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期待のない心にこそ降り注ぐチャンスがあるらしい

それは金曜の朝だった。 私はマッチングアプリでほぼ同時にマッチした2人のアメリカン男性とメッセージを始めていた。そのうちの一人が、27歳のエディだった。

マッチングアプリは挑戦してはその度に嫌気が刺して削除するというのを今までもう4、5回は繰り返していた。その度に…もう二度とやるものかと思うのだが。 今回は、リアルな日常での出逢いで何度かちょっとした恋をしたのだが上手くいかず、傷心気味なところで再びマッチングアプリを試すという経緯だった。 正直なところ、日常を活性化させ合えるような趣味のパートナーを見つけられたら良いなという思いが大きかった。 それはピタリと来るような異性との運命的な出逢いに諦めがあったからなのだと思う。

私はその金曜日、予約していたネイルサロンで気持ちの良い時間を過ごした後、今夜出かけようかどうしようかと迷っていた。 なぜか金曜の夜は出かけたい気分になる。 身体を壊して引きこもりがちだったので、無料のダンスレッスンイベントに行きたいと思っていた。 夕暮れ間近、マッチしたばかりのエディに今夜の予定を聞く。ナイトクラブに行く予定だと言う。きっと友達と金曜の夜を楽しむのだろうと察した私は、「このダンスレッスンに行こうと思ってるんだけど、あなたは予定があるみたいだから、他の人を探してみるね!」と返信。するとエディから「ナイトクラブなんて行くのやめた!そのダンスレッスンに行きたい!ずっと前からダンス習いたかったんだ!」という勢いのある返信が。彼は友達と繁華街に向かっている道中だと思っていた私は、友達はどうするの?と聞いた。驚いたことに、彼は一人でナイトクラブに行く予定だったと言う。私は急に彼に興味を持った。単独でナイトクラブに行く人ってどんな感じの人なのかしら? ちょっと変わってる人に違いない、と。 そして私達は一緒にダンスレッスンに参加することにした。 私は慌てて身支度を整えて待ち合わせ場所へと向かう。 お腹も空いてないし、呑みたい気分でも無かったので、楽しくダンスレッスンを受けて、1時間くらいで帰宅するつもりで出かけた。 待ち合わせ場所に立っている彼を発見して、うわぁっ!となった。 マッチングアプリで見た彼の写真より本物は遥かにイケメンだったのだ。 アメリカンってつくづく写真写りが悪いのではないかと思う。 真っ白のTシャツの彼を目指して歩く私。 緊張を悟られたくないな、などと考えながら近付き、ハーイ!あなたはエディよね?って声をかける。 笑顔で挨拶のハグ。 他愛の無い会話をしつつ歩き出す。 ダンスレッスン開始の時間まで暫く時間があったので、軽く何か食べようと言うことになる。 居酒屋を見つけて入る。 ビールとおつまみを頼んで談笑。 会って早々彼は「You are beautiful 」と言ってくる。なんか軽い感じの人なのかな?と警戒心が働くが、私を見つめる彼の瞳は紛れも無くハート型になっていた。 照れた。嬉しかった。 こんなイケメンにビューティフルなんて言われて嬉しく無いわけがないじゃないか。 彼は左手に時計をしていたのだが、その時計の隣のブレスレットに気付いて、何気なくそれは何?って聞いてみた。 お守りみたいなものなのかな?と思ったので。 すると彼は「これは時計を買ったら一緒に付いてきたからつけてるだけだよ。欲しいなら君にあげる」と言う。 正直全然欲しくは無かった。 ドクロが付いてるし、可愛く無いし。 ただ、初対面で1時間も経ってないのに、自分の身につけている物を私にあげたいと言う発想に驚いていた。 すごくあげたそうなので、いらないとは言えなかった。 彼はすぐに私の左腕にそれをはめた。 こんな強烈なアプローチされたの初めてだ。 時間になったので居酒屋を出てダンスレッスンへ向かう。 到着すると私達が一番乗りで、他にはスタッフの方しか居なかった。 まだ少し準備に時間がかかると言われたので、エディと私は2人でステップの練習をしてみる事にした。 私はダンス経験があるがエディは全く初めてのようで、動きが辿々しく緊張が伝わってきた。 それでも必死で挑む彼にキュンとした。 暫くすると男女ペアの先生が現れ、基礎のステップからレッスン開始。 約1時間マンツーマンで丁寧に教えてもらった。 レッスン後、彼と私は2人で復習。カクテルを飲みながら楽しいダンスの時間。 彼が至近距離で見つめてくるので、これはキスしたいと言うことなのだろうなぁと思っていたところ、「君にキスをしたいんだけどいい?」と言葉にして聞かれた。 私は受け入れた。 2人とも酔うほど飲んでいないしシラフだった。 私は彼のイケメンっぷりと甘い言葉をすぐに言ってくる事に警戒していたけれど、彼の雰囲気は居心地が良く会話も弾み、何より見た目がタイプだった。 話すうちに驚くような共通点を見つけたり、お互いへの興味が増していくのを感じていた。 彼は「I like you」と言った。 流石にこんなに早々に好きなんて言ってくるということはプレイボーイなんだろうなと警戒心が増す。 初対面の女性にいつもそんな風に言っているの?と問うと、初めてだと言う。 いやいや、信用できません。 でも、彼ともっと話したいと思った。私達は激しい音楽の鳴り響くダンス会場を後にして、再び別の居酒屋へと移動した。 彼が私の手を取る。 手を繋いで夜道を歩く。 私と目線が合うたびに、気持ちを抑えきれないと言った勢いで彼がキスをしてくる。 彼の想いが溢れている。 「君は一体どこからやってきたの?」と何度も聞かれた。 彼にとって私は宇宙人みたいに出逢ったことのない異例なタイプで、とにかく圧倒されていたようだった。 私は警戒心を持ちつつも、既に彼を好きだった。 だから彼に「I like you too」と伝えた。私達が高速で恋に堕ちた瞬間だった。
彼も私も離婚経験があり一緒に暮らしていない子供がいる。  私達はあらゆることを包み隠さず話した。 彼はいつも単独で行動するタイプで、友達に勧められてマッチングアプリを始めたばかりだった。 マッチして会ったのは私が初めてだと言う。 そしてアプリを削除すると言った。 私に出逢えたからもう必要無いと。 話ができ過ぎているようで一向に警戒心は解けないけれど、彼の言っている事が本当なら良いな、と思った。
明日も会おうと言う事になり、私達は名残惜しく抱きしめ合いキスをして帰路に着いた。  こんな衝撃的な夜になるとは思いもよらずに出かけた金曜の夜。 大きな始まりの夜。

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