引越し業者の価格比較のサイトで見積もりを出してもらうことにした。が、しかし。これがまた大変だった。サイトに登録した瞬間からひっきりなしにかかって来る営業電話。まるで借金の取り立てのようでこういうのに慣れていないわたしたちはコロナウィルス以上の恐怖を覚えたのだった。

もう面倒くさいので、そこそこ安そうな大手の業者に決めて、すぐに見積もりにきてもらうことになった。まあテンポが早い早い。翌日ぐらいだろうか、業者の車が我が家の駐車場に停まって、元気よく従業員の方が出てきたかと思えば挨拶もそこそこに靴をパッと脱ぎ落としてどんどん家の中に入ってきて、あーだこーだと言いながら価格交渉に進む。

今日中に契約するとお安く済みます、云々。気持ちがついていかないまま目の前で繰り広げられるセールストークにポカンとしてしまった。

まるでベルトコンベアに乗せられたような複雑な気持ちで、玄関で無造作に脱ぎ捨てられひっくり返った靴を見つめながら、摩擦の強いモヤモヤで胸がいっぱいになった。そして、業者さんの車が帰るやいなや、夫と顔を見合わせた。

「やっぱり、やめよう。自分たちで引っ越そう」

いつも通り段ボールを買って、さぁ荷物を詰めていこうという段階でまた胸がモヤモヤしてきた。

いやだ。
絶対にいやだ。

この家の中のものをそのまんま詰め込んだこの段ボールが、新居いっぱいに並んだ様子を想像するととてつもなく嫌な気持ちになった。
そこで夫に、言った。

「ねぇ、断捨離してから引越ししない?」
「…え?」
「フランスから帰ってきて、この家にあるものは不用品ばっかりだって気づいたんだよ。これをそのまま、新しい家に持って行くなんて、わたしはいや!!」

——ゴミと一緒に引っ越すなんてごめんだ!!

腹の底からはっきりとそう叫ぶ声が聞こえた。


「…うーん……」

夫はとても困っていた。
彼としては、早くネット環境の安定した場所に移り仕事に集中したかっただろう。
しかし、譲らないわたしに渋々首を縦に振ってくれた。

つづく。

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